ゲーム内転生した僕はギフト【詩詠み】を駆使し、最強へと駆け昇る 〜詩詠み探索者の狂騒曲《ラプソディー》〜

小日向ななつ

序章 詩詠みの目覚め

◆0◆ はじまりの洞窟

 薄暗い空間の中で全身が痛みに襲われている。

 気がつくと、そんな嫌な感覚に苛まれながら僕は身体を起こしていた。


 ここはどこなのか?

 僕は確か、朝の通勤中だったはず。

 電車を待っていたら人混みに押されて、そんで線路へと押し出されて、そのタイミングで電車がやってきて――


 うん、これ以上は覚えていないや。

 でも、何となくどうなったかわかった。


 たぶん僕は電車に轢かれて死んだ。

 その死んだはずの僕がどうして生きているんだろうか?


 そんなことを考えていると天井からボコッという音が聞こえてきた。

 振り返るとそこには光が差しており、よく見ると覗き込んでいる人影がある。


 誰だろうか、と思っているとそれは唐突に「クロノッ」と叫んだ。


「クロノ?」


 僕が思わず頭を捻った瞬間、強烈な頭痛に襲われる。

 同時にあるはずのない記憶と知識が頭の中へなだれ込んできた。


 クロノ、そうクロノ。

 この名前は僕の名前だ。


 え、でも僕の名前は違ったはず。

 確か……あれ?

 思い出せないぞ。


「いた! クロノ!」


 僕が必死に電車に轢かれる前のことを思い出そうとしていると、人影が駆け寄ってきた。

 それはなかなかにかわいい少女だ。


 銀色に輝く胸当てに、二の腕まで覆っている籠手。

 腰にはレイピアと思える細剣があり、ゲームなら前線で戦う女の子に思える。


 そんな彼女の顔を見ると、澄んだ碧い瞳に首を覆うブラウンに染まった髪があった。

 その表情はとても心配しているようにも見える。

 たぶん、僕ことクロノを助けに来てくれたんだろう。


 えっと、この子の名前は――

 そんなことを考えていると助けに来てくれた少女が僕の身体を抱きしめた。


「よかった、無事で。ガーランドの奴、やっぱりアンタをオトリにしたのね。ホント、最ッ低! 学園に戻ったらボコボコにしてやるんだから!」

「……ありがとう、ベネット」


 どうやらとても心配してくれたようだ。

 僕は彼女の名前を呼び、感謝を伝える。


 ひとまずこれで彼女の心配はなくなったように見えた。


「あんまり無茶しないでよ。アンタは弱いギフトなんだから」

「ギフト?」

「この前、神託を受けたでしょ? 覚えてないの?」


 ギフトと言われ、僕は一瞬ピンと来なかった。

 だが、目の前にいる少女ベネットの容貌を見てあることを思い出す。


 そうだ、これは僕がやっていたゲームそのままじゃないか。

 僕がやっていたゲーム【詩詠み英雄の夢想曲トロイメライ】に出てくるキャラが目の前にいる!

 なら僕はゲームに転生したんだ!


 と思ったけどなんだか若干違う。

 そもそもキャラにベネットという少女はいなかったはずだ。


 それにここは、プロローグで出てくる最初の迷宮みたいだけどなんだか雰囲気が違う。

 妙に明るいし、それに石畳とかそういうのが敷かれて整理されているし。


 これはどういうことだ?

 僕は疑問を抱き、試しに頭の中にある知識を使ってベネットに聞いてみた。


「ねぇ、ベネット。今って桜王歴五十四年の六月二十日だっけ?」

「ハァ? 何言っているのよアンタ。今は桜王歴五百六十二年の四月二日よ」

「え?」


 なんということでしょうか。

 ゲームクリア時の時間とぜんぜん違う。

 それどころか五百年ぐらい経っているんだけど。


「ちょっと打ちどころが悪かったみたいね。後で治療士に見てもらおっか」

「あ、いや、その……そうだね。他にもケガしているかもしれないしね」


 とりあえず話を合わせよう。

 これ以上、この子を混乱させたり心配させるのもなんだし。


 それにしても、クリアから五百年後のゲーム世界か。

 なんでそんな世界で僕は転生しちゃったんだろうか。


 まあ、考えてもわかるはずないか。

 それよりもせっかくゲーム世界に転生したんだ。


 だからこれをやってみよう。


「ステータスオープン」


 僕がそう言葉にすると当然のようにステータスが表示された。


クロノ レベル3


HP:21/37

MP︰45/45


攻撃力:32

防御力:27

魔攻力:44

魔防力:41

俊敏力:38


回復魔法力:47

阻害魔法力:36

補助魔法力:45


耐性:なし


ギフト:詩詠み


 見た限り、僕はバリバリの魔法職みたいだ。

 しかも回復と補助が得意というオマケつきだよ。


 ギフトは、うわマジ!

 超大当たりの【詩詠み】がついてるじゃん。

 魔法職ならこのギフトは超大当たりだよ。


「クロノ、どうしたの?」

「ベネット、僕ってどのくらい魔法で活躍してる?」

「え? 魔法?」

「そうだよ! 神託で【詩詠み】をもらったんだろ。なら魔法が使えるはずだろ?」


 そんなことを聞いてみるとベネットがキョトンとした顔をしていた。

 唐突に額に手を当て、自分の額にも手を当てて熱を測り始める。

 だが、熱がないとわかった途端にベネットは頭を抱え始めた。


 どうしたのだろうか、と思っていると彼女はこんなことを教えてくれる。


「よく聞いてクロノ。あなたは魔法なんて使えないわ。というか、この世界に魔法なんてないから」

「は?」

「あなたは前衛職で、ヘイトを集める盾役タンクよ」


 なんということだろうか。

 ステータスは明らかに魔法職なのに、あろうことか適正じゃない│盾役タンクだって!?


 確かによく見ると後衛職だとあまり考えられない重厚な鎧を着ているし、それに身体が覆えそうなぐらい大きな盾が地面に転がっているし。


 これはどういうことなんだ?


「あと、【詩詠み】だけどそれ、大ハズレのギフトだから。そのことも忘れちゃったの?」

「えええぇぇぇぇぇッッッッッ!!!!??」


 五百年後のゲーム世界、それは僕が知るものとはかなり違っていた。

 だけどそのおかげで僕は強くなることができる。


 いずれそうなることをこの時の彼女は知る由もなかった。

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