第2話 初めての手がかり

夜が更け、図書館は静寂に包まれていた。古い木製の棚が影を落とし、僅かに揺れるシャンデリアの光が、その荘厳な雰囲気を一層際立たせていた。私はホームズが管理者に変装している姿を見ながら、彼の冷静さと巧妙さに改めて感心した。


「ワトソン、ここからが本番だ」とホームズが低い声で言った。「今夜、盗賊が再び現れる可能性が高い。君も注意を怠らないように。」


私は頷き、彼の隣で待機した。ホームズの鋭い目が図書館の隅々まで見渡しているのが分かった。私もまた、異常な動きを見逃さないように神経を尖らせた。


突然、図書館の入口の方で微かな物音が聞こえた。二人は息を潜めて、その方向に視線を向けた。そこには黒ずくめの人影が、静かに忍び込んできたのが見えた。ホームズは微かな笑みを浮かべ、「予想通りだ」と囁いた。


盗賊は慎重な足取りで図書館を進み、ホームズが見つけた秘密の鍵穴に向かった。ホームズは合図を送り、私は静かに彼の指示に従った。盗賊が鍵穴に触れる瞬間、ホームズは素早く立ち上がり、相手に向かって歩み寄った。


「動くな!」とホームズが鋭く叫んだ。


盗賊は驚いて振り返ったが、ホームズの俊敏な動きに圧倒されて逃げ場を失った。私はすかさずその場に駆け寄り、盗賊の腕を押さえた。


「これは一体何の騒ぎだ!」と盗賊が叫び声を上げた。


「君が何者であるかは重要ではない。我々が知りたいのは、君がここに何をしに来たのかだ。」とホームズは冷静に答えた。


盗賊はしばらくの間、じっとホームズを見つめたが、やがて観念したように肩を落とした。「私の名はカリム。この図書館の秘密を探りに来た。」


ホームズは満足げに頷き、「それで、君が探しているものは?」と続けた。


「アルカナの書だ。あの本には古代の魔法が記されている。私はそれを手に入れて、力を得ようとしたのだ。」カリムは悔しそうに答えた。


「なるほど、しかし君がその本を手に入れることは不可能だ。」とホームズは言い、カリムをじっと見つめた。「君は単独で行動しているのか、それとも誰かの指示を受けているのか?」


カリムは一瞬ためらったが、やがて口を開いた。「私はただの駒だ。本当の黒幕は別にいる。」


「その黒幕の名を言え。」とホームズは鋭く問い詰めた。


カリムは顔を歪めながら答えた。「アーサー・ブラックウッドだ。」


その名前を聞いた瞬間、ホームズの目が鋭く光った。「そうか、やはり彼が背後にいたのか。」


ホームズはカリムを拘束し、メルビンに知らせるよう私に指示した。「ワトソン、メルビンにこのことを伝え、エリザベス王女にも報告してくれ。」


私は急いでメルビンの部屋に向かった。彼に状況を説明すると、彼はすぐに王女に報告するために私と共に大広間へと向かった。


エリザベス王女はすぐに私たちを迎え入れ、ホームズの報告を聞いた。彼女の表情には驚きと同時に決意が浮かんでいた。


「アーサー・ブラックウッドが背後にいるというのは本当なのですか?」とエリザベスは確認した。


「はい、彼がこの陰謀の黒幕です。」とホームズは答えた。「しかし、我々にはまだ全貌が見えていません。さらなる調査が必要です。」


エリザベスは頷き、「ホームズ様、どうかこの国を救ってください。あなたの知恵と力が必要です。」と頼んだ。


「もちろんです、王女殿下。我々は全力を尽くします。」とホームズは力強く答えた。


私たちは再び魔法図書館に戻り、カリムから得た情報をもとにさらなる手がかりを探すことにした。ホームズは再び机の上の古書を調べ、私もまた彼の指示に従って周囲を調査した。


「ワトソン、この書棚の背後に何かが隠されているようだ。」とホームズが言った。


私は急いで彼の元に駆け寄り、書棚を調べた。すると、書棚の裏側に隠し扉が見つかった。ホームズは慎重にその扉を開け、中を覗き込んだ。


「ここに何かがある。」とホームズは言い、中から古びた巻物を取り出した。巻物には古代の文字が記されており、ホームズはそれを注意深く読み始めた。


「これは…古代の呪文だ。ブラックウッドがこれを使って何かを企んでいる可能性が高い。」とホームズは推測した。


私は驚きながら、「その呪文が何を意味しているのか分かるのかね?」と尋ねた。


「まだ完全には分からないが、この呪文が鍵となることは確かだ。」とホームズは答えた。「我々はこの巻物を持ち帰り、詳細を調べる必要がある。」


夜が更け、私たちはホームズの部屋に戻り、巻物の解読に取り掛かった。ホームズは古代の文字を一つ一つ丁寧に読み解き、その内容をメモに記していった。


「この呪文は…時間を操作する魔法のようだ。」とホームズは驚きの声を上げた。「ブラックウッドがこれを使って過去を変えようとしている可能性がある。」


「過去を変える?それが可能だというのかね?」と私は信じられない思いで尋ねた。


「魔法の世界では、何も不可能ではない。」とホームズは冷静に答えた。「しかし、これは非常に危険な試みだ。もしブラックウッドが成功すれば、この王国だけでなく、世界全体が危機にさらされる。」


私はホームズの言葉に戦慄を覚えた。「我々はどうすればいいのだ?」


「まずはこの呪文の詳細を解明し、ブラックウッドの計画を阻止する方法を見つける必要がある。」とホームズは決意を固めた。「時間がない。すぐに取り掛かろう。」


その夜、ホームズと私は古代の呪文を解読し続けた。ブラックウッドの陰謀を阻止するために、我々は全力を尽くさなければならなかった。ホームズの推理力と我々の団結が、この異世界の運命を左右することになる。


シャーロック・ホームズの冒険は、まだ始まったばかりだった。異世界の謎と魔法の力が交錯する中、彼の鋭い知性と不屈の精神が再び試されるのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る