ファイル.05 八尺様と怪異の理想郷

「九十九さん、突然お願いしに来てしてしまって、本当に申し訳ないねえ」


「いえ、理事長さんにはいつもお世話になっていますからね」


「お飲物です。どうぞ」


「ああ、鷹野さん。いつもありがとうね」


 九十九探偵事務所に、高円寺の商店街組合の理事長が仕事の依頼をしに来ていた。


「それで、今回の依頼というのは最近噂になっている、夜の商店街に現れる白いワンピースの女性の件ですか?」


「さすが九十九さんね。そうよ、私はその件であなたにお願いにきたの」


(お願いにきた、つまりいつものようにボランティアでってことね……)


 最近、九十九の事務所がある商店街に、夜に八尺様と呼ばれている怪異にそっくりな女性が現れるという噂が流れていた。

 それで、商店街組合の理事長から、お客が怖がっているからなんとかしてほしいと依頼されたのだ。


「なんでも、その女性がね、八尺様とかいう背がものすごく高い有名なオバケにそっくりなんだとか。今はまだ噂が流れているだけだけど、これが警察沙汰にでもなったら、色々と面倒だからねえ。その前に九十九さんになんとかしてもらいたいなと思って、今回来たの。ほら、これで風評被害が起きて人が寄り付かなくなってしまうと、うちの商店街としては死活問題になるでしょう?」


「確かにそうですね。わかりました。すぐに調査を始めましょう」


「九十九さん、よろしくね。組合の方でも自警団を結成して、夜に見回りをすることにします。商店街のことは、商店街でなんとかしないとね。それじゃ、何かあれば、私に連絡してね」


「はい。まかせてください」


 理事長が帰ると、サキがため息をついた。


「はあ、お金にならない仕事ですー」


「理事長からの直々の依頼だからな。断るわけにもいかないよ」


「商店街の理事長さん、ケチすぎじゃないですか? 普通仕事を依頼するならきちんとお金を払うべきなのに、いつもお願いだなんていってタダ働きさせてー。うちの探偵事務所はボランティア団体じゃないんですよー!」


「まあまあ、サキ君。こういう仕事も大事なんだよ。信用っていうのは、お金では買えないものだからね。だから、例えお金がもらえないボランティアの仕事だとしても、きちんとこなす事が大事なんだ」


「わかってはいますけど……、なんか納得がいかないんですー!」


「まあまあ。とりあえず、その女性は夜に出るみたいだから、夜に張り込みをしよう」


「……はーい。それじゃ、先生、今日は早く寝て、夜に備えましょー」


「そうだね。でも、その女性が本物の八尺様だったらかなり手強い怪異だから、寝るのは張り込みの準備をしてからね」


 九十九たちは夜に備えて事務所で仮眠を取ることにした。


 八尺様は、インターネット掲示板で有名になった怪異だ。

 身長が八尺(約2m40cm)もあるとされる女性の怪異で、白いワンピースを着て帽子を被っている姿で目撃されていることが多い。

 彼女は自身が気に入った若い男性や子供を狙い、取り憑いて殺してしまうという。


 夜中の二時。

 九十九のスマートフォンからアラームの音が鳴った。


「サキ君、起きてー。ちょうどいい時間になったよ」


「うーん。せんせー、私、もう少し寝たいですー」


「サキ君。これも仕事だから、きちんとこなさないといけないよ」


「……はーい」


「それじゃあ着替えて。張り込みに行くよ」


 九十九とサキは目立たないように全身を黒ずくめにして、商店街の角に身を隠して張り込みを開始した。


 しばらくたっても誰もこなかったので、九十九たちは商店街を見回りすることにした。

 二人は警戒しながら商店街を二周したので、少しだけ休憩することにした。

 

「長丁場になりそうだ。コーヒーを持ってきてよかったよ」


「私はエナジードリンクにします。カフェインで眠気が吹っ飛びますからねー」


 九十九とサキが休憩していると、商店街の裏道から、高身長の女性が歩いてきた。


「ぽぽぽぽぽぽぽ……」


「わー、先生、本当に出ましたよー。白い帽子に、白いワンピース着てますね。八尺様そのまんまだー。いやー、思ってたより、ずっと背が高いですねー」


 サキはうれしそうに小声でつぶやいた。


『こいつ、怪異の臭いがしないぞ。人間なのか?』


『いや、どうみても怪異だ。八尺様といえば有名な怪異だからな。怪異としての存在を消せる何らかの能力を持っているのかもしれない』


『なるほどねえ。いずれにせよ、臭いで追えないのは厄介だな』


「サキ君、静かに。とりあえず、気づかれないように跡をつけるよ」


「はい」


 しかし、二人が商店街を一周すると、八尺様らしき女性は姿を消してしまった。


「ええ、消えた? どこにもいないですー」


「そんなバカな!? もう少し辺りを探してみよう」


 しかし、八尺様らしき女性は見つからなかった。


「あちゃー、私たち、気づかれちゃったんですかねー」


「尾行は完璧だったと思うんだけどねえ」


 九十九は、自分たちの尾行が気づかれたかもしれないことに落胆して、肩を落とした。


「先生、八尺様って若い男や子供が好みなんですよねー。私たちは好みじゃなかったのかなー」


「でも、サキ君は見た目が子供っぽいから、八尺様の好みかもしれないよー」


「もう、先生、私怒りますよー」


「はは、ごめんごめん」


「突然目の前から八尺様らしき女性が消えたのは、彼女自身が何らかの能力を使ったのかもしれない。サキ君。明日理事長にお願いして、商店街の防犯カメラの映像を見せてもらおう。何か気がつくことがあるかもしれない」


「ふーんだ!」


 サキは顔を背けた。


「あれ、まだ怒ってるの?」


「ぷんぷんですよー!」


 (だって、先生ったら私のこと、いつまでも子供扱いするんですもの……)


 次の日の夜、なんと八尺様が九十九探偵事務所に相談に来た。


「こんばんは」


「はいはーい。って、えええええー!」


「どうしたサキ君。って、えええええー!」


 事務所の入口に八尺様らしき人物が立っていたので、二人は腰を抜かしそうになった。

 

「驚かせてしまってすいません。昨日お二人をお見かけした時に、二人とも怪異が混じっているように感じたので、私の仲間かなと思いまして」


「やっぱり、私たちに気づいていたんですねー」


「ええ。でもすいません、昨日は姿を消してしまって。私、後をつけられるの苦手なんです」


「それはすいませんでした。嫌な思いをさせてしまいましたね」


「大丈夫ですよ。実は大変困ってることがありまして、九十九さんに相談したいのです」


「わかりました。どうぞ中へお入りください。詳しくお話を聞かせてもらいますね」


 八尺様は九十九に、インターネット上で有名になりすぎたため、人々から警戒されてしまい、各地で結界を貼られて追い出されてしまって困っていると話した。


「なるほど、そういうことでしたか。それでは、私たちが、八尺様が気兼ねなく生活できるような場所を探してみましょう」


「何かあてがあるのですか?」


「ええ、知り合いに、こういうことに詳しい人物がいますので、相談してみます」


(ふふ、こういう時の望月様だ)

 

 九十九は望月編集長に電話をかけて相談した。


「……というわけなんです。望月さん」


「なるほど。まさか八尺様から依頼を受けるとは、さすが怪異探偵の九十九さんですね。九十九さんは、I県にあるT地区をご存知ですか?」

 

 望月は、日本で唯一、怪異と人間が共存しているT地区の存在を九十九に教える。

 

「I県のT地区ですか。噂は聞いていますが、東北ですから、東京からかなり遠いですねー」

 

 T地区は、明治時代にとある民俗学者が小説で取り上げてから、怪異の住む里として、全国的に有名になった場所である。

 

「ええ。八尺様と一緒にいくとなると、電車には乗れないでしょうから、車で移動することになると思います。東京からですと、高速道路を使って七時間といったところですかねえ」


「やはり車ですよねえ。でも私、二人乗りの軽自動車しか持っていないんです。これは、レンタカーを借りるしかないですね」


「ああ、よければ私の車を貸しますよ。ミニバンなので、八尺様との移動にもちょうどいいと思います」


「いいんですか、望月さん?」


「ええ、九十九さんにはいつもお世話になってますからね。車ぐらいならいくらでも貸しますよ。私の仕事が終わったら、編集部の人間と、車を事務所まで持っていきますね」


「そこまでしていただけるとは……。本当にありがとうございます」

 

「サキ君、望月さんがミニバンを貸してくれるそうだよ。八尺様、車が来たら早速その場所を見に行きましょう」


 望月編集長はミニバンを事務所まで届けてくれた。


「へえ、これ、ミニバンの中でも高級車なやつじゃないですかー。望月さん、さすが編集長なだけあって、いい車に乗ってますねー」

 

「ああ、いい車を貸してくれて、本当に助かるね。長い道中になるから、今回はゆっくりと休憩しながら行こうか。この車なら身体の大きな八尺様がいてもゆったりと仮眠出来るし、途中のサービスエリアにはシャワーを浴びられるところもあるらしいからね。このところ本当に暑いから、車の中にいてもシャワーを浴びたくなるだろうから」


「ふふ、サービスエリアで美味しいものを食べられそうですねえ」


「まったく、君は食べることには本当に目がないんだから」


「ぷうー、私の中の怪異はエネルギーをよく使う子だから、お腹が空くんですよー。私の身体が成長しないのもきっとこの子に栄養を取られてるからですよーだ」


(まだ怒ってたのか、サキ君)

 

 九十九たちは八尺様と望月編集長に教えてもらった理想の場所へと車で向かった。

 途中、サービスエリアで休憩しながら移動したので、目的地に到着するまでに半日かかった。


 T地区は自然が豊かな農村地区で、周囲を三つの山に囲まれている。


「八尺様、サキ君。着きましたよ。ここがT地区です」


「わあー。先生、のどかでいい所ですねえ」


「本当だねえ。八尺様、とりあえず一通りこの地区を巡ってみましょうか?」


「そうですね。いい所なので、いろいろと見てみたいです」


 九十九たちは八尺様と一緒にT地区の名所をまわることにした。


「本当に幻想的な風景ですねー。まるで異世界にいるみたいです。あ、野生の鹿が出てきましたよー。かわいいですねー」


 ここでは、怪異と人間が共存している。


「ここの人たちは、私を見ても、みんな驚かないで普通に接してくれる……」


 八尺様が驚いていた。


「本当に、人間と怪異が共存しているんですね」


(それに、何故だろう? 私はここが懐かしく感じる……)

 

 三人が森に囲まれた道を進むと、急に開けた場所に出た。


「八尺様、ここは昔、姥捨山だった場所です」


「先生、姥捨山ってなんですか?」


「今だと信じられないけど、昔はね、六十歳を過ぎた親は、山に置いてくるっていう風習があったんだよ。だから、ここはお年寄りが連れてこられて置き去りにされていた場所なんだね。この辺の人たちは、デンデラ野って呼んでるみたいだよ」


「えー、昔って、そんな怖い風習があったんですねー」


「それだけ、生活が苦しかったんだよ。お年寄りを養う余裕がなかったんだ。今とは違ってね」


『うみか、気をつけろ! ヤバい臭いだ。とんでもない怪異がくるぞ!』


突然、九十九たちの前に白い物体が現れた。 


「これは! サキ君、見るな!」

 

 九十九がサキをかばってサキの前に立って視界を遮るが、九十九はその白い物体を見てしまう。


「しまった!」


 しかし九十九は、とっさに怪異の能力に耐性のあるゼロが入れ替わってくれたおかげで助かった。


『危なかったな。俺が入れ替わるのがもう少し遅れていたら、お前はあいつに魂を連れていかれてたぞ』

 

『ありがとう、ゼロ』


「あれはくねくねですね。くねくねの姿を見てしまうと、大変なことになってしまうと言われています」


「なるほど。ですが、くねくねさんには、どうやら事情があるようです。ここは私が話を聞いてみましょう」


 八尺様はくねくねとしばらく話し合った。


「お待たせしました。くねくねさんは、さっきはすまなかったと謝っています。どうやら最近、怪異をいじめている悪い人間がいるみたいで、くねくねさんはこの辺りをパトロールをしていたみたいです。それで、私たちをその人間たちと勘違いしてしまったようですね」


「なるほど。ここの地区の住民はみな、怪異に敬意を持って接しているようですから、その人たちは私たちのように外部から来た人間でしょうね。もしその人間に出会ったら、悪いことはしないように注意しましょう」

 

 次に三人はカッパが出るという小川へと向かった。


「八尺様。このT地区はカッパが多いことでも有名なんですよ」


「ほう、カッパですか。珍しいですね」


「先ほどの姥捨山でも話しましたが、この地域では昔、飢饉などで生活が苦しかった時期に子供や高齢者を山などに置き去りにしていたようです。そうして家族から捨てられた人たちがカッパに転生したなどという話もあるようです」


「なるほど、カッパにはそんな悲しい話があったのですね」

 

 九十九たちが小さな橋を渡って小川へと向かうと、小川の中に三人の大人が入っているのが見えた。


 三人はこの地で活動している新興宗教団体に雇われた退魔師だった。

 この宗教団体はT地区に新しい教団施設を作るため、退魔師を雇って邪魔な怪異を排除しようとしていた。


 平安時代からこの国の怪異を狩ってきた退魔師たち。

 江戸時代から明治へと時代が変わると、近代化を推し進める明治新政府は退魔師たちに日本国内の怪異の討伐を依頼した。

 こうして、退魔師たちは明治政府の支援を受けて、日本のほとんどの地域で怪異を退治していった。

 この時、唯一怪異と人間が共存していたT地区だけは、退魔師が怪異を討伐することを拒んだのだ。

 

 三人の退魔師たちは川でカッパを襲撃していた。

 ホスト風の格好をした若い男性の退魔師と、ゴシックロリータの服を着た地雷系ファッションの若い女退魔師、そして黒髪でロングヘアーの黒ずくめの中年女性の退魔師が、退魔の銃という、特殊なギミックのついた拳銃をカッパに向けて構えていた。


 退魔師たちは、彼らの所属する退魔協会が独自に開発した強力な退魔のアイテムを持っていて、それで怪異を狩っていた。

 

「ほーら、聖水入りの銃弾だ。怪異ども、くらいやがれー」


 バーン。

 

 ホスト風の男が、銃でカッパを撃った。


 胸を撃たれたカッパは、倒れ込んで苦しそうにのたうち回っている。


 それをみた他のカッパは、三人から逃げ出し始めた。

 

「きゃははははー。こいつら、カッパのくせに、あんなに怯えちゃってー。マジウケるんですけどー」


「樹里亜さーん。その言い方、ちょっと下品よー。気をつけてねー」


「はいはーい、気をつけまーす」


 (ちっ、相変わらずうるせーババアだ。オキニの玲司には何も言わねーくせによー)


 カッパたちは三人の退魔師から逃げようと必死に川を泳いでいた。


 そのカッパを、中年の退魔師の女性が冷静に銃で撃った。


 撃たれたカッパは、もがきながら川に浮かんでいた。

 

「あらあら、逃げたって無駄ですよー。全員倒しますからねー」


「あー、紅蘭さん、女の怪異はやっつける前に俺にくださいよー。俺がトドメさしますからー」

 

「ははっ、相変わらずヘンタイだね玲司は。女のことしか頭にないのー?」

 

「うるせーぞ樹里亜。一応命懸けの仕事だから、これぐらいの楽しみがないとやってられねーのよ」


「ふふ、いいわよ玲司君。でも、やりすぎちゃダメよ?」


「へへ、わかってますって。ああ、そうだ。カッパは万能薬の原料になるらしくて、闇の業者が高く買い取ってくれるんですよ。あいつら金になりますから、絶対に逃がさないようにしましょー」


 三人は笑いながら逃げるカッパたちを撃ち抜いていった。

 

「おい、お前たち。バカな真似はやめろ。やめないなら、この私が相手になってやる」

 

 この様子を見かねた八尺様が退魔師とカッパの間に入る。


「おお、ラッキー。女の怪異じゃねーか。それも綺麗な顔してるぜ」

 

「あれー、他の二人も、見た目は人間だけど、怪異の臭いがするねえー。怪異が化けているのか、それとも怪異が混じっているのかなー?」


「はは、人間の見た目をしていようが関係ねえー。三人とも狩ってやるぜー」


「まったく……舐められたものだな」


 八尺様は三人を睨みつけた。


「あん? 何言っているんだお前。俺たちの強さがよくわかってねえようだなあ? 上等だ。俺がこの退魔の剣でお前に教えてやるよ」


 玲司は、腰から剣を引き抜くと、刃先を八尺様に向けた。


 退魔師の三人は八尺様と目が合った。

 次の瞬間、三人は恐ろしいまでの力の差と恐怖を感じ取って、身体が動かなくなった。


「え……」


「この地に来て、私はようやく本当の名前を思い出した。私の名は山姫。さあ、私の同胞を痛ぶった罪を償ってもらおうか」


 八尺様は地面につくほど髪を長く伸ばすと、そのまま髪を操作して三人に絡み付けた。


 絶望的な恐怖に支配されながら、三人は後悔した。

 彼女は、決してけんかを売ってはいけない相手だったと気づいたからだ。


「あ、あ……」


 鋼鉄のように硬くなった八尺様の髪が、三人の身体をギリギリと締め上げていく。


 全身に激痛が走るが、もはや三人は声を上げることすら出来なくなっていた。


 山姫として覚醒した八尺様は、動けない三人にゆっくりと近づくと、鋭い爪で首を切りつけ、そのまま首に口をつけて、吹き出した生き血をすすりだした。


 三人の血を吸い尽くした山姫は、九十九たちに振り返ると、にっこりと微笑んだ。


「二人とも、ありがとう。私は、ここが気に入りました。この地に残って、このような愚かな人間たちから、怪異たちを守ることにします」


『さすが伝説の怪異様だ。ハンパない強さだぜ』


『ああ、彼女がいれば、ここの怪異たちも安心して生活できるだろうね』


 その様子を物陰から、黒い山高帽を被った人物が見つめていた。


「なるほど、八尺様の正体は山姫でしたか。これは面白いものが見れました。ふふ、がんばって九十九さんたちを追ってきたかいがあったというものです」


「が、がんばってここまで運転したのはボクなんですけどー」


 山高帽の男の後ろから、ショートヘアで背の小さな女性が顔を出した。

 

「わかってますよ。どうもありがとう、ウェパル。さて、ボスへのみやげ話も出来ましたし、そろそろ私たちも帰りますかねえ。帰りも運転、よろしく頼みますよ」


 山高帽の男はウェパルの肩をポンポンと叩いた。


「えー、またボクが運転するのー。ずるいよダンタリオン」


「君の運転が上手だから、お願いしてるんですよ、ウェパル」


「ほんとー? それはうれしいなー。よーし、ボク、がんばって運転しちゃうぞー。おー」


(単純ですねえ……。ま、そこがあなたの魅力なんですけどね。さて、せっかくT地方に来てもらったので、九十九さんにも一つ、仕事の依頼をしますかねえ)


「あ、もしもし、九十九さん。望月です。そちらは順調ですか?」


「あ、望月さん。おかげさまで、八尺様がここを気に入ってくれました。本当にありがとうございます」


「それはよかった。ところで、九十九さんに余裕があれば、私からも仕事を依頼したいのですが……」


「仕事ですか。私たちは大丈夫です。どんな内容でしょう?」


「実は、T地方にはマヨイガがあると言われていましてね。せっかくの機会なので、ぜひ、マヨイガを見つけて、鷹野さんに記事を書いてもらいたいなと思いまして。ちょうど、月刊ヌーで特集しようと思っていたところなんですよ。あ、もちろん原稿料はお支払いしますよ。取材費も合わせてね」


◇◇◇


「ダンタリオン、お仕事の話終わった?」


「ええ、お待たせしてしまって申し訳ありませんでした」


「それじゃあ、東京へ帰ろー」


 ウェパルは赤いスポーツカーのエンジンをかけた。


「そういえば、ダンタリオン。ボスへのみやげ話って、八尺様の正体が山姫だったってことなの?」


「それもありますけど、一番はここのT地区で退魔師が活動していたってことですねえ。私たちの組織と退魔師が敵対しているのは、君も知ってるでしょう?」


「そうだね。ボクたちが利用している怪異たちを退治しようとしている奴らだからね。そいつらがここで活動していると、都合が悪いんだね?」


「ええ。今、組織が支援している宗教団体がここに大きな施設を作る計画があるんですけど、彼らが秘密裏に退魔師と繋がっているんじゃないかって情報があったんです。今回、実際に退魔師が活動していたので、かなりこの情報の信憑性があがりました。もし、組織を裏切るような行為をしているとしたら、早めに始末しないといけませんからね」


(この人こっわ。絶対に潰す気まんまんだよ。ダンタリオンだけは絶対に怒らせないようにしよっと)

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