第34話皇子誕生~妃の怒り~

 帝に御子みこが、それも皇子が誕生したという吉報に国中がその吉報に湧き、祝賀ムードとなる。

 だが、素直に喜べない者たちも居た。

 後宮の妃たちだ。

 妃たちは、皇子を出産した尚侍を悪し様に罵っていた。



「あの女……皇子を懐妊していたのを知っていたんだわ」

「女御さま……幾ら何でもそれは……生まれて見なければ、皇子かどうかなんて分かりません」

「いいえ!知ってっていたのよ!!」

「にょ、にょうご……さま」

「尚侍が産むのは姫宮だと。宮中だけではないわ。都中はそう噂した……」

「う、噂は噂です。信憑性はありません」

「やられたわ。産まれてくるのは姫宮だとよそおったのよ」

「女御さま……」


 怒りで肩を震わせている主人に、周りの女房たちも何も言えなくなってしまう。


「あぁ……あの中将も共犯ね。彼も知っていたのよ。尚侍が産むのは男御子おとこみこだと……なんて狡賢い。中将だけじゃないわ。右大臣家で示し合わせたんだわ。何て卑怯なの!皇子だと知っていたら……決して産ませはしなかったのに……」


 安産祈願と評して、呪詛まがいの祈祷を行っていた女御は、尚侍に謀られたと、怒りに震えていた。

 また、別の妃たちも、尚侍に怒りを爆発させた。



「あんな子供のような女に皇子が生まれるなんて!」

「そうですわ!新参者の癖に!!」

「忌々しい!」

「腕の良い祈祷師に依頼したのに役に立たちませんでしたわ」

「私のところも同じです」

「祈祷師が無能だっただけよ。気にすることはございませんわ」

「本当に。祈祷師はこちらの頼みを聞いて姫宮を産ませようとしたのに……なんて悪運の強い女なのでしょう」


 散々な言われようだ。

 安産の祈祷を請け負った祈祷師は、その後も仕事が無かった。

 誰かに何かに邪魔をされているかのように都での仕事が入らなくなった。

 妃たちの仕業……というよりも彼女たちの家族、縁者たちが祈祷師の仕事の妨害をしたのだ。

 八つ当たりである。

 依頼を失敗した手前、文句を言うわけにもいかず。そもそも貴族相手に、なにかできるはずもなく……。

 祈祷師たちは貴族の機嫌を損ねないようにと、都での仕事を諦めることになった。


「仕事はなにも都だけじゃない。地方の豪族の方が金払いが良い」

「都の仕事は、しばらくするなと言われているしな」

「田舎で仕事を探すか……」


 地方の豪族から仕事を請け負った祈祷師たちは、都を離れていく。

 もっとも彼らも祈祷師。

 呪いのエキスパートでもある。

 このまま黙って去るのは酌だ。


 人を呪わば穴二つ。


彼奴等きゃつらに災いあれ!」

彼奴等きゃつらに災いあれ!」

彼奴等きゃつらに災いあれ!」


 都から離れる前日、祈祷師たちは、妃とその一家に呪いをかけた。

 事情はどうであれ安産祈願だ。

 ならば、こちらの呪いも安産祈願。

 ただし生まれてくるのは姫のみ。

 依頼がそうだったのだ。文句はないだろう。

 


 呪いの効果がでたのかは……定かではない。


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