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序章 世界

かつて人類は地球という1つの大地で共存していた。

かつて人類は滅亡という現実が迫っていた。

かつて人類は大きく4つに分かれた。


  すでにソレがどれほどの昔なのかを数えることもできないほどの過去、100億に達しようとしていた人類は自らの手で地球環境を破壊し、徐々に、だが確実に人の住める惑星でなくなろうとしていた。文明という叡智と引き換えに地球全土で起こった異変、〝温暖化〟だ。

 温暖化は人類が住める場所を奪っていった。それはまるで、それ以上過去に人類が動物の住処を奪っていったことをトレースするかのようだった。住処を追われた人々はまだ住める土地へと移動した。当然、地球上で溢れかえった人類は、まるで満杯に水の入ったグラスに紅茶を注ぐかのように、その土地から零れ落ちる人々を発生させた。記録上それは、「第三次世界大戦」と記されている。

 人類が地球上の生物で最も優れていたことの要因は、〝叡智〟だと言えるだろう。だからこそ人類の滅亡を予見することができ、どうすれば平和的に解決することができるかを理解していた。予見した可能性が現実味を帯び始めたころ、200近くに分かれていた人類の集団、〝国〟のいくつかは、その平和的解決に向けて準備を始めていた。

 途方もない時間が必要だっただろう。何世代かを必要とした大きな計画だったに違いない。達成できるのかも不透明だったその困難に打ち勝った叡智は、いくつかの巨大な船を空のはるか先・・・宇宙空間に建造した。それは地球という大地を一時的に離れ、宙に浮かべた人工の大地で、地球が自らの力で環境を取り戻すことを待つという壮大な計画だった。だが、コレに追従できる国はそれほど多くなく、さらには追従できる国力を有していても、そうすることを良しとしない意思は多かった。「地球を離れる」という言葉を信じることができなかったのだろう。

 結果的に人類は大きく4つに分かれた。大地に留まった者、宙に上がった者、温暖化によって命を落とした者、そして・・・戦争で死んだ者だ。


 世代がいくつもの交代を経ていたころ、地球上の人類はその数を極端に減少させていた。それは図らずも地球環境の回復を促し、長い時を経て地球は回復を果たしていた。そして宙に上がった人類も順調ではなかったようだ。いくつかの事故や、機械的不具合に端を発する争いがあった。宙に上がっても人類は争うことを捨てることはできず、やはり人数を極端に減らしていた。

 大地と宙。それぞれでやるべきことに追われた日々が、互いの存在を意識から薄れさせ、やがてそれぞれの存在を知らない世代に世界が変貌したころ、互いに地球の回復をはっきりと認識する。宙に上がり生き残った者たちから選抜された者たちが、地球への帰還を目的とした調査に乗り出した。そして同様に、地上に残った者たちも地球全土の回復状況を把握するための調査団を送り出した。この2つが鉢合わせしたときはさぞ滑稽だっただろう。姿形が同じ(当たり前だが)異星人を見たかのようだったはずだ。

 人は傲慢ではあるがバカではない。最初こそ戸惑っただろうが、人類には言葉があり、過去を調べる力がある。互いのことを認識するにそれほど時間を必要とはしなかったようだ。

 こうしてかつて100億を数えた人類は40億ほどに数を減らしてはいたものの、再び1つとなった。人類は40億を統一し、古代から引き継がれていた聖書を基に、〝Noah《ノア》〟と呼ぶ世界統一組織を樹立した。

 Noahが最初に取り決めた文章の冒頭にこうある。

1,地球上の人類人口は20億を上限とする。

これは再び地球を人の住めない大地にしてしまうことの無いよう、取り決められたことだ。

 人類はバカではないと言ったが、〝愚か〟だとは思う。自分たちで取り決めたルールを「少数の人間が勝手に決めたコト」だと言い反故にする者は必ず現れる。今回に限って言えば、その結果にあったものが〝戦争〟だったことは不幸なことだったろう。意思があるからこそ、人間に本能と呼べるモノが無いに等しかったからこそ、他者を見て妬む。個の意思が寄り集まり、やがて集団と化し、大きな衝突へと変容するのにそれほどの時間は人間に必要ないらしい。

 今、世界は戦争の渦中にある。一方で宇宙に住むものが地球に住む者を妬み、自分たちも地球に住まわせろと、同じ人間なのだからそれは権利などではなく、それが当たり前のことなのだと声高に叫ぶ。他方で地球で宇宙を含む世界を管理している者たちはそれを拒む。地球に人類が戻れば、過去に起こった環境破壊が再び加速することは避けられないからだ。そしてその大義名分の裏に、美しい大地という、太古にしか存在しえなかった至宝の中で、それを破壊しつくして余りあると言えるだけの文明を持って生きていけるという優越を手放したくない感情があった。

 Noahは抵抗手段として軍隊を作った。彼らはその軍隊をNoha’s-Arkノアズアークと名付けた。他方で宇宙に住まう者たちがNohaに対抗するための組織を作り、武装した。彼らは自らをStarGazerスターゲイザーと呼んだ。〝星を見つめる者〟である彼らが見つめるのは、地球と言う星に他ならない。そしてこの2者間による戦争は、開戦から20年を経過してもなお、終結する様子をつゆほども見せず、今なお継続中だ。


 この戦争は地上だけでなく、宇宙空間でも行われている。そして戦車や戦闘機といった機動兵器はあまり使用されていない。この戦争の主役は〝mhwミュー〟と呼ばれる人型の戦闘兵器だ。それはパイロットを胸部に収め、巨大な剣や銃を手に闘う巨人だ。ソレを運用するための航空航宙の戦艦も存在する。

 MhwはずっとM-2エムツーmachineマキナ-marionetteマリオネット)と呼ばれる操縦者搭乗型作業用ロボットだった。宇宙での巨大建築物もMhwあってのことだったのだから、その存在はそこそこに昔まで遡れる。M-2がある意味で平和的な運用に始終していたのは、まだ人類が争うという行為に意識が行くことが無かったからだろう。それが兵器としての運用を考慮され、戦闘用のM-2が開発されるまでは驚くほどの早さだった。いくつか存在する大企業がその収益性に目を付けたのは言うまでもなく、Multipurposeマルチパーパス-Humanoidヒューマノイド-Weaponsウェポンズの頭文字から、いつしか自然と、その巨人を指してMhwと呼んだ。

 Mhwを操縦するのが誰でもできるのかと言われればそうではない。できる者であっても当然に優劣は存在する。だが、この戦争が始まるよりも少し前あたりから、人類は過去最大の発見(発明と呼ぶべきかもしれないが)をしている。

 人間は微細な電気信号を発している。脳の内部、神経細胞(ニューロン)の樹状突起から細胞体を経て、軸索を通り、次の樹状突起へと電気信号(インパルス)が流れている。樹状突起は無数に存在し、それによって構築されいる様をニューロンネットワークと呼び、人類はこの電気信号を人為的に送受信する術を得ている。それはつまり、会話を介さなくとも、意思の疎通ができるという意味を指すのだが、やはりこれも誰でもできるものではなかった。

 それは人類の進化と呼ぶべきだろうか。後天的に訓練によってその能力を得るものも存在すれば、先天的にその能力を持つ者も生まれている。そして、この能力が意思の疎通だけかと言えばそうではない。すさまじい早さで進んだ研究は、例えばある技術に常人よりも図抜けて精通している人物に、この電気信号が関係していることが判明している。それは逆に見れば、この能力を有する者の電気信号パターンを解析すれば、その人物が何に秀でているのかを判別することが可能だということだ。この能力を得た人物の適材適所に間違うことはない。この技術により、Mhwのパイロット特性の有無は瞬時に把握することができた。いや、パイロットだけではない。軍事における様々な役割についても適材適所が成され、戦争は加速度的に泥沼化したと言っていいだろう。

 世の中では、こうした能力を顕著に発揮できる者たちを総称して、そしてその人物たちが戦後の新しい世界を構築できる者たちだという期待を込めて「NEXTネクスト」と呼んだ。


 時代は戦争直前に新しく制定された年号で言う〝星歴せいれき〟23年を迎えていた。

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