隙間怪談
@ninomaehajime
白い手
そこで子供が亡くなった。
児童公園から飛び出したサッカーボールを追い、飛び出したところを前方不注意のトラックに轢かれた。急な出来事だったとは言え、携帯電話による脇見運転だった。
自宅と駅のあいだに、その児童公園がある。亡くなってからしばらくのあいだ、お菓子や玩具に取り巻かれ、ガラス瓶に花が供えられていた。飛び出し注意の看板が設置され、近くに建っていた地蔵には赤い前掛けがかけられた。
やがて悲惨な事故も風化し、世間から忘れ去られようとしていた。ある朝、いつもと同じくその公園の前を通りかかった。ちょうど公園の出入り口を塞いで、トラックが停まっていた。
嫌な気持ちになった。もう随分前の事故だ。人々の意識から薄れても仕方ない。だけれど、よりによってそこに停まるのか。駐車違反で取り締まられてしまえばいい。
座席を倒して寝ているのか、運転席の窓ガラスからは人の姿は見えない。顔を逸らした。文句はあっても、直接言いに行く度胸はなかった。
ふと、靴の横に軽い衝撃を受けた。
見下ろせば、サッカーボールが転がっていた。当たった感触からするに、どうやら公園側から飛び出してきたらしい。怪訝に思った。児童公園の出入り口はトラックに塞がれており、ましてや子供が遊ぶには早い時間である。
そちらに目を向けた。トラックのタイヤとタイヤのあいだから、白く幼い手が這い出ていた。どうやら、こちらを指差している。
「ボールとって」
耳元で舌足らずな声がした。
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