第5話
5
深夜、私は、馬鹿の一つ覚えのように
自分の体の範囲内で、自転車を、動かしていた
それはつまり、頭で考える理想でなく
体の丁度、行動できる範囲での行動と言う事だ
辺りは、当然暗い
暗いが、私がコンビニに着くと、それは一時として、一瞬にして、ギンギンに、目が開かれたような明るさに、見舞われた
何たる暁光であろうか
蒸し暑い外とは対照的に、南極基地に、遊泳したかのような
清々しい、空気が、新品の商品と一緒に、消費社会の風を、運び
それに毒されている現代人であることを、強く意識しないまでも、居心地よく
それが良い物であるように感じられた
どちらにしても、商品には、余り、今日は、意味を見出せない
私は、そのまま、トイレに駆け込み
事なきを得た
店内は、静かに、bgmのようなものが流れている
歓喜の歌だろうか
どうしても、正月や、大みそかのイメージが、強いが
これだけ肌寒いと
それもまた、一興なのかもしれないが
しかし、コンビニにしては、なかなか、シックに、クラシックなのだろうか
そんなものを、流しているのを、聞きながら、表に出た
時計は、12時を、過ぎようとしている
店員の黄色い制服が、見えない
バックグラウンドにでも、いるのだろうか
私は、一人、戸惑いながら
何を、トイレの対価として、購入しようかと、見るでもなく、眺める
そんな時、何か、音がした
それは何の音だったか
いつの間にか、店内に、bgmの音はやみ
そのせいで、その音が、非常に、辺りに、響いていたのだ
ビチャピチャ
何の男か、猫が、ミルクを、舐めるような
雨水が、天井から垂れるような
点滴が、体内に、水を、垂らすかのような
一定間隔に、それは、響く
「あのー」
十円のチョコを、片手に、レジに立つが、奥から誰かが出てくることはない
ただ、水音が、粘着質を増し
その奥から、壁の向こう側から、聞こえてくる気がして仕方がないのである
私は、チョコを、元に戻して、しばらく待ったが、店を出ることにした
自動ドアが、けたたましい、サイレンのような音を流しながら
私を、灼熱の表へと、投げ出す
私は一人、そこにいたが
私の自転車の前を、一人の人影が、通り過ぎた
それは、制服を、着ているから
店員なのだろうが、まあ、今から戻る気にもなれず
自転車に、またがった時
厄介な事に気が付いた
自分の律義さと言うか、反復行動と言うべきか
私は、自転車に、鍵をかけて、店内に、入っていたことを、自転車が、ロックされたままである時が付いた時に、答えに、至ったのである
「不味いなコリャ」
頭を掻いても、戻るしかない
マッシュルームへやーが、地肌が、濡れていようが、ふわふわしていようが、答えは、変わらない
服をまさぐってみた物の
鍵のような、硬いものは見つからず
ただ、私は、ぼんやりと、不夜城のような四角い明かりの塊へと進む
「いらっしゃしゃ」
私は軽く会釈をする
先ほどは、居なかった男が、制服を着て、そこに立っている
私は、とりあえず、もう一度、トイレに行くと
便器の横のトイレットペーパーの二つ並んだ、上の木の板に、鍵が、置かれている
助かった
どっちみち、買う事に、なるのであるが
私は、百円のガムを、手に取ると、会計を済ませ、店員の声を後に、外に出た
相変わらず、蒸し暑い
「これ、コナのユニットですよね」
出てすぐに、後ろから声がした
ゴミ箱の横に、店員が、立っている
何を、聞かれたのか、一瞬分からなかったが
やはり周りに人はなく、どうも、自分に聞かれているらしかった
「ええ」
何と、不愛想な、返事であろう
しかし、それ以外に思い浮かばない
「良く知ってますね、人気は、あるそうですけど、あったことは、ありません」
コナのユニットは、マウンテンバイクと言う
歩道以外を、走るのに特化した自転車であるが
問題と言うか、特色は、ギアが、そんざいしていないことある
高い自転車とは、軽くて丈夫と言う第一前提はなんにしても、あるのだろうか
ギアと言う歯車の組み合わせで、踏み込む力を、軽くしたり重くしたりするという
重要に思われる部位が、欠損した上に、十万は越える
最近は、物価高で、十五万は、越える
そんなもの好きな、自転車であるが
街中で、走る分には、スリックタイヤという
わざわざ、装備された山用のごつごつしたブロックタイヤから
すべすべしたおうとつの少ないタイヤに変える
そのタイヤの大きさも、29インチという
通常26インチが、多いマウンテンバイクも
最近は中間の27.5インチも、増えたとは言え
一昔前は、二たくであり、29インチは、大きなものを、乗り越えやすく
平地では、大きいので、その分タイヤが回り走行性が、高くなる
欠点として、大きいので、小回りが利きづらく、のぼりがつらいと言う事がある
そんな、新機軸であった29も、過去のものとなり
姿を、最近はみせ無くなっていたが
つい最近、カタログに再登場していた
マウンテンバイクのもう一つの楽しみは、限りなく、太くそして、軽いタイヤで、走行する事であろう
それは、得も言われぬ、快感を、得るに違いないと、想像するが、実際には、堅実的に、パンク防止の重く硬い物を、装着していた
相手は、さして興味無さそうに、乗せてよ
という
それは、やぶさかではない
自転車は、載れる場所が限られている
特に、注文後初めて乗るなんて言うのはざらだ
「ええ良いですよ」
私はまさか、そのまま、やみの中を、試走し疾走し、失踪するとまでは、考えなかった
不味いのではと、考えたとき、私は、心よりも前に、体が、動き出した
遠くの方で、チェーンの音がする
ギアチェンジがない分、チェーンは、固定され、ガチャガチャと言う音がない
ここら辺が、メンテナンスが、楽な、好まれる理由でもあり
世の中、ママチャリをやめて、普通のタイヤに、ギアのないピストバイクで、宜しいのではないかと思う
ママチャリと同等の値段で、スポーツバイクのメーカ-のものがかえる
しかし、それどころではない
自転車に、特に、低地で、しかも、漕ぎだしならまだしも、speedが載ってしまえば、大変だ
ギアの重さは、出来るだけ、重くしてあるが、足が強いのか
直ぐに、たち漕ぎから、speedを、あげていた
「おっおい」
呼んで止まるとも思えなかった
私は、ぼんやりと、暗闇の中
ライトを、たどる
警察の職務質問が厳しくなっているのだろう
ライトをつけないだけで、聞かれる
都会では、イヤホンをつけながら走ると、止められるらしいが
田舎では、大音量で、歌いながら爆走する姿が散見される
もちろん、イヤホンを止められた姿を見た事が無い
「おっおい」
声が、掠れる
ライトは、点灯しているから、あれが、別人でなければ、追って居ることにはなるだろう
しかし、何処まで行くのだろうか
もしかすると、本当は、そのまま、戻って、来る
ちょっと長い
試走だっただけかもしれない
しかし、ここまで来てしまった以上
途中で戻るべきかどうかも、迷い始めていたし
第一、あれは、僕の自転車じゃない
ただ、貸してもらっているだけだ
だから、僕のサイズには、少し小さい
カタログを見ても、やはり、妹のサイズに合わせてある
マウンテンバイクは、多少、小さいほうが、取り回しが、良いと聞くが
そう言う問題ではないし、山に行かないので、あまり関係は、無いかも知れない
いつの間にか、自転車は、止まり、東屋の前に、ライトが、点滅している
「追って来たんだ」
どういう意味だろう
暗闇の中
相手の異物感を、私は、見ている
何を思って居るのだろうか
私は、どうしようもなく、そこにいた
「どうですか、乗り心地は」
彼女はうなる
「うーん、マウンテンバイク」
まあ、マウンテンバイクである
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