第3話 愚かな令息どもを追い払って差し上げました

 皆が一斉に、入り口の方に目をやる。すると王妃殿下と一緒に、穏やかな表情を浮かべたクリス殿下がやって来たのだ。金色の美しい髪に真っ青な瞳、彼はかなりの美少年だ。


 改めてクリス殿下を見たが、彼は美しい。さすがヒーローね。


 次の瞬間、バッチリと目が合った。一応ほほ笑んでおく。すると、一瞬目を大きく見開いたクリス殿下が、今にも泣きそうな顔をしたのだ。一体どうしたというのかしら?私の顔を見て、あの様な表情をするだなんて。


「皆様、今日は僕の為にお集まりいただき、ありがとうございます。どうか楽しんでいってください」


 さっきとはうって変わって、穏やかな表情で挨拶をするクリス殿下。さっきの顔は、私の気のせいだったのかもしれないわね。


 クリス殿下の挨拶で、お茶会スタートだ。お茶会と言っても参加者が多いため、一応お茶を楽しめるテーブルとイス、お菓子やお茶などは準備されているが、皆イスに座ってお茶を楽しむというよりは、好き勝手移動して、色々な人と話をしている事の方が多いのだ。


 ただ、私はイスに座って美しい中庭を見つめながら、ゆっくりお茶を楽しむのが好きなのだ。今日もイスに座り、お茶とお菓子を楽しむ。そう、前世の記憶が戻っても、私はいつも通り過ごすことにした。


「リリアナ様、お隣よろしいですか?」


「ええ、もちろんですわ」


 いつもの様に、令嬢たちが私の隣にやって来たのだ。


「殿下の周りには、令嬢が群がっておられますね。既にリリアナ様とご婚約されることが決まっていらっしゃるのに…愚かね」


「まだ正式に発表されておりませんので、ご自分にもチャンスがあると思っていらっしゃっているのでしょう…」


「貴族令嬢たるもの、時間は有効に使わないといけませんのに」


 令嬢たちが口元に扇子を当て、クリス殿下に群がる令嬢たちを残念そうに見つめている。要するに彼女たちは、婚約者がほぼ決まっている殿下に近づくよりも、ほぼ婚約者に内定している私に近づいた方が、後々優位に立てると踏んでいるのだろう。


 貴族社会はいつも、駆け引きが行われている。子供たちの間でも同じだ。正直日本人の記憶を取り戻した私は、心から信頼できる友人が欲しいところだが、この世界では無理そうね。


 現にクリス殿下は、信頼していた親友にあっさり裏切られているし…


 いくらぜいたくな暮らしが出来ても、心から信頼できる友人がいない世界。いつも誰かを疑わなければいけない世界で生きていかないといけないというのも、辛い事よね…


「皆様、私は少し中庭を散歩して参りますわ。それでは、ごきげんよう」


 なんだか少し疲れた。気分転換に、中庭の奥に進んでいく。やはり王宮の中庭は、とても綺麗だ。でも、随分と奥に来てしまったわね。そろそろ戻らないと…


 その時だった。


「お前、なに王宮でお菓子をぼりぼり貪っているのだよ!本当に俺は、お前の様な妹を持って恥ずかしい」


「ごめんなさい、お兄様」


「お前の妹、本当にブスでデブでみっともないよな。豚だな、豚」


「本当だな」


 ん?この声は?


 声の方に向かうと、令息3人が令嬢を真ん中に囲み、殴るけるの暴行を加えていたのだ。なんて酷い事をしているのかしら?か弱い令嬢を囲んで、暴力をふるうだなんて。


 クズの極みどもめ!私が成敗してやるわ!


 ドレスをまくり上げ、がに股で男たちに近づく…が、私はこれでも公爵令嬢だ。近くまで来ると、ドレスを元に戻し、笑顔を作った。そして…


「あなた達、一体何をなさっているのですか?」


 満面の笑みで、話し掛けたのだ。びくっと肩を震わせ、ゆっくりこっちを見た男ども。


「どうしてここに、リリアナ嬢が…」


「私が王宮のお庭を散歩していては、いけませんか?それよりもあなた達、1人の令嬢を寄ってたかって3人で虐めるだなんて!それもこんな人気のないところで。恥ずかしくはないのですか?この外道共が!」


 感情が高ぶり、つい声を荒げてしまった。


「あら、失礼いたしました。まさか令嬢1人に対し、令息が3人で虐めているだなんて。我が目を疑うあり得ない現場を目撃してしまいましたので、感情が高ぶってしまいましたわ。それにしても、本当に最低な人たちですわね」


 扇子で口元を隠し、心底軽蔑の眼差しを向ける。


「あの…違うのです。リリアナ嬢、これには理由が…」


「どんな理由であれ、大勢の令息が1人の令嬢を虐めてよい訳がありませんわ。今回の件、私は見たままを、あなた達のお家に報告させていただきますから、そのつもりで」


 にっこりとほほ笑んで、そう告げてやった。本当にゲスの極みどもめ!


「さあ、話しはもう終わりです。目障りですので、さっさと私の前から立ち去ってください」


 真っ青な顔をしている令息たちを、シッシッと追い払う。どんな理由があろうと、令嬢を虐めるゲスどもを許すつもりはない。そもそも王族主催のお茶会で、よくこの様なはしたない真似が出来たものだ。


 その件も、彼らの家にはしっかり報告しないと!


「あの…申し訳ございませんでした。ですが…」


「私の言った事が聞こえなかったのですか?目障りなので、さっさと消えて下さいませ」


 目を大きく見開きながら、彼らを見つめた。口元は扇子で隠しているが、かなりの迫力だろう。これ以上公爵令嬢でもある私を怒らせるのは良くないと思ったのだろう。不満そうな顔で去っていく男たち。


 おとといきやがれですわ!

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