第20話女たちの謀 参

 下半身露出の逆さ男たちは、検非違使けびいしに連れて行かれた。

 検非違使けびいしも災難だ。

 何故、下半身丸出しの男たちを池から引き出し、遺体を保管しなくてはならないのか。

 一生に一度あるかないかの珍事。

 憐れ、検非違使けびいしたち。

 検非違使けびいしは困惑しながらも、己の職務を真っ当した。


検非違使けびいしも大変ね」

「誰のせいだ、誰の!」

「誰かしら?実行犯?それとも指示した者?それとも、それを許可した者?」


 否定できない。

 どう考えても犯人が悪い。

 こちらは実行犯を撃退しただけのこと。

 正当防衛だ。

 人様の敷地内に無断で侵入したのだ。覚悟はできているはず。


 数は少ないが恐らく夜盗の類……と思っていた。

 が、まさか貴族階級だったとは。



「中納言家の息子までいたとは……」

「息子?ああ、あの下半身露出の逆さ男たちの親の一人ね。ご両親も気の毒に。露出狂の変態貴族だと誤解されているわ。きっと」

「……」

「そうそう、左大将の息子も露出仲間よ」

「は?」

「息子の変態行為がよほど衝撃だったのでしょうね。左大将は自ら謹慎しているらしわ。近々、官位を朝廷に返上するのではないか、と噂されているわ」

「……それはまた……」

「息子を教育しなかった、親の責任は重大よね」

「……」


 もう言葉も出ない。

 自業自得といえばそうだが……。


「時次お義兄さま、気付いていた?」

「何に、だ?」

「あの露出狂四人組、公卿の息子ばかりだけれど、全員、跡取りにはなれない連中だってこと」

「うん?」

「妾腹。または末っ子」

「つまり、出世できない連中ばかりということか?」

「そう」

「なるほど。それで、か」

「ええ」


 要は、捨て駒。

 トカゲのしっぽ切りだ。

 家に命令されて侵入してきたのか。

 誰か別の高位の存在に命じられたのか。


「狙いは何だ?私か?それとも父上か?」

「お・に・い・さ・ま、鈍い。鈍いわ。ここには主上おかみ御子みこを身籠った女人がいるでしょう」

「……狙いはお前だと?」

「そう考えるのが自然でしょう」

「だが、我が家に侵入してお前を殺したところで何になる?少なくとも御子みこは生まれないだろうが……」


 そこまでする理由が分からない。

 殺すなら、毒でも盛ればいい。

 屋敷の誰かに金子を握らせ、蓮子れんしの膳に毒を仕込むよう命じればいい。

 夜盗に見せかけて殺すにしても、その道のプロに暗殺を請け負わせればいいだけ。

 わざわざ自ら手を汚そうとしてまですることではない。蓮子れんしを殺すことに何の意味があるのだ。


 思案顔の時次を眺め、蓮子れんしは笑った。


(妙なところで鈍いのよね。時次お義兄さまも。お義父さまも。どうしても“殺害”が先にくるのよね。この辺は男と女の考えの違いなのかしら?殿方も普通に考えつくと思うのだけれど)


 蓮子れんしは気付いている。

 今回の黒幕は複数いることを。

 背後に妃たちがいることを。


 里下がりをしている今がチャンスと、自分を狙ったことも。

 内裏と違い不慮の事故が起こらないとも限らない。

 どこかの貴公子が美しい姫君に懸想して夜這いをかけてくることも、ないとは言えない。

 屋敷の姫君が帝の寵妃だと知らない世間知らず貴族がいないとも限らない。

 恋い慕った姫君が身重の身だと知らなかった場合もあるだろう。

 複数で楽しみたいと、姫君を拉致監禁する輩がいないとも限らない。


 屋敷には数多の女房たちがいる。

 全員が忠義者という保証はない。

 金で動く者、夫や息子の出世を願う者、多種多様だ。

 女房の手引きで屋敷内へ潜り込める。

 彼女たちに寝所まで案内させれば、後は造作もないこと。

 乱暴されて子供が流れれば儲けもの。尚侍が二度と子を産めない体になれば、なお良し。そんな下衆な思惑が渦巻いていたとしても、なんら不思議はない。


 だから蓮子れんしは、悩み続ける時次に告げる。

 女たちの思惑を。

 彼女たちが仕掛けてきた罠を。



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