第34話 覚醒チュートリアル 1
バーベナとリカルドの情報を得た翌日、俺は授業を受けながら今後の行動について考え続けていた。
一晩経て辿り着いた答えは『面倒臭い』である。
ブルーブラッドについて情報収集を始め、ユグゲルが山奥に引き籠っていることやバーベナが存在していることについて分かった。
しかし、肝心の組織が結成しているのか、あるいはこれからするのかは不明。
推測も無駄。
だったら、全部ぶん殴って解決しちまえば良いじゃねえかと結論に至ったのだ。
まず第一にバーベナへ会いに行く。会いに行ってブルーブラッドについて聞く。
知らないとなれば、ブルーブラッドに入るなと警告する。入ったらぶっ飛ばすとも警告する。
実際どうなるかは分からんが、バーベナの動きはなるべく監視して……。
ブルーブラッドに所属したような動きを見せたらぶっ飛ばせばいい。
ついでにブルーブラッドの本拠地も吐かせてぶっ潰しに行けば良い。
なんてシンプルかつ素晴らしい計画なのだろう。
堅苦しく、あーでもないこーでもない、もしかしたら、でも……なんて考えるよりずっと楽だよ。
暴力って最高。
というわけで、この計画を確実にするなら俺はもっと強くならねばならない。
力に覚醒した上、光の剣を装備してステータス底上げした状態の勇者と互角に戦う相手をぶっ飛ばさなきゃならないんだからね。
王都近郊に生息する魔物と戦いまくるか、あるいはここはコネをフル活用するべきか。
マリア嬢に頼んで騎士団相手に道場破りでもやってやろうかと考えていたのだが、ここで丁度良い相手が久々に現れた。
「心配かけちゃったね」
リアムだ。
力に覚醒したことで爽やか笑顔がより惹き立つようになった勇者様が学園に復帰したのだ。
「リアム君、もう大丈夫なの?」
「うん。体中調べてもらったからね」
「か、体中?」
「そうなんだよ。色んな学者さんから身体検査を受けてさ」
シャルの質問に返すリアムは、休んでいる間の忙しさを物語るようにため息を吐いた。
だが、一方で教室の奥から「ムホーッ!」という叫び声も聞こえた。
叫び声の方に顔を向けると、分厚いレンズのメガネと三つ編みおさげな女子生徒が口を手で抑えていた。
俺とシャルを応援するなどと言っていた子じゃないか。
「あれ? リアム君、手の甲に……。紋章? どうしたの、それ?」
次はリリたんの質問。
「う、う~ん。よく分からないんだよね。僕の体を見てくれた人達も分からないって」
嘘だ。
この時点で『勇者の紋章』であることは判明しているはず。
それにリアムは嘘が苦手なのか、表情と態度でバレバレだ。
追及はしないが……。たぶん、お偉いさん達から秘密にするよう言われているんだろうな。
「さて、これでいつものメンバーが揃いましたわね」
苦しい状況のリアムを救うように、マリア嬢がポンと手を合わせて言った。
「リアムも戻ってきましたし、皆で湖に行く計画を進めませんこと?」
「あっ、そうだね!」
マリア嬢の提案にいち早く反応したのはリリたんだった。
「水着も買いに行かないとね」
「そうですわね。近いうちに日程を決めて、皆で水着を買いに行きませんこと?」
「賛成!」
キャッキャッと盛り上がる女性陣……の中には当然のようにシャルが混じっていた。
「ねぇ、レオ」
「ん?」
「シャルって本当は女の子なのかな……?」
久々に学園へ来たリアムは片手で頭を抑えながら「ど、どっちなんだっけ?」と動揺する様子を見せた。
俺もね、未だに脳がバグるよ。
バグりすぎて、たまにガチでシャルを女と認識する瞬間がある。
「リアムはどっちだと思う?」
「わ、分からない……! 分からないよ……!」
まるで敵に「人類は正しいのか?」などと聞かれて混乱するかのような、深い深い問いに苦しむリアム。
俺の頭を悩ませるブルーブラッド問題のように答えは出ない。
ブルーブラッドのように力で解決することもできない。
何故なら力づくで答えを得ようとしたら捕まるからだ。逮捕されて人生が終了してしまうからだ。
「いや、待てよ……?」
むしろ、答えを得る日は近いか? 湖に行けば分かるんじゃないか?
だって、その日は水着を着るじゃないか。
体のラインが一番出る状態になるじゃないか。
「なるほど……」
俺の答えを聞くと、リアムも納得するように頷いた。
湖、楽しみだな。
◇ ◇
さて、次の問題を解決しようか。
次の問題は『悪役貴族レオン・ハーゲットの登場』だ。
勇者の力に目覚めたプレイヤーが学園生活に復帰して一発目に起こるイベントである。
悪役貴族として初登場する俺が、弱みを握った生徒を勇者にけしかける。
対する勇者はそれを撃退し、全ては悪役貴族レオンの仕業だったと知るって内容ね。
悪役貴族レオンの存在を知ったマリア嬢は『恥を知りなさい』『クズ』『汚らわしい』などと罵詈雑言を連発し、密かにマリア嬢へ恋心を抱いていたレオンのハートが完全に砕け散るって描写もあります。
悪役である俺を成敗してプレイヤーをスカッとした気分にさせるのもこのイベントに秘められた重要な意義であるが、一番重要なのは覚醒した勇者の力を確認するチュートリアルだろうか?
イベント時に発生する戦闘では戦闘コマンドに『解放』という項目が追加され、解放コマンドを押すと五ターンだけステータスが倍増するって効果がプレイヤーに伝えられる。
実際、プレイヤーは解放コマンドを押してその強さを確認するのだ。
やられ役相手にね。
……このイベントって現実でも重要そうじゃない? リアム自身が自分の力を確認して、今後の人生に大きく影響を与えそうじゃない?
またイベントを潰したら戦乙女案件になるんじゃない?
でも、大丈夫!!
俺には名案がありまぁす!!
「リアム、俺と組手しよう」
実技授業の時間、俺はリアムへ模擬戦を提案した。
「珍しいね、君から言ってくるなんて。どうしたの?」
以前までは俺の力を極力見せないよう、リアムとの模擬戦は避けていた。
まぁ、リアムに誘われて嫌々やってはいたんだけど。
とにかく、俺から誘うのはリアムが言った通り珍しいってことだ。
いつもとは違う俺に対し、リアムが驚きの表情を見せるくらいにね。
しかし、これが名案の答えである。
悪役貴族レオン・ハーゲットは存在しない。存在しないから弱みを握られたやられ役の生徒もいない。
じゃあ、どうするか?
俺自身がチュートリアルの相手役になってやればいいんだよ!!!
悪役じゃないけど体を張ってイベントを強制的に成立させてやればいいんだ!!!
すごい!! 俺、天才!! これなら女神様も大満足して戦乙女を降臨なさらないでしょう!!
「……俺も強くならないといけないからね」
神妙な顔でそれっぽいセリフを言っておけばリアムも納得するだろう。
「レオ……。分かったよ」
本当に納得した。
相変わらず俺の演技は冴えきっているらしい。
「よし、じゃあいくよ!」
お互い位置について、先手を取ったのはリアムだ。
これはいつも俺が消極的だからだろうね。いつもの癖で先手に回ったのだと思う。
俺も俺でいつものように身構えるが、今回ばかりは本気で反応しなきゃマズいだろう。
なんたって、相手は勇者の力に覚醒しているのだから――
「ハッ!」
「ヒョッ!?」
こいつ、力を使ってない!? 覚醒前のスピードと変わらなくない!?
「ヤァ!!」
「…………」
俺は完全に足を止め、リアムの木剣をペシッと軽く弾いた。
違うでしょ、違うでしょ!! 違うでしょぉぉぉぉ!! って叫びたかったね。
叫びはしなかったけど、俺はリアムをギロッと睨みながら言ってやったんだ。
「俺は強くなりたいって言ったんだ。リアム、あの時の力を見せてみろよ」
俺は見たんだぞ、と。
覚醒した時に見せたスピードとパワーをね。
斬撃を飛ばす魔法……は、ヤバそうなので止めてね。
とにかく、覚醒時の身体能力を使ってかかって来いやッ!! ってね。
「……分かった。君の覚悟、確かに受け取ったよ」
リアムは俺に紋章を見せつけながら頷いた。
すると、どうでしょう。
彼の紋章が赤い輝きを放ったのです。
解放コマンドを押した証拠だ! イベント成功!
「じゃあ、行くよ! レオッ!!」
あとは適当に受け流しつつ、俺もリアムを良い訓練相手として使って――内心で「計画通りッ!!」とほくそ笑んでいる間、リアムが視界から消えた。
「はっ」
素っ頓狂な声が漏れてしまったものの、辛うじて気配が掴めた。
真横。左だ。
俺の左側へ超スピードで移動したリアムの剣が迫る。
スピードはシオン以上。
しかし、見えないってほどじゃない。
俺の目は確かに剣の軌道を捉えたのだが、僅かに遅れた反応では左腕を持ち上げてガードするのが精一杯か。
一旦、リアムの剣をガードして次はこちらが反撃――瞬間、盾として使った俺の腕に物凄い力が加わった。
「にゅゅゅん」
結果、俺は変な声を漏らしながら訓練場の壁まで吹っ飛ばされたのである。
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