投稿者たちの英雄譚〜小説投稿サイト一位の世界へ転生する〜

世乃中ヒロ

投稿者たちの英雄譚〜小説投稿サイト一位の世界へ転生する〜

第1話 総合一位の小説世界へ(1)

 「書籍化したかっ、た……」


 これが飯島旬いいじましゅんの、現代日本における最後の言葉だった。

 

 旬は本業である料理人の傍ら、小説投稿サイト『書く人になろう』に、ダンジョングルメ物の小説を投稿していた。


 しかし、いくら続話を書き上げようと、投稿した途端、すぐに埋もれてしまい日の目を見ない日々。


 俺は人の体と心。両方を満たしたい!

 その一心で旬は料理の腕を磨き、挫けずに投稿を続けて来たが、運命の時はやって来た。


 旬はトラックにはねられた。

 赤信号無視のトラックから旬は、横断歩道を歩いていた子供を守ろうとした。子供は守れたが、旬は帰らぬ人となった。はずだった。


「……」


 目を開くと眩しいまでの青。

 それが青空の色である事に気づくまで、数瞬の時間を要した。


「……ここはどこだ?」


 旬は記憶がおぼろげなままで上体を起こし、緩慢な動きで周囲を見渡す。


 風が駆け抜ける緑の草原。彼方の山並みは雄大で、空には白い綿雲が幾つも浮かんでいる。

 そして、青空を左右に分かつように、縦に引かれた一本の白い線。


「なんだあれ……」


 光でも飛行機雲でもない。

 見覚えのある景色だが、旬はそれをどこで見たかまでは思い出せなかった。


「あれぇ……ここって天国ぅ?」


 女の声が聞こえた事で初めて旬は、自分の周囲に人がいるのを知った。


 声が聞こえた方を見ると、腰の辺りまである金髪の女が一人、両腕をほぼ真上に伸ばしながら欠伸をしていた。


 金髪女とは別に、若い男と女が一人ずつ仰向けに横たわっているが、覚醒しているのは彼女だけだった。


 出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる。金髪の彼女のスタイルは抜群に良い。


 三十八歳になった今でも健在の、男としての本能から見たのもあるが、旬の目を特に引いたのは女の服装だった。


 赤を基調とし、細かな刺繍ししゅうなどが施された、見るからに高級そうなドレス。


 豪華な見た目を構成するのはドレスだけではない。

 彼女の首と胸元には青い宝石のネックレス。左手薬指には真珠の指輪など。


 あくまで想像だが、王侯貴族が集うお茶会に出ても恥ずかしくないような装い。しかも色白の美人である。それだけに、その姿で原っぱに座っているのが何ともアンバランスだった。


(その格好でアウトドアに来るか、普通)


 他人を舐め回すように見るものではないが、今回ばかりは別だった。

 彼女の女性的な魅力も相まって、旬の視線は釘づけとなる。


「?」


 旬の怪訝な視線。それを一身に受けている彼女が怪訝な顔を浮かべた時、


「な、何よ!? このドレスは」


 彼女は面食らった言動で、自身の衣服を両手でまさぐりながら確かめる。

 演技とは思えない。


(自分で選んだ訳じゃないのか?)


 狼狽する彼女の姿に、旬の混乱と謎は深まるばかりだったが、旬もまた自らの左腰に違和感を覚えた。


 見ると、緩やかに反った刀身と鞘。糸で編まれた柄など。日本刀にしか思えない物が旬の左腰に下がっている。


 真剣の日本刀を旬は所持しているが、今日の外出に携行はしなかった。


 身につけている物にしても、日本の鎧や手甲など。一度も買ったことがない物ばかりだが、身に覚えはあった。


 旬が執筆していた小説の、主人公の見た目そのものだったからだ。


(間違いない。この格好は、俺が書いていた小説の主人公と全く同じ物だ)


 刀や鎧以外に、ダンジョングルメ物の主人公という事で、包丁や鍋。簡易的なまな板。各種調味料が収められたザックを旬は背負っていた。


 自身の小説主人公の設定に相違ない。

 見た目について旬は断定する。


(だったらなんで俺はコスプレなんてしているんだ……それにこの景色は……)


 小説という単語に旬は、青空を二分する摩訶不思議な光景の正体を思い出した。


(小説投稿サイト『書く人になろう』で、総合一位に君臨している小説の世界にそっくりじゃないか!?)


「こんな服なんてあたし、買った覚えがないのに……」


 未だ混乱の渦中にある二人をよそに、雲はゆっくりと流れていく。


―――――――――――――――――――

ここまで読んで頂き、ありがとうございました。


 この話が面白く、続きが気になったという方は【一つでも構いませんので】☆評価をして頂けると嬉しいです。

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