第40話管弦の宴~準備~ 参
「女御さま、本当に筝でよろしいのですか?」
「ええ」
「ですが、女御さまが得意とするのは……」
「いいのよ」
「はい」
宴では、筝の琴を弾くことにする。
帝もそれをお望みだろう。
けれど、
(管弦の宴……。女御や更衣たちは浮足立ってはいるけれど……。どれだけ素晴らしい演奏をしようとも、
忘れたことなど一度としてない。
詮無きこと。
(それにしても
琴を得意とした女御がいた。
本当は“琴”を弾きたかった。
得意な楽器だったから。
若い二人は知らない。
姉と慕った女御の得意楽器は“琴”だということを。
「そういえば女御さま、弘徽殿の女房らの噂をご存知でしょうか?」
「噂?」
「はい、なんでも宴の席で合奏を女御さまの代わりに演奏するとか……」
「女房たちが?」
「はい」
「そう……。弘徽殿も相変わらず……」
宴で帝に見初められることを望んでいるのだろう。
ここは主人である
けれど、弘徽殿に関しては、女房としての心遣いは二の次になっていた。
「
「そうね……」
そういうことだ。
裳着を終えたばかりの少女の入内は、それは華やかであった。
弘徽殿の女房らは入内してもおかしくない家柄の姫ばかり。
年端もいかぬ少女に、帝は惹かれるどころか、まったく興味を示さなかった。
(幼い
そうして集められた女房たち。
もっとも右大臣の目論見は外れた。
(右大臣さまはそれでいいでしょう。けれど、女房ら違う)
例えそれが女御が成長するまでの繋ぎだったとしても、彼女たちそれに掛けたのだろう。
戯れにせよ、短期間にせよ、帝の見初められ御子を儲ければ立場も変わってくる。末席でも妃として遇される。
右大臣家にとってもメリットはある。
(
帝は承知の上。
右大臣の思惑も承知の上。
そして、
「女房らの噂は気にすることはありません」
「はい、女御さま」
女房らの思惑など気にすることはない。
今まで一度も、帝の心は動かさなかったのだから。
きっと、これから先も……。
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