スカイラス -濡れた鴉のトべない魔法-

色コトバ

第1話 濡れ羽色の鴉

彼女が幸せになれなかった要因があるとすれば、それは少しばかり運が足りなかったことだろう。


人によっては環境のせいだと言うかもしれない。

自分の思い通りに人生を送れないことに憤慨していたかもしれない。

他者から理不尽に振りまかれる不幸にただ泣くしかない人もいただろう。


そんな選択肢がある中で彼女、ユキが選んだ行動とは何もしない事だった。

いつか家族は変わってくれる、いつか周りは変わってくれる。

普通に過ごして会話を続けていれば人は変わってくれる、と信じ待っていた。


親から虐待を受けていた、他人から軽蔑されていた程度の物語だったら、いつか和解でもして幸せになって話は終わる。

それでは何故続くのか。

先程も言ったが、もう一度だけ話そう。

ユキには運が足りなかったんだ、

生まれる前から全ての根底が狂っていた事を知らず、普通だったら幸せになれただろう対応した。そう、普通程度の対応をしてしまった。


生前の知識を持ち得ていなかった故に起こってしまった小さな不運。

ユキは既に終わっている事に気づかなければならなかったんだ、もっと早く。




「うぇ、お、ごほ、ごぼッ」


血の味がする。

さっきまで水の中に沈んでいた僕は、突然浮遊感とともに岸辺へと放り投げられるように落下した。

地面に叩きつけられた痛みに悶えながら、少し血が混ざった水を吐き出す。


逃げてきた時に口を切っていたのかな。

もう疲労で動けそうにもない。


このまま体温を奪われて死ぬのだろうか。



「し・にたく・・ない・・」


人生の目標だったとも言える家族との和解。

それが完全に叶わないと知った日から、生きる意味が分からなくなった。

今までやってきた事が無価値に思えたし、日頃やってきた事すら出来ず部屋に籠もっていた。


でもいざ死のうとしたら怖くて足が動かない、僕には死ぬ勇気なんてものはなく、恐怖に突き動かされ家から逃げた。


まぁ逃げた先で死にかけるんだから、つくづく運がないなぁ。

最後くらい、幸せになりたかった。



「いや、私が助けたのに死なれたら困るんだけど」


助けた?

・・・そういえば、なんで湖から抜け出せたんだろう。


声が聞こえた方向へと視線を向ける。


「身体が冷えてるし、少し温めるね」


濡れている銀色の髪を揺らしながら、手に炎を出している女性がこちらを見下ろして屈み込んでいた。

自身の服だって濡れているはずなのに、構わず僕の体温と服を戻そうとしている。


そうか、この人に助けられたのか。


「・ありがとう・・ございます・・」


まだ瞼の半分くらいしか上がらない。

乾かしてもらっているけど、服の中は濡れて気持ち悪いし、口は鉄臭い。

それでも相手の淡い色をした目を見据えて感謝を伝える。


そう言うと彼女は満面の笑みを浮かべて口を開いた。


「私は先生になりたいんだ」


僕はただ雑談でも何か気が休まるような話でも切り出したのかと思った。


❝ 先生 ❞がその後に紡いだ言葉は今でも覚えている。



「だからね、君の命を救ったし生徒になってくれない?」





____________


色コトバです。

いやぁー小説って難しい。

初めて書くんですけど、この話書くだけで一週間悩みましたね。

これから綴っていく物語は、先生と生徒が贈る青春異質ファンタジーです。

変なもの書いていると自分でも感じているので、話を想像する時に従来のイメージだと混乱される可能性があるかもです、ご注意を。


それでは次回「千里の道も脅しから」、お楽しみに!

(出来ればあらすじとタグを見て下さい、見て下さると凄く有り難いです)

コメント等楽しみにしてます。

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