第55話後見人候補 壱
「あの……申し訳ありませんが、もう一度おっしゃっていただけますか?」
「何度でも言おう。私は桐壺御息所さまの後見人に立候補したい、と」
冗談ではないようだ。
頭弁としては聞き間違いであってほしかったが。どうやら本気らしい。
帝に直接直訴するのではなく蔵人所を通じて伝えてきた辺り、礼儀をわきまえているのだろうが……。
「桐壺御息所さまは現段階で後見人を持っていない心細い状態だ。私が後見人に立候補すれば、まず間違いなく認められるだろう。彼女の身内の不幸は同情を禁じ得ないことであり、また、我が左大臣家は御息所さまとの深い縁もある。放っておけなくてな」
物凄い皮肉だ。
それとも嫌みかな?
大納言の地位なら後見人になれるが……。
左大臣家との縁って……。
自分の妹が御息所に何をしたのか忘れたのか?
あれは酷かった。
「もちろん、すぐにとはいわない」
「御息所さまと我が家には少々行き違いがあったのでな」
恐ろしい行き違いもあったものだ。
下手すれば死んでいる。
それだけの行為をしたのは目の前にいる
今なお、桐壺御息所を逆恨みしているに違いない。
どんな罰ゲームだ。
「
頭弁は「はぁ……」と曖昧な返事をするしかなかった。
「じっくりとお話し」とは何を話す気だ!?
話す前に言うことがあるだろう?
謝罪しろよ!
脅して言うことを聞かせる、の間違いじゃないのか?
「誤解も解ける」ってなんだよ!
誤解じゃないだろ!!
御息所は圧倒的に被害者だ!
「では、よろしく頼む」
畳みかけるように
頭弁としては「よろしく」なんて言われたくなかった。「よろしく」したくない。
「
頭弁の脳裏に、数日前のことが思い出されてくる。
挙動不審だった元伊勢守。
突如、御息所の後見人を降りると宣言した元伊勢守。
「ああ……もう……」
頭弁は頭を抱えるしかなかった。
「大変なことになりましたね」
頭弁を気の毒に思ったのか、役人の一人が話しかけてきた。
「すぐに
「……そうだな……」
頭弁は力なく応じた。
もうどうにでもなれ……という気分だった。
「……面倒なことにならなければいいが……」
そう祈るしかない。
頭弁はこの時、知らなかった。
そして、それがどんな事態を引き起こすことになるのかを。
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