スライムさんの生存戦略

HAKU

第1話 スライムさんは生き残りたい

 スライム、それは好戦的でなく、争う術をほとんど持たない種族。

 それゆえに、人間族の子供にすら、狩りの遊びとして、襲われることもある。

 そして、そのスライムも今人間族の子供に襲われていた。


 ーーーーーーーーーー


「おい!キズー、まわりこめ!」


「わ、分かったよ。」


 自分は今、木の棒を持った金髪の人間族の子供と、メガネをかけた黒髪の子供に襲われ、自分はそれを必死に逃げていた。

 木々の隙間をかいくぐり、子供たちの足の間をかいくぐり逃げ回る。


 逃げる事にかけては、自信があった。

 この5年、自分は何とか、逃げて生き延びてきたからだ。今回も、子供たちからは逃げられたようだ…

 と思い、子供達を警戒していたら、自分は何かにあたる。

 確認するとそれは、顔がゴブリン、足は狼、背中には鳥のような羽が生え、尾は猫のようなキメラだった。

 幸いキメラは小さいこちらを見つけられてないようだった、こちらを探している間に自分はキメラの足元を抜けて森の中に身を隠し様子を伺う。

 自分が全速力で逃げようとした時声がした。


「あのスライムどこ行っ…」


「どうしたのガキン…え!」


 先程まで、自分を追いかけていた子供達が、キメラと鉢合わせしてしまった。

 金髪の子供はメガネの子供押しながら叫ぶ。


「お、おいキズー、お前囮になれ!」


「な、なんで!」


「ゆ、勇者のオレ守るのが、支援職のお前の仕事だろ!」


 静かにしていれば見つからないのに、騒ぐものだから、キメラは、子供達に向かって動き出す。子供達は、キメラに怯えてか、座ったまま動かない。


 まぁ、自分には関係ないし、あんなのと関わったら、こちらの身が危ない。

 自分は、キメラに気付かれないように、ゆっくりと離れようとする。


「誰か助けて!!」


 子供の叫び声が聞こえる。

 気がつくと自分は、キメラの右前脚を、抑えていた。

 当然、そんなことしても、どうにもならないと分かっていた。

 むしろ、こんなことをすれば、あの怪物が、自分の方に気づき、こちらの身が危ない。分かっていたが、それでも、そんな行動をとっていた。


「ス、スライム!」


 金髪の子供が、こちらを見て、困った顔をしていた。

 あの顔は確か、人間族の心配の顔だったかな。

 そんなことを思っていると、キメラが右前脚を振り、自分は木にぶつかった。

 あまりにも柔らかい体のスライムに、打撃は効かない、問題はそこではない。

 キメラの目標が、こちらに変わったことこそが、問題だった。

 キメラは、こちらに近づき、右前脚を上げる。

 水のマナを前足に集め、氷の爪を作り出す。

 あんなもので斬られれば、当然、死。

 ああ、 子供達を見捨てておけば、あのまま逃げていれば、自分は生き延びれたのに。

 ちょっとした間違いで、自分は命を失う。

 自分は考えるのをやめ、意識を手放そうとした…

 その時―――


「『他のものを助けるスライムとは、めずらしいですね。』」


 なにかの声がして、そこに意識を向ける。

 そこには、青髪の少女が、空中に立っていた。

 少女は、右手を上げ、正体不明の障壁で、キメラの攻撃を抑えていた。

 マナを感じない、けれど、人間族がよく作るようなもの、でもない、不思議な障壁だ。


「『あら?それにアンタ4、5年は生きているわね?』

 『確か、この世界のスライム族の平均寿命は、2、3年だったか。』」


 少女は何かを呟いている、同じ声、姿も1つ、しかし、出てくる言葉はまるで、別々の人間族が、話す様だ。


「『なるほど、たまたま偶然、逃げる才能が高くて、殺されなかったって所か?』

 『それでまぁ、普通のスライムには無い、仲間意識ってやつに目覚めた的なぁ?』

 『研究のしがいが、ありそうだ。』」


 少女が未だ、何かを呟いていると、キメラが、突然吠え出す。


「『ああ、いましたね貴方。』

 『もうお前に用は、ねぇから、さっさと消えな。』」


 少女がそう言うと、キメラの下に、巨大な穴が開き、キメラは、そこに落ちていく。


「『さて、掃除が済んだところで…』

 『アンタ、もっと生きたい?』

 『ちと、面白そーだから、お前、俺のアドバイスを、聞いてくれや。』」


 少女は、自分の前に着地して、話しかけてきた。

 自分は、ふるふると体を震わせ、少女の意見に賛同する。


「『僕の助言を、聞き入れるって事で、いいかな?』

 『んじゃま、話してやるよ。お前、人間族が、あんな非力で、他種族より長生きしてるか、知ってるか?』

 『知らないみたいですね、彼らは、その非力さを、道具を作り、利用する知恵。』

 『それと、人間族同士で協力する仲間意識で、何とかやってる訳。』」


 自分は、少女のアドバイスが、よく分からなかった。


「『たった5年では、私の言葉の意図が、分かりませんか。』

 『いや、僕の言葉が、回りくどいのが悪いか?』

 『なんでもいいや、俺が、言いたいのはつまり、お前、人間族の真似をして、スライム族の村を作ってみろや。』

 『それで、人間族の真似して、道具なんかも作っちゃったりして?』

 『まぁ、とりあえず、仲間意識があるスライム族は、珍しいのです。協力して助け合えば、結果、貴方を含めた多くのスライム族が、長生きするのではないか。と私は今、考えました。』

 『アンタ、この実験、手伝ってくれるかしら?』」


 少女は、こちらを見下ろしながら、聞いてくる。

 その威圧感、同意しなければ命は無い、そんな予感がして、少女の言葉に賛同する。


 元より自分は生き残りたいのだ。

 その可能性のあることなら、なんでもやるつもりだ。


「『であれば、そうですね、まずは、貴方、人間族に紛れ、その知恵を盗んでくるのです。方法は問いません、貴方におまかせします。』

 『それじゃ、僕は、もう行くからねぇ。バイバーイ。』」


 少女は、そう言うと、勝手に、どこかへ向かっていた。

 村の子供達も、気がつけば、いなくなっていた。

 自分は決意した、人間族の村に紛れ、その知識をいただく、それで、スライム族達で協力して、生き残るのだ。


 ーーーーーーーーーー


 青髪の少女が歩いている。

 すると、赤い髪で、顔は白く、鼻と口、そして目の下の泣きぼくろは赤い化粧をした、ピエロとすれ違った。

 ピエロは、少女の方を向いて、笑みを浮かべながら、話す。


「あら?随分と可愛らしい娘ね♡アンタ、アタシの曲芸を見ていかない?♡」


 少女は振り向き応える。


「『いいえ、結構です。それよりも、貴方が興味を持ちそうな、これから可愛く・・・なるスライム族が、これから現れるでしょう。

 貴方は、それを楽しみにしていれば良いのです。

 それではまた、近いうちにお会いしましょう。

 ハートさん。』」

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