都会肉食逃亡生活

大根丸

第1転校生

「暑い…。」

そんなことを呟きながら学校に行く。

田舎の少人数中学校。生徒数6人。教員数3人。

もういっそ転校してしまおうかと思うが、ここから都会には1時間半かかる。行けるわけが無い。

そんなことを考えていると学校に着いた。 「おい知ってるか!こんなところに転校生が来るらしいぞ!噂には赤髪美少女らしいぞ!なんでも、いわく付きで猫耳が生えているらしいぜ!」

こんな田舎に転校生。

転校生もこんな田舎嫌だろうな。でも猫耳が生えてるって行ってたな…。

人目の付きにくい田舎に引っ越したのだろうか。


そんなことを考えていると、もう始業のベルがなった。先生がやってくる。

「皆さんには紹介したい人物がいます。入っておいで!」 タッタッタッと小走りする音がする。 ガシャーンというどこかにぶつかる音もする。


「私!音子カリン! 好きな物はお魚と〜、遊ぶこと!あと体育!」 あぁ。俺達は、アニメの世界にでもいるのだろうか。

可愛い。文句なしの可愛さだ。そしてお転婆な所があり、ドジっ子。 少女漫画の主人公のようだ。 俺はこの子と仲良くなりたい! 「6人しかいないから、皆自己紹介して。」 「眞辺新田!」

「辻道真佑です。」

「唐野蓮介」

「下松アリサ。」

「浅野翔瑛。」


「すごい! ここは人数が少ないんだね! オマケにのどかな田舎だし、私のことを気にする人もいないから帽子要らずだね!」 なるほど。 転校生は相当ピュアな女子らしいな。 しかし、転校生がやってきたのに、みんな消極的だ。

誰も話に行けないらしい。 俺もその気持ちは分かる。

俺も実は小学校5年生の時に転校してきたから『 みんな仲良し』みたいな集団が存在していて、少し輪に入りづらかった。

今はそうでも無いけど。



話しかけてあげた方が良いのだろうか。


「音子さん、良かったらこの学校案内しようか?校舎1階しかないけど」

「はい!喜んで!」


素直で健気で可愛い子だ。

どうして皆話しかけないのだろうか。


「今日一緒に帰ろ!れんすけくん!」

ウッ。今日はすぐ家に帰ってゲームしようと思っていたが、キラキラのお目目には耐えきれない。 「いいよ。一緒に帰るか。」 歩きながら色んな話をした。

「この学校では、どんな『 ぎょうじ』があるんですか?」

「あと20日程したら、遠足に行く。 あとは…1ヶ月ほどで冬休みだな。」


やはり音子は目を輝かせていた。

「遠足…!それってどこにいくの?」

「水族館だよ。」 音子はさらに目を輝かせた。 「水族館!? おさかな、おさかな!」 「おいおい、水族館の魚は食えねーぞ?」 楽しい。

俺はこの田舎にきてこんなに楽しいことが無かった。 にゃははと鈴を転がすように笑うカリンと、ツッコミを入れる俺。

これこそ、俺が思い描いていた青春だ。 「じゃあ、私こっちだからまた明日ね!れんすけくん!」

「あぁ、じゃあな音子。また明日!」 青春サイコー。 そう思いスキップしながら、帰宅した。 夕食の時間。

母親に話しかけられた。余程顔に出ていたのだろうか。

「あんた嬉しそうじゃない!何か学校であったの。」 「あー…学校に転校生がやってきてな、そいつが面白い子なんだ。」 「へー!母さんも今度会ってみたいわ。」 「こんな狭い田舎だから、すぐ会えるさ。」 そんな会話を交わした後、布団に包まり、寝た。 翌日、俺は音子に会えるのが楽しみで走って学校に行った。 また音子に会える!どんな話をしよう。



「おーい、ねこー!」 ウキウキで教室のドアを開けた。 「あ…ヤバっ。」 そこでは、血に染ったセーラー服を着た、音子がいた。 その次に目に入ったのは、共に笑いあった仲間のバラバラで、見るにも悲惨なクラスメイト達。の、遺体。


「おい…何があったんだよ!!」 咄嗟に俺は音子の方を掴んだ。 ギュウ、という音がする。 「痛い!離してよ!」

「何があったんだ! 何か言ってもらわないと、俺だって、何も言えない。 何も言えないまま、音子を傷つけたくない。

なぁ。教えてくれ!言葉で言わないと伝わらないだろ!」

音子は少し驚いている感じだったが、説明してくれた。

「えっと… 私が、…さっ き来た ん だけ どね。」 音子は酷く混乱しているようだった。 当たり前だ。クラスメイトがあんな事になっているのだ。無理もない。

「ドアを…あけ た ら、この状態で… みんな…冷たくて!」 音子は泣き出してしまった。 俺は音子を慰めながら、ひとつ、気になったことを聞いてみた。


「なぁ…お前、なんでさっき、アリサの遺体持ってたの?」 音子は驚いていた。 「教室には、今はアリサの遺体しかない。 そして、アリサの腕も、足も、顎もない。 そして、教室は全て血だらけ、先生もいないし、ほかのクラスメイトもいない。 かと言って、1人の人間から、こんなに出血する訳が無い。」 音子は体をビクっとした。

なにか思い当たる節があるのだろうか。 「なぁ… 音子、本当は知っているんだろ? ここで何があったか教えてくれ。 別に…殺したり しないから さ…。」

とうとう俺は泣き崩れてしまった。 情けない。

クラスメイトが全員死んだからと言って、こんな俺の姿を音子に見られたくなかった。それも相まってさらに涙が止まらなくなった。 「泣かないで、れんすけくん。」

俺はそう慰める音子の方を見た。 「クラスメイトは…私が殺した。」



俺は目を見開いた。 「私が食べたから!」 「食べた…?お前、みんな死んでおかしくなったんじゃないのか?」

俺は信じられなくてそんな事を言った。 「嘘じゃないよ。 お腹がすいてたから、みーんな私が食べちゃった。 本来なら見られたから君も殺さなきゃ行けないんだけど…今回は特別に君に選択肢をあげようと思う。」 そういう音子の顔は普段のような幼い顔をしていなかった。

多分嘘だ。 気が動転してるだけだ。きっと 「1、このまま君は、私のお腹に入る。 つまり、殺して食べちゃうってことだね。 2、私と一緒に逃げる。 悪い様にはしないさ。 1分間あげるから。考えて。」

この音子の言ってる事は多分本当だ。 普段のような音子だったら、幼げに笑うだろう。 しかし、冷徹な表情で俺を見て、大人の様にものを言う。 音子はきっと本気で言っているんだ。 「1分間経ったよ。 さぁ、蓮介はどうするの。」





俺は、考えた。


「2だ! 俺は2を選ぶ。」

音子は大人びた笑い方をした。


「蓮介、俺について来てくれるの…? 嬉しい、ありがとな。」

なんだ可愛いところあるじゃん。

俺はついて行かないと、殺されてしまう。 だか、こんな田舎ウンザリしていた。 これは俺にとってのチャンスだ! このまま都会に出て、一生帰らない。 いいと思った。 「俺の事は食べないでくれるんだな。 いい子だよ、カリン。よしよし」

そう言いながら、俺は頭を撫でた。 「ところでおまえ、なんの動物なんだ?」 人を食べるのだから肉食系だろうな。 ライオン?他には…なんだろう?

「人間と肉食獣のキメラ。 とだけ言っておく。 あと、そろそろ出ようぜ。見つかっちまう。おまえ、金あるよな?」

都会に出るからって、そこまで考えてなかった。お金はそんなにない。 「じゃじゃーん」 そう言いながらカリンが出してきたのは沢山の万札。

「今まで食べた時に手に入れたやつがあるから大丈夫。 ほら、行こう。」 そう言いカリンは俺の手を引っ張り、自転車に2人で乗った。 これから俺が夢を見ていた都会生活が始まると思うとワクワクする。 逃亡生活だけど、漫画や小説みたいに、スリルがあっていいじゃないか。 朝の暑い空気を含んだ風に吹かれながら、俺はそんな事を考えていた。

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