第3話──2
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「……で。だからって私にアドバイス求める?分かるわけないでしょそっちのデートスポットなんて。何千キロメートル離れてると思ってんの。こちとら東京に行ったことなんかないんだから」
「そこを何とかぁ……。何かこう、あるじゃん定番のスポットみたいな! マジで思いつかなくて……。てかあの子と一緒に出掛ける想像するだけでのぼせちゃって頭働かなくて……もう疲れちゃってぇ、動けなくてぇ……」
「いや知らんがな。そっちにはいくらでも溢れてるでしょデートスポットなんて」
「デートじゃないんよぉ! だから尚更難しいんだって! 候補が多すぎてぇ!」
「うるさっ。ノイキャン掛かってて何も聞こえん。わかったから一旦深呼吸して」
「ひっひっ、ふーっ。ひっひっ、ふーっ……」
「何か邪悪なもの生み出そうとしてる?」
小春とどこかに出掛けることが頭に過ぎるだけで滾る。先輩のメンツと好きという感情の起伏がえなを冷静ではなくするのだ。
えなは小春とのDiscordでの会話の後、すぐ茉子にメッセージを送り通話をお願いした。明日は午前の一限から講義があるから手短にとすぐ返事が来たのだ。救世主。
「無難に買い物とかでいいんじゃない? いくらでも行けるとこあるでしょそっちなら」
「それこそ候補が多すぎて絞りきれないよ。大体あたし、あの子が何が好きとか全然わかんないし。遠慮させて、全然楽しくない感じになっちゃうのもダメだし……」
「なるほど。妥当な意見だ。じゃあ定番のテーマパークとかは? 君んとこならすぐ行けるでしょ。東京って冠してるけど千葉にある超有名なとこ」
「なまら人いるとこなんて、よしかには無理だって! あの子引きこもりなんだから! それに価値観のすれ違いでアトラクションの待ち時間に気まずくなって別れるカップル多い高難易度デートスポットって言われてるんだよ!?」
「デートじゃないし付き合ってねーだろ君ら。はぁ……めんどくさいな」
「そこを何とか頼むよ茉子ぉ……。あたし一人じゃ、悶々と一人で考え込んじゃうからさぁ……」
情けなくえなは茉子に縋る。何としてもコラボ配信を小春が難なく乗り越えられるような、楽しい経験をさせてあげたいのだ。それだけでいくらでも話題が膨らむような。
「……あのさ、えな。よしかさんに言われたこと忘れてないよね。えなにも今回のお出掛けは楽しんでほしいって」
「えっ、うん……」
「よしかさんのこと考えすぎて、自分のこと頭からすっぽ抜けすぎだよ、えなは。とりあえず、自分が行きたいとこから候補に上げてきなよ。よしかさんとこれから打ち合わせだってするだろうし」
――自分が楽しんでたら、相手も自然と楽しくなってくれるよ。一緒にいるって、そういうことなんじゃない?
ほんのりと柔らかい声になった茉子に言われて、えなは目を見開く。そうだ。自分も心から楽しんでいなければ、小春にだって楽しんでもらえない。
「……うん、そうだね。よく心得た」
「心得られて偉い。……あとついでに、余計な老婆心。あんまり相手に、そういう間合いで踏み込み過ぎちゃ危ないよ。あくまで向こうは同じ事務所の仲の深まった先輩としか捉えてないっぽいし。たぶんノンケでしょ、よしかさん」
「……ん。わかってる。ありがとね、心配してくれて」
「こっちこそ、余計な事言っちゃってごめん。じゃあ寝るわ。おやすみぃ」
「えっ、ちょっ、茉子さん⁉ 具体的なロケーション案全然貰えてないんですけど⁉」
「アドバイスはした。私は役目を終えた。健闘と検討を祈る。グンナイ」
有無を言わさず通話が切れた。呆然としつつも、甘やかさず背中を蹴飛ばしてくれた茉子のいつもの感じに毒気を抜かれて一人で噴き出してしまった。
確かに、彼女のアドバイスのおかげで決心がついた気がする。最初から、無意識に行きたい場所は思い浮かべていたのだ。ぼやけていたそれが、茉子の言葉でくっきりとフォーカスが合った。
(……あと、距離感を間違えちゃいけないってこと)
茉子は知っているからあえて伝えてくれたのだ。えなが一度、距離感を間違えて傷ついた過去があることを。あの時も彼女が傍にいてくれなかったら、きっと乗り越えられなかったと思う。いや、ずっとずっとそうだった。今度帰ったら、回らない寿司をたらふく食べさせてあげよう。それでも足りないけれど。
思い立ったが吉日。まだ通話を終えて数時間しか経っていないけれど、えなは小春に候補のスポットの位置情報を付けてメッセージを飛ばす。
小春は。枠が立っていて、絶賛配信中のようだ。最近はバトルロワイヤル系のチームを組んで戦うFPS対戦ゲームに目覚めて、ひたすらにそれをやり込んでいる。一度ハマるとひたすら沼に嵌るタイプらしく、配信外でも彼女はプロの動画などを見て立ち回りなどをちゃんと勉強しているようだ。彼女らしい、とまた笑ってしまった。
配信をちらりと見たら興が乗っているみたいでコメント欄と楽しく共闘しつつ時にプロレスしつつ楽しんでいた。これは朝までコースだろうな、と余裕で想像できた。
「さてと、あたしも頑張りますかぁ……」
大きくチェアの上で伸びをして、えなは作業をしつつ、歌枠配信の準備も同時進行で始めた。
(……何か、それっぽいとこ選んじゃったけど。普通に友達同士とかでも行くもんね。デートじゃない、デートじゃない……)
遅れて、小春に送信したお出掛け候補のことが頭に過ってきてマウスを弄る手が止まる。そして脳内に溢れ出した、その場所を自分たちが並んで巡るシミュレーション。別名、結構都合のいい妄想。
慌ててそれを振り払うが、作業の途中で何度も頭を通り過ぎて。小春はどんな格好で来るんだろうとか、気合い入れてきてくれるんだろうとか、あたしも気合い入れるか、てか想像の中でも麗しい姿だなあの子、等の邪心に苛まれ。結局作業はあまり捗らなかった。
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