ショートショート 前健の箱庭療法
ヘルスメイク前健
第1話 正式に、何事も正式に
俺は崩れた言葉を好まない。略称などは論外だ。どんなモノでも正式名称で呼びたい。
スマホはスマートフォンあるいはモバイルフォンだ。PCはパソコンいやパーソナルコンピュータ。ボールペンはボールポイントペン。食パンは主食用パン。ソフトクリームはソフト・サーブアイスクリーム。経済は経世済民。シャーペンはエバー・レディーシャープペンシル。教科書は教科用図書。電卓は電子式卓上計算機。切手は切符手形。おならはお鳴らし……。
中国は中華人民共和国、北朝鮮は朝鮮民主主義人民共和国。
ん? 何?
君はイギリスに行きたいのかね?
それは大英帝国であるとか、グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国だ。
みんなちゃんとしろよ。表現を圧縮するなよ。
まさかタイ王国の首都をバンコクなんて言わないよな?
これは、クルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・マハーディロックポップ・ノッパラット・ラーチャタニーブリーロム・ウドムラーチャニウェートマハーサターン・アモーンピマーン・アワターンサティット・サッカタッティヤウィサヌカムプラシットだからな。
本当にちゃんとしろよな。みんな。
などと、俺は周りに小言をまき散らしていた。
だが……嗚呼……。
俺は偉ぶっていたかもしれぬ。
驕り高ぶっていたかもしれぬ。
突然に、何事も正式な厳格なラテン語で表現、あまつさえラテン語での会話が完璧にできる男の出現により、ごく自然にいきなり俺の立場は失われた。
グッバイ! いや、Good be with you!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます