僕の双眸
石田くん
二つの目
僕は完全に夏を見切っていた。
正確に言うと、夏に皆が呑み込まれるあの焦燥感の正体を見切っていた。僕はそれを夏の持つ不思議な魅力や夏というものそのものの底にあるものだと思っていたので、それは夏を見切ったも同じことだった。
僕はスピッツを聴いて、アイスコーヒーを飲んで、窓枠とベランダの柵とで区切られた夏の伸びやかな空を二階の自分の部屋から椅子に座って見ていた。
僕の勉強机は南向きの窓に手前側を向ける様にして置いてあり、いつも僕はその机と窓との間に椅子を押し込める様にして、背中に受ける日に遮光カーテンでさよならしながら本を読んだりパソコンをいじったりていた。
だけれども今日はわざわざ机と窓の隙間から椅子を引き出して、窓に向かい合う様にして足を組んで座った。可動式の引き出しをサイドテーブルの様にしてそこにコーヒーと有線のスピーカーを置いていた。スピッツの次に今流行りの歌が流れた。僕はその曲によって急にこの僕の夏に対する達観が安っぽくなった気がしたので、あわててスマホをいじり、そのはずみで自動再生の次の曲が流れた。AIは僕と夏に同じ様な流行歌を提供して、それにげんなりした僕はゆっくり確実に自分のプレイリストを開いて、戦場のメリークリスマスを流した。僕は最近この曲をまともに聴ける様になった。僕は本当に好きな曲は聴くのに体力を使う気がしてあまり聴けない性質を持っていた。この曲は最近慣れた。大好きだった。
携帯が鳴った。好きな娘からのLINEが来ていた。僕の31日の予定はなくなった。僕はなぜこのプレイリストをつくったか思い出した。僕はため息をついた。
僕の双眸 石田くん @Tou_Ishida
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます