第42話:陽だまりの瞬間
「美月、」
「あれは事故なんかじゃない。私のことをよく思ってない人が…」
私は震える声で言った。
お兄ちゃんは背を向けていたけど、私の言葉を聞いてすぐに振り返り、真剣な表情で私に向き合った。
「美月、落ち着いて」
その瞳には深い心配と優しさが溢れていた。
「犯人は私のクラスメイトで女子の中の誰か。それだけしか分かってない」
私はそう言いながら、自分の手をぎゅっと握りしめた。
心臓がドキドキして、胸が苦しくなった。
「分かった。分かったから」
お兄ちゃんは優しく声をかけ、私の肩に手を置いた。
その手の温もりが少しだけ安心感を与えてくれた。
「嘘ついてごめんなさい。怒らないで。謝るから。一人にしないで、」
涙がこぼれそうになりながら、お兄ちゃんの目を見つめた。
お兄ちゃんにも見放されたら…
「美月、とりあえず座ろ?」
お兄ちゃんは心配そうに私を見つめ、椅子を指差した。
「お兄ちゃん、」
私はまだお兄ちゃんが離れていっちゃうじゃないかって心配で、服の裾を掴んでいた。
「俺はどこにも行かないから。だから座って。ね?」
お兄ちゃんは優しく微笑み、私を椅子に座らせようとした。その笑顔に、少しだけ心が軽くなった。
「…分かった」
お兄ちゃんの言葉に従い、ゆっくりと椅子に座った。
足の痛みが少し和らいだ気がした。
「ごめんね」
お兄ちゃんは私の手を握りながら、申し訳なさそうに言った。
その言葉に、胸が締め付けられるような気持ちになった。
「どうしてお兄ちゃんが謝るの。嘘ついたのは私なのに」
お兄ちゃんの顔を見上げ、困惑した表情を浮かべた。
お兄ちゃんが謝る理由が分からなかった。
「俺はただ、蒼大くんを呼びに行こうとしたんだけど、勘違いさせちゃったね」
お兄ちゃんは少し困ったように笑い、私の手を優しく握り直した。
「どうして蒼大を…」
「俺より蒼大といた方が安心すると思って」
「そんなことない、」
首を振り、お兄ちゃんの手を強く握り返した。
お兄ちゃんがいればそれでいいのに。
「心配しなくても、俺はずっと美月のそばにいる。離れたりなんかしないよ」
その言葉が、心に染み渡った。
今の私にとって、一番かけて欲しい言葉だった。
「私のこと嫌いになったりしてない?」
不安そうにお兄ちゃんの目を見つめた。
嘘をついたことで嫌わてないか、心配だった。
「どうして?」
お兄ちゃんは少し驚いたような顔をした。
その表情に、少しだけ安心感が戻ってきた。
「…嘘ついたから」
視線を落とし、涙をこらえながら言った。
「そんなことで嫌いになったりしない。そもそも俺が美月を嫌いになるなんてありえないからね」
お兄ちゃんは優しく微笑み、私の頭を撫でた。
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