無人島でもらえる大学の単位取得

ちびまるフォイ

サバイバル基本は工夫と知恵

「みなさん、私の講義の単位を取る方法はただひとつ。

 私より先へ無人島へいくことです」


大学の講義に参加していた全員がノートを取る手を止めた。


「どんな方法であっても良いです。

 とにかく3ヶ月後に私が無人島へ行くまでに、

 先に無人島へ到着していれば単位をあげましょう」


それがサバイバルの始まりだった。


必修科目の「サバイバル」。

人間が文化的な生活で失われた生存本能や工夫する技術。

それらを養うための授業という。


目的の無人島は本土よりそれほど遠くない小さな島だった。

高速船を使えば10分でつくほどの距離。


「なにがサバイバルだ。こんなの簡単じゃん」


さっそくモーターボートをチャーターしようとすると、

地元の漁師があおざめた顔で止めにかかった。


「おいあんた! そんな船であの島へ行くつもりか!?」


「え? ええ、まあ」


「あのへんは波が高くて岸壁も厳しい。

 そんな船なんか使ったらたちまち波に飲まれるぞ!!」


「うそ!?」


試しにドローンを無人島周辺に飛ばしてみた。

あまりの海流に空を飛んでいるはずのドローンが飲まれた。


「こんなの船でいけっこない……教授はどうやって無人島へ行ってるんだ?」


「あの人は特別さ。いつも海を割って歩いて行ってるよ」


「できるかぁ!!」


そんな芸当もできない真人間の自分が、

荒れ狂う波の中を進んで無人島へ到着するのはムリ。


となれば、次に取るべきは空。


「だったら、空から降り立ってやる!!」


最近では個人向けの小さなヘリなども利用できるようになった。

事情を話して無人島へと飛んでもらうように伝える。


「バカ言わないでくれ。あのへんは風が強くて危険なんだ!」


「こっちは単位がかかってるんですよ」


「単位と命、どっちが大事なんだ」


「単位です!!」


それでもイヤだと拒否するパイロットだったが、

家族を人質にとったことでやっと飛ばしてくれるように。


が、無人島へ近づくほどに機体が左右にゆれる。


「うわわわ!? だ、大丈夫なんですか!?」


「言っただろ! この辺は風が台風レベルなんだ!」


「それじゃ適当なところでおろしてください!」


「こんな状態じゃ着陸もできんぞ!」


「はぁ!? それならパラシュート使わせてください!

 こっから飛び降りて無人島に向かいます」


「だから台風並みだって言ってんだろ!

 こんなところで降下したら風にさらわれてどこにいくかわからん!」


結局、ヘリは無人島の上空を旋回するだけで帰ってしまった。


もうどうしようもない。


「ちくしょう! あの教授め! 無理難題を言いやがって!

 本当は単位を渡す気なんてないんじゃないか!!」


なにがサバイバルだ。

なにが工夫だ。


本当は単位に吊られた学生が右往左往する姿を見て悦に浸りたいだけじゃないか。


「やめだやめだ! こんな単位なんて取れっこない!」


単位を取ることを諦めて、大学生活を寝て過ごした。


3ヶ月後。


驚いたのは自分の単位が落ちたことではなく、

友達がサバイバルの単位を取得したことだった。


「え!? お前あの授業の単位勝ち取ったの!?」


「ああ、まあな」


「それじゃあの無人島にも!?」


「行ったよ」


「うそだろ!?」


自分があれだけ努力してもたどり着かなかった無人島。

友達はそこへ足を踏み入れたという。


「いったいどんな方法をとったんだ!?

 めちゃくちゃハイテクな船を用意したのか!?」


「学生にそんな金無いよ」


「それじゃ海底トンネルを掘ったとか!?」


「3ヶ月でできるわけないだろ」


「じゃあ、どうやって無人島へたどり着いたんだよ!!」


「お前、教授が無人島へ行く方法を知ってるか?」


「ああ。海を割って無人島へ毎回行ってるらしい」


「そうそう」


「……それと、お前の単位獲得となんの関係があるんだよ?

 はやく教えてくれよ。どうやって無人島へ先に着いたんだ?」


相変わらず察しの悪い自分に、友達は悪びれもせず教えてくれた。




「教授が海を割ったあと、教授を追い越して無人島へ行った」




その後しばらくは悔しくて眠れなくなった。

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