♤♡♧♢
あーあ。たぶん、あの頃すでに気になってたんだろうな。いつもあたしばっかりじゃん。声をかける回数も、「会いたい」の大きさも。告白だって、結局こっちからだったし。
仲良くなったきっかけは、正直憶えてない。(……ふふっ。そういえば君も、いつか似たようなこと言ってたっけ)スマホアプリのメッセージ画面をどれだけ遡ってもイマイチ要領を得なくって。そもそも、おたがいの連絡先を交換するに至った経緯すら記憶から抜け落ちてる。……不思議な感じ。気づいたら一緒にいることが多くなって、「君との時間」が「あたしの時間」になってて。
きっと、決定的なきっかけはなかったんだと思う。積み木を重ねるような「君のいる今日」の繰り返しが、あたしの心を待たずに君を“かけがえのない人”に仕立て上げてしまった。
おたがいの気持ちが並んだり、目が合ったりしたり、それだけであたしの居場所になってしまう。優しく調和される空気。
それはとっても自然なグラデーション。「会う理由」がないと会わなかった関係が、いつの間にか「会えない理由」がない限り“側にいることが当たり前の、特別な人”になっていたんだもん。
(どーせ、最初のきっかけを作ったのはあたしの方だろうけど。君はあたしのことなんて眼中になさそうだったもん)
ああでも、まだ付き合う前――初デートに誘ってくれたのは君からだったよね。
これはあたしらの中で、結構ナイーブな問題。初めてのデートの話をするとき、彼はいつも別の日のデートを頭に浮かべるみたいで。いとも簡単に口喧嘩の原因になっちゃう。それも最近じゃあ、おたがいを揶揄うネタになりつつあるけど。
ていうか、あのデート自体ツッコミ要素満載だったからね。観る映画も、超マイナー小説が原作の「安楽死をテーマにした、めっちゃ重い失恋映画」だったし。パンフレットの写真とか、映画の序盤までの展開から察するに、いかにも「順風満帆なラブロマンス」って雰囲気だったのに。とんでもない裏切りだったわ。
「ふつー、初デートにこんなの選ぶかよ?」ってね
、あははっ。これも今となっては最高の笑い話。上映後のエンドロールで、二人とも号泣してカオスの極みになったことも含めて。
君ってば、ほかのお客さんがぽつぽつ劇場を去っていく中、スクリーンに流れる出演スタッフの名前を食い入るように見ていて。そんな飾らないマイペースさに気が緩んじゃったのかな……あたしはもう駄目だった。大丈夫かなーって思ったけど、ムリだった。ずっとしくしく鼻をすするレベルだったのが、しゃくり上げて子供みたいな泣き方しちゃって。
そしたら君がさ、黙ってハンカチ貸してくれて。お礼言わなきゃって振り向いたら、君のほうが泣いてて。もうね、ボロ泣き。唖然としちゃった。ハンカチ必要なのはそっちでしょ、みたいな。
だけど君は、さも当然のように自分のポケットからもう一枚ハンカチを取り出してさ。さすがに笑っちゃったよね。「めっちゃ準備いいじゃん」って、あたしは上目遣い。「泣かせるつもりだったんでしょ、あたしのこと?」口を尖らして、わざとっぽく拗ねる演技もして。
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