第47話麗景殿女御の気遣い
管弦の宴から半年。
飛香舎(藤壺)に、妃たちは挙ってご機嫌伺いに参上していた。
その日、飛香舎に訪ねてきたのは
「ご機嫌よう、さま」
「
「この度は、素敵な贈り物をありがとうございます。大切にいたしますわ」
女御は扇を口許に当て、にっこりと微笑んだ。
「
「最近は中々ご挨拶に伺えなくて、ごめんなさい」
「いいえ。女御さまもお忙しいでしょうに。私が女御さまの局に伺えばいいのですが……きっとご迷惑になりますわね」
妃同士の行き来は自由である。
ただ、麗景殿は宣耀殿の南側。
「迷惑だなんて……。どうかそんな寂しいことを仰らないで」
「ありがとうございます、
気遣い上手な女御の優しさに、
「ところで、尚侍さま。
「はい。最近、体調が芳しくないという噂は耳にしております」
「胃の腑の調子が悪いらしくて……。昨日、お見舞いに伺ったら、兄君の
「
「はい。妹君の為に薬をお届けに来たと仰っておりました」
「それは、また……典薬寮からの薬とは別物なのですよね?」
「はい。別物です。なんでも、唐渡りの珍しい薬だとか……」
「大納言さまは妹思いの方なのですね」
「本当に。でも、その薬が……」
「どうかなさいました?」
「いえ。何でもありませんわ」
女御は扇を閉じ、にっこりと微笑んだ。
話せる内容はここまで、という合図である。
この先を知るのは危険。
女御が話を逸らした理由は、恐らく、そういうことだ。
「早く、良くなるといいですね」
「ええ。本当に」
二人は、話題を変えて最近話題になっていることに花を咲かせた。
流行も大切な情報源のひとつ。
女御は、宮中で話題になっていることを
驚くほどに情報通で、
女御が主催しているサロンは風流人好みだと聞いた。
難しい詩を詠んだり、文学を論じたりする。宴も小規模ながら、品があるという。
高名な学者や文人などがサロンに出入りして、女御のサロンは文化人の交流の場となっていた。
(内輪だけでなく外の情報もそこから得ているのね)
流石だわと、
女御の局は、飛香舎からは遠い。
いずれ機会があれば、と思うのだが、
「では、また」
「はい。お気をつけてお帰りくださいませ」
優しいだけでは
帝の「添い臥しの妃」として入内した
梨本院御息所が内裏で“承香殿女御”と呼ばれていた頃、
二人だけの妃。
寵愛は専ら承香殿女御に集中し、
それが、
「お飾りの女御」と陰で呼ばれていた
人生など分からないものだ。
あれほど華やかで時めいていた承香殿女御は、一族が失脚し罪人となった。
女御自身も帝に愛されながらも「咎人の妃」「罪人の妃」と陰口を叩かれ、最後まで後宮に返り咲くことはできなかった。今の
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