ファイル.01 鏡に映る迷子の少女と帰れない駅(10)

 次の瞬間、九十九とサキは電車の中にいた。

 

 電車内には乗客は十人ほどいた。


「先生、とりあえず空いてる席に座りませんか?」


「…………」


「先生? どうかしたんですか?」


「ああ、ごめん。なんでもない。よし、ここに座ろうか。でも、電車が空いていてよかった。もし、この電車が満員電車だったら、大変なことになってただろう?」


「満員電車で乗れなかったなんてなったら、洒落にならないですよ。でも、座れてよかった。こうやって、先生の横に座ってると、私、落ち着くんです」


 しばらくすると、車掌がゆっくりと、車内を確認しながら歩いてきた。

 

 その時、車内にアナウンスが流れた。

 

「お客様にご連絡します。次の停車駅はささぎ。ささぎとなります」


「ささぎ? 先生、ささぎ駅って知ってます?」


「ささぎ……?」


「あ、先生、知ってるんですか?」

 

「いや、私もそんな駅は知らないよ。ただ、何故か百華さんがいるのは、その駅で間違いない気がしたんだ」


「先生の予感はよく当たりますからね。それなら、間違いないです」


「とりあえず、次のささぎ駅で降りてみよう」

 

 二人は、ささぎ駅で電車から降りた。


(なんだこの感覚は……。私は間違いなく……、何度もここに来ている。これがデジャヴ? いや、この感覚は本物だ!)

 

 九十九が闇に包まれた瞬間に、九十九とサキが電車へ乗った時点まで、また時間が巻き戻っていた。


『なあ、ゼロ。お前、何か気づいているか?』

 

『はは、今回は前回よりもはっきりと気づいたようだな。うみか、お前はすでに二回、この駅を訪れている。実は、時間が巻き戻っているんだ。おそらく、強力な怪異がこの駅全体の時間をループさせている』


『やはりそうか、ゼロ。怪異の能力に抵抗できる君がいうのなら間違いないな』


『お前は俺と身体を共有しているからな。だから、この怪異の能力にある程度抵抗できるんだろう。俺みたいに完全ではないみたいだけどな』


『なるほど、だから私も違和感を感じたんだな。それで、時間はいつ巻き戻るのか、大体の見当はついたの?』

 

『一回目はこの駅から外に出ようとした時、そして二回目は、突然アナウンスが流れて黒い闇に包まれた時に、時間が巻き戻ったんだ。どうやら、誰かがこの駅から外に出ようとしたり、一定の時間が経つと、この駅のある空間がループするようになっているみたいだな』


『なるほど、過去二回のループでそんなことがあったんだね。時間制限というのは厄介だな。それまでにループの原因を作り出している怪異を倒さないといけなくなった』


『ああ、それにこの駅の中にいる人間はすでにほとんどが怪異になっていた。その中から元凶の怪異を探し出すだけでも一苦労だぜ』


『闇雲に探しても大変そうだな。何かいい方法を考えてみよう。それまでに、何度もループする羽目になりそうだけどね』


『とりあえず、俺はこの駅ビルの全容が知りたいんだ。まだ、全ての場所を見たわけじゃないからな。怪異を探す手段を考えるのは、それからにしないか?』


『時間制限もあるみたいだしね。対策を考えるためにも、まずはそうしようか』


 九十九たちは駅ビルの中を探索することにした。


 一階から順に探索をしていった九十九は、二階のフロアを探索し終えたところで、黒い闇に飲み込まれて、時間切れとなった。

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