香
茶々
香
陽気に歩を進める。
この夜の果てまで行くかのようにずっと歩き続ける。
目的などない。ただ歩くことを楽しんでいるだけなのだ。
ここでふと、立ち止まった。
世の果てはここなのであろうか。
甘く豊潤な今までかいだことのない香りがするのだ。
世界一美しい女からもこんな香りはしないだろう。
身体を強い香りに取り込まれ、誘われるまま風の運ぶ方へ足を向けた。
一歩進むごとに強く、熱烈に香りの元に行きたくなる。
早く、早く、人生の一秒でも多くを、この香の中に居ることに費やしたい。
そう思ったのだろう、意識せずとも早足、駆け足、しまいには転けそうになるほど大きな一歩で全力で走っていた。
何処に向かうかも知らぬはずなのに、迷うことなく駆けていく。
その頃にはもう、音も光もなくなっていた。
走っている間に何もかも抜け落ちていったのだ。
それでも走ることを止めない。
どうしようもなく、あの香が恋しいからだ。
ふと、ここで一層香りが強くなった。
あまりにも強く、この身を裂くほど鮮明に香るのだから、走ることなどままならなくなり、足を止めた。
急に止まったものだから、盛大に頭から倒れた。
全身を打ったはずだが、不思議と痛みはなかった。
ただ、より強烈にあの香りがした。
手を伸ばせば香が掴めた。
それどころか、自分の手も香の一部になったかのような気がした。
それを見た人は、幸せそうな顔をして、香りに身体をなげうった。
香 茶々 @kanatorisenkou
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