第102話 東京駅ダンジョンの封鎖について
双剣の神器〈
「よし!」
朝礼のとき、桜先生からそれを聞いた瞬間、オレはすぐにガッツポーズを取っていた。ゆあちゃんと鈴、栞先輩も笑顔を浮かべている。
「東京駅ダンジョンってなんだっけ? むにゃむにゃ……」
ムーニャだけがいつも通り無表情だった。というか眠そうだ。
「陸人くんたちのご家族が囚われているダンジョンですよ」
「あ〜、そういえばそんな話だったね」
「あんた、ずいぶん眠そうだけど、どうしたのよ?」
「昨日、イッシンが寝せてくれなくて」
「え? それって……ムーニャさん、く、詳しく伺っても?」
「ゆ、ゆあも気になるかも……」
女性陣がムーニャの話に食いつく。なにが気になるんだろうか?
「修行でもしてたんだろ?」
「そう。夜中だから、いっさい音を立てずに戦え、とかいう謎の縛りプレイだった。だから上手くできなくて、朝まで……眠い……」
「あ……修行……そうですか……」
「な〜んだ。ゆあはてっきり……」
「むっつりで草」
「むっつりって?」
「おほん。話が逸れてるようなので軌道修正します。東京駅ダンジョンの封鎖が解かれた、ということで、私たちはこれから東京駅ダンジョン攻略に向けて動き出すことになります。すでに荻堂先生には、政府から届いたダンジョンのデータに目を通してもらっています。放課後には、モンスターや地形のVRデータも届くと思いますので訓練に活かせるでしょう」
「へぇ、そこまで情報開示してくれたんだ。だけど、VRで訓練しなくても大丈夫よ。私と陸人は一階層までは踏破済みなんだし」
「そのあたりについては、放課後、荻堂先生と話し合いましょう。今日、明日で攻略する、なんてものでもありませんし。慎重にいきましょう」
「それもそうね。わかったわ」
鈴の気持ちもよくわかる。封鎖が解かれたなら、すぐにでも行きたいところだ。師匠にも、そう提案しよう。
そんなことを考えているうちに放課後になり、訓練場に向かったところ、師匠がすでに待ち構えていた。大きなモニターを訓練場の真ん中に写して、オレたちが来るのを待っている。
「おう。来たか」
「それ、東京駅ダンジョンのマップだよね?」
とゆあちゃんが聞く。
「ああ、政府のやつらから届いたデータだ。あいつら、ダンジョンの全貌を把握してやがった」
「なんですって?」
鈴が怪訝そうな顔をする。
「どうかしたのか?」
「東京駅ダンジョンは、三階層の入り口までしか調査できてないはずよ? 少なくとも、報道ではそう言われているわ」
「ふむ?」
「ああ、そうだ。つまり、政府の奴らは、東京駅ダンジョンの調査状況を隠してたってわけだな」
「隠してた? なんでそんな必要が?」
「理由はこれだ」
師匠がデバイスを操作して、ダンジョンの四階層にポインターを合わせた。
ここで一旦、東京駅ダンジョンの全貌について整理しよう。
東京駅ダンジョンは、階層構造になっているダンジョンだ。各階層は円形になっていて、面積は上に行くほど少しずつ小さくなっている。横から見ると、円形のお皿がピラミッドのように重なっていることになる。各階層は独立していて、宙に浮いている。では、どうやって各階層を行き来するのか。それは、転移魔法陣を利用することになる。
各階層の入口と出口には、転移魔法陣が設置された部屋が存在し、それに乗ると別の階層に移動できる、という構造なのだ。
東京駅ダンジョンにおける階層の移動は、この転移陣が唯一の移動手段なのである。
「それで? その四階層がなんだっていうの? ムーニャ、よく分からない」
「まぁ待て。あー、これだな」
師匠が四階層のマップの隣に写真を表示させた。きっとダンジョン内部の写真なのだろう。そこには、青白いクリスタルの洞窟が映っていた。
「……迷宮鉱石ですね。それもこんなに大量に」
「ああ」
桜先生の言葉に、みんなが、なるほど、みたいな顔をしていた。いや、オレとムーニャ以外が。
「えっと? 迷宮鉱石?」
聞いたことあるような、ないような言葉だった。
「陸人くん? ちゃんと授業聞いてなかったんですか?」
「すみません……」
「じゃあ、今度2人っきりで補修ですね♪」
「桜ちゃん?」
「んん! 一旦それは置いておいて、ムーニャさんも知らないようなので説明します。迷宮鉱石というのは、ダンジョンから採取できる鉱石で、石油に変わるエネルギー源になると言われている鉱石です。研究結果によると、太陽に当てるだけで高熱を発し続け、大気汚染もしないため、次世代のスーパーエネルギーとも言われているんです」
「へ〜? で? その鉱石をなんで隠してたの?」
「それについては、政府から秘匿契約を結んだ上で情報が開示されました。理由は、日本政府で、新資源を独占しようとしたため、だそうです。しかし、ダンジョンに囚われている人命を優先する、という結論で議決したため、その案は破棄した、とのことです」
「取ってつけたような言い訳ね」
「ええ、私たちがダンジョンを攻略できそうだと知って、手のひらを返しているようにしか思えません。この四階層のことをいつから把握していたのかも気になるところです」
「ふむふむ? 整理すると、つまりどういうことなんですか?」
「そうですね。つまりは、政府としては、東京駅ダンジョンを攻略なんてせずに、迷宮鉱石の鉱山として活用しようとしていた、でも、陸人くんたちが思いのほか強くてダンジョンを攻略できそうなので、そんなアイディアもあったけど、やっぱり人命優先なので攻略しちゃってください、でも、外部には漏らさないでね、ということになります」
「なにそれ! ひどくない!」
たしかに、都合が良すぎる言い草だ。
「柚愛さんの気持ちはわかります。でも、もしこれを世間に公表していたら……」
「政府以外のやつらの中にも、どうせ攻略できないなら資源採掘用の施設にしよう、って言ってくるやつが出てきたでしょうね……」
「日本人はがめついなー」
「どの国も同じだろ。だがな、俺個人としては、隠しててくれて良かったと思ってる」
「なんでよ?」
「こうして、おまえらが攻略することを、ごちゃごちゃ文句言う奴は、もういねぇからだ。舞台は整ったってわけだな」
師匠の不敵な笑みに、みんなも笑い返す。
「たしかにそうですね!」
「うん! ゆあたちでサクッと攻略しちゃお!」
「政府の奴らの態度は気に入らないけど、わたしたちは家族を助けるだけ。それだけに集中すべきよね」
「私も全力で戦います。そしてお父さんを……」
「ん〜、ムーニャはみんなについてく。強い奴と戦えればそれでいい」
「よし。覚悟はできてるよーだな。ごちゃごちゃと説明が長くなっちまったが、政府から届いたデータによると、五階層がまるまるボス部屋だろう、って話だ。VR訓練を数日やったら、まずは四階層を目指して何度も潜ることにするぞ」
「了解しました!」
「おまえら! 東京駅ダンジョンは池袋駅ダンジョンよりも危険だと言われているダンジョンだ! 気合い、入れ直せ!」
「はい!」
そして、オレたちの訓練が始まった。政府から届いたデータに基づき、VR訓練を重ねていく。そうこうしているうちに4日が経ち、ついに実物のダンジョンに潜ろう、ということになった。
東京駅ダンジョンに入れないと知って2年、うみねぇちゃんがダンジョンに囚われてから9年近くも経ってしまった今、やっと、オレたちはダンジョンの攻略に乗り出したのだった。
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