第53話帝の溜息 弐

「やはり、宣耀殿女御せんようでんのにょうごに内親王を託すのは無理かと思う」

「……なにを仰います」

宣耀殿女御せんようでんのにょうごには“母”になる自覚が些か足りないようだ」

「申し訳ございません。ですが、主上おかみ。我が妹、宣耀殿女御せんようでんのにょうごは、二度の流産で気落ちしております。女三の宮さまとの距離も測りかねているのでしょう。どうか、お許しくださいませ」

「そなたはそう言うがな。一度目は流産だったが、二度目は死産だったと聞いているぞ」

「それは……」


 世間では、宣耀殿女御せんようでんのにょうごは二度の流産を経験したとされているが、正確には一度目だ。二度目は死産である。

 この事実を知っている者は少ない。

 宣耀殿女御せんようでんのにょうごの名誉のためにも、死産だったことは伏せられている。

 二度目の子は胎に宿った頃からその動きが少なく、数ヶ月が経った後に胎児は死んだ。女御は既に死んだ赤子を産まねばならなかった。

 その心情は察するに余りある。


宣耀殿女御せんようでんのにょうごの悲しみも分かる。しかし、だからと言って内親王を、あのように粗略に扱って良い訳がない」

「申し訳ございません。宣耀殿女御せんようでんのにょうごさまもあれから反省をし、自ら局で謹慎しておりますゆえ……。今一度、機会をお与えくださいませ。宣耀殿女御せんようでんのにょうごさまには、よく言い含めておきますゆえ」

「……次はないぞ」

「はい。二度と、このようなことがないよう……肝に銘じます」


 深々と頭を下げる山吹大納言やまぶきのだいなごんを見ながら、帝は考える。


(この兄妹はよく似ている)


 山吹大納言やまぶきのだいなごんの言葉はあまり信用できない。

 妹可愛さに、というよりも右大臣に対抗する為に妹を庇っているのだろう。

 宣耀殿女御せんようでんのにょうごは反省などしないだろうに。溜息が漏れそうになる。 


(まあ、良い)


 女三の宮のことは暫く様子を見ることにしよう。


 帝はそう結論付けた。

 しかし、この判断が甘かったことをすぐに思い知らされるのだった。



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