天才名探偵シャーロック・ホームズが異世界に降り立つ! 驚異の推理と魔法が交錯する、前代未聞の冒険譚!

湊 町(みなと まち)

第1話 ロンドン、ベーカー街221B

その日のロンドンはいつにも増して冷たく、湿った霧が街全体を覆っていた。通りを行き交う馬車の音がかすかに聞こえる中、ベーカー街221Bの居間では、シャーロック・ホームズがその鋭い目を細めて机上の資料に集中していた。私は火の暖かさを楽しみながら、ホームズの不屈の精神に感嘆しつつも、彼の身体を気遣って声をかけた。


「ホームズ、君はいつ休むんだ?事件は解決したんだから、少しはリラックスしたらどうだ?」


ホームズは軽く微笑み、目を上げて私を見た。「ワトソン、君も知っているだろう。真実は常に我々の目の前にある。見逃さないようにしなければならないのだ。」


その瞬間、窓の外から奇妙な光が差し込み、部屋全体が不思議な光に包まれた。光は瞬く間に強くなり、まるで我々を別の次元へと引き込むかのようだった。


「これは一体…?」と私は驚きの声を上げたが、その言葉は最後に、光の強さに耐えきれず目を閉じた。


目を開けたとき、私たちは見知らぬ森の中に倒れていた。空気は澄み渡り、草木の香りが漂っていた。私たちの周囲には高くそびえる木々が連なり、鳥のさえずりが聞こえてきた。まるで夢の中にいるようだった。


「ホームズ、ここは一体どこだ?」と私は困惑して尋ねた。


ホームズは冷静に周囲を見回し、鋭い目で観察を続けた。「どうやら、我々は異世界に来てしまったようだ。」その言葉に、私は一層の不安を覚えたが、彼の冷静な態度が私を少し落ち着かせた。


その時、遠くから馬の蹄の音が近づいてきた。やがて、鎧をまとった数人の騎士が現れた。彼らは我々に向かって進み、その中の一人が声を張り上げた。


「そこの二人、君たちは何者だ?」


私は驚いて口を開いたが、ホームズが一歩前に出て、毅然とした態度で答えた。「私はシャーロック・ホームズ。そして、こちらはジョン・ワトソンだ。我々はここにどうしているのか知りたい。」


騎士のリーダーは我々を見下ろし、しばらくの間、その鋭い目で観察していたが、やがて口を開いた。「王女エリザベス殿下の命令で、君たちを城へ連れて行くことにする。彼女が君たちに話したいことがある。」


騎士たちに導かれ、私たちは荘厳な王城に到着した。城は高い壁に囲まれ、塔がいくつもそびえ立っていた。広間には豪華な装飾が施され、金と赤の絨毯が敷かれていた。その奥に立つ美しい女性が、我々を迎えた。


「私はエリザベス・レイブン、アークナム王国の王女です。」彼女は優雅に一礼した。


ホームズは深く礼を返し、「シャーロック・ホームズと申します。そしてこちらはジョン・ワトソンです。王女殿下、私たちに何かお力になれることがあるのでしょうか?」と尋ねた。


エリザベスは微笑みを浮かべた。「ホームズ様、あなた方がここに来たのは運命かもしれません。この国は今、重大な危機に直面しています。怪事件が続き、国民は恐怖に怯えています。あなたの知恵と推理力が必要です。」


ホームズは興味深げにエリザベスを見つめた。「具体的にはどのような事件が起こっているのですか?」


エリザベスは少し顔を曇らせ、「最近、魔法図書館から重要な魔法書が盗まれました。その魔法書には、この国の秘密が書かれており、それを悪用されると王国全体が危険にさらされるのです。」


ホームズは顎に手を当て、考え込む。「なるほど、まずはその魔法書の盗難事件を調査しましょう。」


ワトソンが尋ねる。「どこから調査を始めれば良いのでしょうか?」


「図書館の管理者であるメルビンが、何か手がかりを持っているかもしれません。彼に会って話を聞いてみてください。」エリザベスは答えた。


ホームズとワトソンは王城内の魔法図書館に向かった。図書館は膨大な数の古書や巻物が並ぶ静寂な場所であり、薄暗い中に神秘的な光が差し込んでいる。そこには一人の老人が待っていた。彼は白いひげを蓄え、知恵の象徴のような風貌だった。


「あなたがメルビンですか?」とホームズが尋ねる。


「はい、そうです。あなた方がホームズ様とワトソン様ですね。王女殿下からお話は伺っております。」とメルビンは穏やかに答えた。


「魔法書が盗まれた時の状況を教えていただけますか?」とホームズが本題に入る。


メルビンはため息をつき、「あの夜、私は最後の確認をしてから図書館を閉めました。しかし、翌朝、魔法書がなくなっていたのです。扉には外部から侵入した形跡はありませんでした。まるで消えたかのように…。」と説明した。


ホームズは静かに周囲を観察し始め、手がかりを探す。「ワトソン、ここから手分けして調査しよう。何か小さな手がかりでも見逃さないように。」


「了解した、シャーロック。」とワトソンは答え、二人は魔法図書館の隅々まで調べ始めた。


ホームズは机の下を覗き込み、床に何かが散らばっているのを見つけた。彼は小さな金属片を拾い上げ、光にかざして観察する。「ワトソン、これは見覚えがあるか?」


ワトソンはそれを受け取り、近くのランプにかざしてじっくりと見つめた。「これは…魔法の封印に使われる特定の金属だ。これがここに落ちているということは、誰かが魔法の封印を解いた可能性が高い。」


「つまり、内部の者が関与しているか、または内部に詳しい者が手引きをしたということかもしれない。」とホームズは推測した。


ホームズは再び図書館の中を見渡し、視線を天井に向けた。古いシャンデリアが揺れているのに気づいた。「メルビン、この図書館には監視の魔法や仕掛けはないのか?」


メルビンは首を振った。「ここは厳重に守られていますが、昨夜は何も異常は検知されませんでした。」


ホームズはしばし黙考した後、決意を固めた。「メルビン、我々はここで何かが見落とされていると考えます。もう一度、詳細に調べさせていただきたい。」


メルビンは頷き、「もちろんです。どうかお願いします。」


ホームズとワトソンは、再び図書館の隅々を調べ始めた。書棚の裏、壁のひび割れ、床の継ぎ目、どれも見逃さずに調査を進める。その中で、ホームズは一冊の魔法書が他のものよりも少しだけずれて置かれていることに気づいた。


「ここだ…」ホームズはその本を引き抜くと、隠された小さな鍵穴が現れた。「この鍵穴が何かの手がかりになるかもしれない。」


「しかし、鍵がない」とワトソンは指摘した。


ホームズは微笑み、「鍵がないなら、別の方法を考えればいい。」彼は自らの鋭い推理力を信じ、次の一手を考え始めた。


ホームズは持ち前の変装術を駆使し、図書館の管理者に成りすまして夜中の図書館を監視することに決めた。ワトソンは彼の横で見守り、異世界の冒険がますます深まるのを感じていた。ホームズの計画が成功し、盗賊が再び現れることを期待しながら。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る