第3話
マリエラはレオポルドの婚約者。そう、レオポルドの婚約者は悔しいことにフィオレではなく異母姉のマリエラなのだ。
マリエラがレオポルドの婚約者に選ばれたのは、ただ単にマリエラの母親がルオポロ王国の公爵家出身だったから。マリエラが姉だったからでも、優秀だったからでも、もちろんレオポルドが望んだからでもない。
レオポルドとマリエラが婚約し、将来のヴィルガ国王にルオポロ人の血を入れること、つまり、母親がルオポロ人のマリエラが生んだ王子がヴィルガ国王になると示したことで、ヴィルガ王国は魔道具の核になる魔石をルオポロ王国から安定輸入できるようになった。
レオポルドは、分厚いメガネが野暮ったく鈍間で愚鈍な婚約者マリエラをつまらないと言い遠ざけ、幼馴染として仲良くなったフィオレをマリエラよりも優先してくれていた。
フィオレがレオポルドと婚約するには、ただ単にマリエラを排除しても意味はない。それだけだと、ルオポロ王国の血が入った別の令嬢がレオポルドの次の婚約者に選ばれるだけ。
第二王子アルフレードが王太子になる、もしくは、ルオポロ産の魔石に代わる安定した魔石の入手先を手に入れるまで、フィオレがレオポルドの妃になる道はない。
フィオレはレオポルドに恋をした8歳の時に、ラコーニ公爵家の力を使い魔石の研究所を建設し、自ら運営してきた。その研究所で1年前に、やっと、ヴィルガ王国内で発掘されるとある鉱石が魔石になることがわかったのだ。
研究結果を受け取ったフィオレは、すぐにその鉱石が発掘される鉱山を購入した。そして、同い年のマリエラが領地から王都に戻ってこないように、つまり、学園へ入学しないように手を回し、ヴィルガ王国産の魔石発見とそれに伴いレオポルドの婚約者はマリエラからフィオレへ交代されるという噂を社交界と学園へ流した。
その結果、フィオレが将来の王妃になるという認識は学園中に浸透し、周囲から敬意を持って扱われている。あとは、魔石になりうる鉱石を正式に魔石と認可するだけ。そうすればレオポルドと婚約できると、認可のために奔走している。
新たな魔石の発見には共に喜び、認可を急ぐフィオレに協力までしてくれていたレオポルド。そんなレオポルドはフィオレを婚約者に望んでくれていると、レオポルドとフィオレは思い合っているのだと、フィオレはそう思い込んでいた。
新たな魔石の認可まではレオポルドの婚約者はマリエラのままだが、学園では自由に楽しもうとレオポルドに提案した。そんなフィオレの言葉から、マリエラをまだ領地に留めるようにと父カファロ公爵へ言ったのはレオポルドなのだ。
それがまさか、マリエラのいない学園を自由に楽しもうとしていたレオポルドの恋人の座を、イエル・ドルチェとかいう雌犬に横から奪われてしまうとは、レオポルドとの両思いに浮かれていたフィオレは思いもしていなかった。
雌犬はルオポロ王国からの密偵か、もしくは誰か後ろにいるのではないかと、カファロ公爵ラコーニ公爵両家で詳しく調べているが何も出てこない。ルオポロ王国の片田舎を治めるだけでどの派閥にも属さないドルチェ男爵家の末娘には、親族を含めておかしな経歴も怪しい付き合いもない。
両学園に親交があることを示すためだけにある、たった4ヶ月という学ぶには意味のない短期留学制度で、ヴィルガ王国の貴族令息が遊ぶのに丁度良いようにとルオポロ王立学園が選んだ、見た目がよいだけの男爵令嬢。
悔しい。悔しい。悔しい。
……二度と”レオ様”と呼べないように舌を抜き、ふざけたピンク色の毛を毟り取り、赤い瞳をえぐり取り、白い柔肌を火で炙り、二度と腕を組んで歩けないように腕と足を切り落とす。簡単には殺さない。フィオレが屈辱を感じたよりも長い時間、絶望を味合わせないと気が済まない。たとえどんなに無様に謝ってきてたとしても、絶対、絶対、絶対、許さない。
新しいもの好きで好奇心旺盛なレオポルドが、毛色の違う珍しい令嬢に興味を持つ可能性を見落としていたフィオレが悪かった。安易に注意して逆に二人の仲を盛り上げてしまったという初手も反省しないといけない。
イエル・ドルチェは留学期間が終わればルオポロ王国へ帰る。悔しいが、この4ヶ月は監視だけにして、二人の間に障害はないが山も谷もないようにする。実情は恋人同等だとしても、周囲へは友人だと誤魔化している今の関係で留める。イエルは恋人だと周囲に隠しているような曖昧な繋がりならば、イエルの帰国後、飽きっぽいレオポルドの興味は無くなるだろう。
フィオレは叫び出したい程の嫉妬心を無理やり抑え込む。
レオポルドが最後にフィオレの元へ戻ってくれば良いのだ。レオポルドがイエルに飽きるまでは、どんなに憎くてもイエルを処分することを我慢しないと。……フィオレの母だって、どんなに悔しい思いをしても我慢し続け、諦めなかったことで最終的に父を手に入れた。
母が父と出会った時、父は既にルオポロ王国の公爵令嬢と婚約していた。父は母からどんなに頼まれても婚約を解消することはなく、婚約者と結婚してしまう。母は策を巡らせて自身の婚約者を作らせないようにし、強引に未婚を貫いた。そして、カファロ公爵夫人が懐妊したことを知った時に、一夜だけの思い出をと父に関係を強要し、未婚の公爵令嬢のままフィオレを孕んだ。その結果、フィオレは戸籍上では祖父であるラコーニ公爵の末娘とされたのだ。
フィオレとマリエラが共に7歳の時、マリエラの母が病死し、フィオレの母は長年の念願を叶えて父の後妻に収まり、フィオレはカファロ公爵令嬢となった。カファアロ公爵夫人となった母は翌年に跡取りエンリコを産み、今では父と仲睦まじく過ごしている。
そんな母の娘であることを誇りに思っているフィオレは、母のように、愛する人を諦めない。たとえ今はレオポルドの愛がイエルにあるとしても、いつかはフィオレの元へ戻ってくる。いや、絶対に戻らせる。
フィオレの目線の先では、レオポルドがイエルを抱き上げ、はしゃぎながら馬車に乗り込んでいる。フィオレはそんな浮かれた二人を睨みつけながら、レオポルドとの将来とイエルの処分を、改めて、心に固く誓った。
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