第27話 リリアナ様がいれば私は何もいらないのだけれど…~カーラ視点~
「カーラ、今日も随分と令息たちに話し掛けられていたわね。さすが私の娘だわ」
「お母様、私が令息たちに声を掛けられるのは、リリアナ様のお陰ですわ。リリアナ様と仲良くさせていただいているからきっと、皆様私とも仲良くしてくださるのです」
そう、全てはリリアナ様のお陰。王太子殿下の婚約者で、この国で3本の指に入るほどの大貴族、カルソル公爵家のご令嬢、リリアナ様。そんな彼女が私に目を掛けて下さっているからこそ、今私は貴族界で注目されているのだ。
少し前までの私は、ろくでなしの兄から酷い暴力や暴言を受け、メイドたちに冷遇され、両親からも困った娘扱いをされていた。まさに、どん底の人生だったのだ。そんな私を救い出してくれたのが、リリアナ様なのだ。
リリアナ様のお陰で私は、今とても幸せに生きている。ろくでなしの兄はいなくなり、意地悪だったメイドたちも皆クビになった。両親は私に優しくなったし、新しいメイドたちも私に尽くしてくれる。
誰からも相手にされなかった根暗で小太りで、肌がボロボロだった私が、今や貴族界で注目されている令嬢になれたのは、全てリリアナ様のお陰なのだ。
リリアナ様がいなかったら、きっと今頃私は、地を這う様な惨めな生活をしていただろう。本当にリリアナ様には感謝しかない。彼女の為ならたとえ火の中水の中!この命を捧げてもいいと考えているくらいだ。
でも、なぜかリリアナ様は、私の幸せも願ってくれる心お優しい方なのだ。お茶会や夜会が不慣れな私を心配して、極力傍にいて下さるお優しいリリアナ様。
今日もリリアナ様のドレス姿、本当に美しかったわ…
でもリリアナ様の傍には、あの嫉妬深い男、クリス殿下がずっといるのだ。リリアナ様は本当に魅力的でお優しくて、非の打ち所がない程素敵な令嬢だ。そんな令嬢を放っておけないのも分かるが、いくら何でもベッタリ過ぎる。
それになぜか、私に敵意をむき出しにしているのだ。王太子のくせに、器の小さな男で嫌になる。
あんな器の小さな男、たとえ王太子でも私なら願い下げなのだが、心お優しいリリアナ様は、あんな男でも大切にしていらっしゃるのだ。
なんて心が広くお優しい方なのだろう。まるで女神様の様なお方。
私はそんなリリアナ様を一生支えたい、この命を懸けて!そう常々思っているのだ。リリアナ様の傍にいるためには、身分の高い男と結婚する必要がある。その為、興味のないお茶会や夜会に今、積極的に参加している。
それもこれも、全てリリアナ様の為だ。
でも、これといってよい男が見当たらない。どいつもこいつも子供臭くて嫌だ。それに何よりも、私は令息が苦手なのだ。きっとあのろくでなしの兄のせいだろう。兄とその友人たちに、日々酷い暴言と暴力を振るわれていたせいか、令息を見ると震えが止まらなくなるのだ。
ダメよ、令息を見ただけで震えていては、リリアナ様をお守りする事なんて出来ないわ。そう常々思っているのだが、体が付いていかない。
「カーラ、今日も殿方から婚約申込書が届いているわよ。あなたもそろそろ婚約者を決めないといけないわね」
「そうだな、カーラはリリアナ嬢を支えたいのだろう?それなら、身分の高い令息の方がいいね。彼なんてどうかな?クラシックレス公爵家の嫡男、カシス殿だ。物腰柔らかで、とてもお優しい方だぞ」
カシス様?そういえば最近、お茶会や夜会に行くと、必ず私に絡んでくる男がいたわ。確かその男が、カシス様だったわね。
確かに優しそうな顔をしているが、やっぱり私は、令息が苦手なのだ。でも、この男なら身分的にも問題ないし。きっと向こうも、次期王太子妃でもあるリリアナ様と仲が良い私と結婚すれば、利益になると考えているのだろう。
「私、カシス様と婚約を…」
「見て、カーラ。カシス様がどうしてもカーラと2人で一度お会いしたいのですって。これはきっと、デートのお誘いね。あなた、一度デートに行ってみたら?」
「そうだな、カシス殿はクラシックレス公爵家の嫡男だ。クラシックレス公爵家といえば、リリアナ嬢の実家でもある、カルソル公爵家と肩を並べるほどの大貴族。直々にお誘いが来ているのなら、断る訳にはいかないな。よし、カーラ、行ってこい」
「お父様、そんな簡単におっしゃられないで下さい。私、殿方と2人でお出掛けだなんて、さすがに無理ですわ」
私はまだ、殿方が怖いのだ。さすがに2人きりだなんて…
「大丈夫よ、カーラ。今のあなたは、とても可愛いのですもの。笑顔で相槌を打っていればいいのよ」
「そうだぞ、カーラ。早速クラシックレス公爵家に手紙を送っておこう。それにしても、クラシックレス公爵家といい、カルソル公爵家といい、カーラは随分身分の高い貴族に好かれるのだな」
「本当ね。さすが私の娘だわ」
両親が呑気な事を言って笑っている。もう、他人事だと思って。
どうしよう…殿方と2人きりで出かけるだなんて、私、大丈夫かしら?
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