雁を追いかける望見 (殺人鬼を追うトランス女性)

@mothergoose

0. NOみそ

たった2週間の単発のバイトで三千万円稼げるんだって... どうせ嘘だ。


コンビニの棚の前でぼーっとしながら、自分の甘さを痛感し、夕食のカップラーメンをどの味にしようか迷った。みそか辛みそか?


「あの...」


「みそ」(170円)の方が安いのだが、「辛みそ」(200円)の方がちょっとカップ麺が大きい。しかし、「辛みそ」は1円あたり2.3kcalで、「みそ」は1円あたり1.89kcalしかない。当然の選択は...


「あのう!」と背後から苛立った低い声が聞こえた。


両手に持っていたラーメンのカップを、ピクッとして落としてしまった。本能的に、カップを取ろうと屈み、遠くに転がっている辛みそのカップに手を伸ばした。何かが私の背中を押して、つまずいて膝をついた。


「君、お邪魔ですよ」と礼儀正しいふりをした声がした。


カップラーメンを胸に抱え、頭を上げずに背中を棚に押し付け、この男が通り抜けられるようにした。彼の汚れのない革靴とビジネススーツのストライプのズボンが視界から消えたとき、私はゆっくりと立ち上がった。


「死ね、じじぃ」と思った。


無意味なフラストレーションが沸騰した。人生を変える金と根性があればと思った。いや、根性さえあれば十分だ。根性がなければ、たまに振り回されることを受け入れなければならない。自分の頭の良さに頼るしかないことを受け入れなければならない。


そもそも、私の頭の良さがそれほどでもないだろう。そう、カップラーメン2カップの中から安い方を選ぶのには使えるのだ。問題は、私の頭の良さでは、大きなバイトを怖気づいて逃げてしまった事実や、預金残高があと352円しかないという事実をどうすることもできないということだ。


はぁ。


どうしてこんなくだらない三千万円求人広告のことばかり考えてしまうんだろう。私みたいな欲張りなバカガキに対するくだらない詐欺だったかもしれないのに。


私は頭を振り、辛みそラーメンのカップを持ってレジに向かった。少し行列ができているようだったが、私は急ぐところもなく、スマホでミームをスクロールして時間をつぶした。実際の会計は5秒ほどで終わり、「ありがとう」とうなずきながら店を出た。


外が少し騒がしくなっていた。2人の警官が、かなり困っている様子で、倒れている人のそばに立っていた。 なんと、店の目の前で酔っ払いが倒れたのだ。 みっともない、アルコール中毒がこの国を滅ぼすことになるだろう。 何人かの見物人、そのほとんどが他の買い物客だったが、彼らは心配そうな顔をしてひそひそ話をしていた。 私は?他人の恥をじっと見る気には興味がなかった。


いや、他人の恥をじっと見る気には少し興味があった。他の人と同じくらいだ。


地面に横たわっている人を好奇心から見下ろした。


くそ。


見覚えのある光沢のある革靴とストライプのズボン。


どうやらこの男は飲み過ぎて倒れたわけではないようだ。5分前まではまったく酔っている様子はなかった。熱中症か、それとも心臓発作か?


私は思わず一歩前に出た。そこから、倒れている男の顔がはっきりと見えた。彼の青い唇には笑みを思わせる何かが凍り付いていた。目は不自然な非対称の半開きの状態で動かなくなっている。


驚くことに、それは私が数日前に受けたこのいまいましい冗談のようなバイトの依頼で知った顔だった。私が見た写真と目の前の顔との最大の違いは、てらてらに太った額にある小さな丸い凹凸だった。


その凹凸というか穴というか... 彼の脳みそが透けて見えるほど大きくはなかったが、私自身の命が危険にさらされていることを知るには十分な大きさだった。


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