とある教育ユートピアの物語

まりさろばーとそん

第1話 とある教育ユートピアの物語前史

ゆっくり劇場「とある教育ユートピアの物語」の前史です。「小説家になろう」にて本篇を断片的に掲載してましたが、書くのが大変でそのままにしてました。


これは「とある教育ユートピアの物語」の前史です。主人公は本篇ではNHKのドキュメンタリーのカメラマンかナレーターのような無色透明な存在です。ですが、なぜ「とあるワールド(とある教育ユートピアの物語の舞台)」に来たのか、そのきっかけとなる、物語的に導入部となるお話です。


主人公はよくいる、田舎のヤンキーのようなものです。地方の商業高校出身で、特に高学歴でもない見る所がない一般人です。


元ヤンの大将が経営する居酒屋で10年程アルバイトで働いてます。早寝早起きが苦手なので、昼過ぎに起きて夕方に出勤します。


5時間ほどパートタイムで働いて、そのお金で趣味を楽しむという享楽的な人生を送ってました。


面倒見の良い元ヤンの大将と、団塊の世代の下あたりのパートのお節介オバちゃんに囲まれて、荒野のような21世紀の日本で、まるで20世紀の大衆のようなのほほんとした暮らしを送ってます。昔風の人間はぶっきらぼうで荒いですが、その面倒見の良さやお節介さは、現代日本にとってオアシスのようなものでしょう。


そんな昭和の時代がそのまま継続してる主人公ですが、ある日突然、子どもと遊ぶために不登校の子が集まるNPO法人に遊び半分、お手伝い半分で出入りしていたら、ある人にオルグされてしまいました。


その人は「大衆をこの世界に取り戻す」活動をしてる謎の人物でした。


------セリフ部(支離滅裂です。書いてみただけ)------


「おめーなら汚い事もできる。夢ってのは綺麗事でできてるだけじゃないんだ。ここにいる小僧ども、天使のような純粋さを持ってやがる。やつらにこれを頼むのは酷な話ってだよ。」


「しかし、いきなりそんな汚れ仕事をするわけじゃないんだ。そんなものに最初から染まっていたら、誰も夢なぞ信用しなくなるではないか。まず先に大衆の信任を得る素地を作れ。話はそれからだ。大衆はヤンキーの言葉には耳を傾けない。学問が必要だわかるか?」


ヤンキーコミュニティの周辺部にいる彼女にはよくわかった。ヤンキーは時として荒ぶる先輩や親分の言葉にすら耳を傾けない事を。先輩たちを感化するのは学問なんだね。だから先輩の上司は高学歴の人ばかりよね。と。


「その、学校の勉強は得意じゃなかった。大学にも行ったことはないよ。でも、やつら(ヤンキー)とつるむよりも本を読むのは好きかな?」


「本好きならなお好都合だ。学歴のありなしは気にしない。そもそも高学歴の育ちの良いやつで固めた理想主義を目指してるわけではないからな。大衆、それが今の時代には必要だ。」


「そうか。学歴ないからって気にしないでいいんだね。」


「ただ、これから思いっきりしごかれるから覚悟しとけ。根性があればなおさら良い。」


「うん。根性、あんまないけど。」


「まぁいい。俺の夢、ついてきてくれるか?」


「うん、ぜひ。」


気軽に返事したものの、まったくもって想像の埒外な事が降り掛かってくるとは、この時、誰も想像できなかった。


------続き(本篇の一部)------

「はぁ。大学ってキラキラした男女が素敵な青春を楽しみに行くためにある所だと思っていたよぅ。この大学と似て似つかわしくないここは、(横文字神社のたぬきが経営するでっかい私塾)キラキラどころか毎日密度の高い授業でしごかれる日々なんて誰も想像できないよ。」


中学ン時は部活バカでさ、高校の時はぼーっとしてたな。まともに勉強なんぞした試しがないもの。商業高校出身なのに、現場仕事ばっかやってたもんね。そもそも卒業時点で、低空飛行ですり抜けるような成績しか取れなかったというのは黒歴史を振り返ってしまう。今更嘆いたとてしょうがない。


ペーパーテストなら一夜漬けで何とか誤魔化せそうなものであるが、ここの試験は、なんと泣く子も黙る口頭試験なのである。何時間もかけて何言ってるのかわからないような質問に丁寧に回答していく。一夜漬けを絶対に許さないこの見上げた根性にまったくもって頭が下がる。水をも漏らさないこの態度は、神は細部に宿りたもうとはよく言った話である。


口頭試験はそれまでの授業すべてを理解して咀嚼しているという前提の設問になっている。授業をサボって試験に出る所だけ覚えたという戦法は一切取れない。理解度を測るので、まとめだけ覚えていても無意味なのである。思考力をギリギリまで削られる。


それだけの答えを出力する思考力を厳密に測っているのだが、ザル法的思考に慣れた日本人には悪魔のような制度だ。


本職の弁護士や国会議員とてこんな議論に耐えられるわけがない。これに耐えられるなら国会中継で昼寝するなぞありえない。


ザル法、穴だらけの悪法を作る国会議員を全員逮捕してやる!という見上げた革命精神が湧き上がって来る。それは日本共産党よりも激しいものであるだろう。


排中律という日本人が苦手とする思考をよく使う。


永遠の時のように長い口頭試験の、禅問答のような質問の回答に疲れ果てた頃には、風呂にも入らずにウトウトしていた。


頭の中が禅問答のような回答で本当にくらくらする。しかしその日は疲れていたせいかよく眠れたのでした。


毎日が実に密度が高い。ホラティウスという古代ローマの詩人の言葉に「今日という日の花を摘め」(ラテン語でCarpe diem)という格言があるのだが、だらだらと終わりない日常を生きていた時代とは別世界の時間感覚がそこにあったのでした。


「宵越しの銭を持たない江戸っ子は真理だよ。ほんとにね。」


実に濃密、嗚呼濃密などという渋い声のナレーションが聴こえてくる。


おやすみにゃんこですよ。


------うっせぇ!は無駄な屁理屈を嫌うヤンキーコミュニケーション------


先輩が一言「うっせぇ!」というので終わる事を。屁理屈で脳味噌を鍛える訓練が続く。


ヤンキーは無駄な屁理屈は唱えない。かつて諸子百家の中で「名家」と言われた論理学は中国人には好まれなかった。無駄な屁理屈を嫌うのが中国思想の世界である。ヤンキーもその系譜上にあるが、ヤンキーを「伝統的」と言うインテリもリベラルも存在しない。コンサーバティブというものは、西欧キリスト教から輸入されたもので、意識されず中国思想の思考をしてるヤンキーには適応されないものだ。


毛沢東は共産主義とは何か?とか物事を一言で説明するのに長けていた。中国流の修辞学とは一言で説明する事なのである。


西洋論理学の「名」と「実」が別物だという、カテゴリー論、定義、命名論がわかりにくい。名は必ずしも実を現さないというのはヤンキーにはありえない話なのだ。学術用語などはこの「暫定的な名付け」ばかりなのだ。

 

一体これのどこにヤンキーを説得するパワーかあるのさぁ?


ブツブツ言いながら論理学の理解に励むのでした。


------修辞学と弁論術も徹底的に叩き込まれる------


元ヤンの居酒屋の大将はあまり雄弁な方ではなかったが、義理人情にあふれる人だった。このように、無口だが黙々と行動で表す人を「論語」では理想の人物と挙げられた。わが国の漁師や大工などの職人によくいるタイプである。


西欧は古代ローマ時代の伝統があるので、歴史的に雄弁が尊重され、今も大統領は演説の上手さが求められる。


横文字神社のタヌキが運営するこの私塾でも徹底的に修辞学と弁論術の訓練が行われた。


クインティリアヌス?(古代ローマ時代の修辞学の著書で有名な人)それって美味しいの?とか言ってたのが主人公だ。


その結果、若干不思議ちゃんでヤンキーコミュニティの周辺にいた主人公は、なぜか対人能力が大いに向上したのであった。


------続き------

元ヤンの大将の居酒屋に勤める前の職場にいたのは、そこそこの4年制大学出の係長だった。時々、大学時代の青春を謳歌した話を聞くことがあった。主人公は、勉強嫌いだったので、高校の時に大学というのは勉強という苦行が好きな人が行くところであると勝手に勘違いしてたので、進学校の青春を潰した(かのように見える)風景と、大学に入った後の光景のギャップに非常に面食らった。


係長は就職してからというもの、会社よりも学生時代の方がとても楽しかったと常に言ってたものだった。


そうか。大学というのは、キラキラとした青春を謳歌しに行くところなのか。その後には、有望な就職先も(場合によっては)開けてるので、何ともひと粒で2回も美味しい所であると思った。


しかし楽しそうに見える大学に行くには、沢山の時間と労力と費用もかかるので、お気楽に青春を楽しみたいだけという動機で行くには少々大変な所ではないかと思った。主人公はあくまでも、キラキラとした青春の日々とそれに付随するであろう享楽的な毎日にしか関心がなかったのだろうと思う。なので単に青春を謳歌するなら、大学の高額な学費ですら趣味を謳歌する費用に転用したいとさえ思ったに違いない。私立大学の年間授業料で棚ごと漫画やライトノベルを買ってみたいと思ったことだろう。


しかし、この横文字神社のタヌキが作ったでっかい私塾は、私塾であるのにも関わらず一般の商業塾とかなり一線を画してる。


昔の職場の係長に聞いた昔の大学時代と似ても似つかぬ風景。何というか似て非なる感じがする。


毎日密度の高い授業に水を漏らさぬような口頭試験。知的訓練を毎日ゴリゴリやってる気がする。


元ヤンの大将の居酒屋を辞めてここに行く時、大将は若干胡散臭いものを見る目だったが、いつでも戻ってこいと言ってくれたのだった。


このあたりの元ヤンの大将の判断能力は時々びっくりする程間違ってなかったのではないかと思えてならない。


本当に(ヤンキーの)先輩たちを説得するためにこれやってるのか?何とも想像の埒外な事だと思った。


------続く------

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