第86話 来日
師匠及びオレたちのYouTuberデビュ-から1週間後、高校の訓練場にて師匠にしごかれていると、桜先生が早足でやってきた。
「みんな!いい知らせですよ!」
その言葉に、一旦訓練を中断して、全員が集まる。
「これ!これ見てください!」
桜先生が左手のデバイスでモニターを表示し、こちらに見せてくれた。
「なになに?〈東京駅ダンジョンの開放を進める方向で話が進んでいます。あと一ヶ月だけお待ちいただけると幸いです。国防省迷宮対策本部〉おお!マジすか!」
「はい!さっきこのメールが届いたんです!……でも……」
さっきまでニコニコしていた桜先生が何かを思い出したように、笑顔を曇らせる。
「桜ちゃん?」
「……でも、東京駅ダンジョンは、池袋駅ダンジョンよりも……犠牲者が多いダンジョンなんです……みんなも知ってると思うけど……」
「桜先生、心配してくれるのは嬉しいです。でも、オレたちは負けません」
「陸人くん……」
「ゆあちゃんのグランシールドに、鈴の心眼、栞先輩の新しいスキルだってあります。オレたちは全員がスキルホルダーの最強パーティです。それに、心強い指導者と、天才オペレーターだっています」
「そんな……私なんか……」
「だから、全員で攻略しましょう」
「……うん。頑張ろう。みんなで」
「まっ、そんな気負うな。また100%勝てるまで鍛えてやるよ」
「うぇ〜」
鈴が嫌そうに舌を出し、ゆあちゃんがそれを見て笑う。オレたちがみんな笑顔になったところで、訓練場に知らない人が入ってきた。さっかくいい雰囲気になったのに、野暮な人である。
その人は、ズカズカとオレたちの前までやってきて、ドドン!と腰に両手を当てて停止する。ドヤ顔はしていない。無表情で眠たげな顔をしているのに、態度は偉そうだ。
「大丈夫。ムーニャが来た。ムーニャがいれば勝率100%。安心するといい」
「んん?えっと?あなたは?」
「はぁ……またバカ弟子が増えたか……」
師匠がやれやれと首を振っていた。
「弟子?……あー、ムーニャ・フロストラインさん?ですか?」
「そう。ムーニャはムーニャ」
その人は、師匠の補助スーツを注文したときに連絡を取っていた人物だった。そういえば、あれから2週間くらい経ったように思う。日本に到着していたんだな。
「ムーニャがダンジョン全部攻略してあげる」
依然として偉そうにしているその子は、白髪の女の子だった。師匠曰く、オレたちと同世代らしい。
その子は、胸元くらいまで伸ばした白い髪をポニーテールでまとめていて、前髪はパッツン切り、半分だけヘアピンを使っておでこを出している。ヘアピンのデザインは刀で、腰にも一本の刀を装備していた。
身長は、165くらい。うちの高校とは違う白ベースの水色のラインが入ったブレザーを着て、ミニスカートからは白いパンストがのぞいていた。
顔は、まぁ、よくわからないけど美人だと思う。眠たげな瞳と無表情な様子からはイマイチ感情が読み取れない。
さっきから「自分は強い」みたいなことを言っているが、あまり強そうには見えない。そのあたりは、どうなんだろうか?
「おい、学校に来る前に連絡しろって言ったよな?」
「そうだっけ?イッシンのメール見てない」
「見ろよ」
「ヤダ」
「なんでだ……はぁ、こいつの相手は任せた。俺は次の作戦でも考えておく」
師匠は、ムーニャさんの相手をするのをやめて、モニターをいじり出した。東京駅ダンジョンのマップを表示する。でも、ムーニャさんは、師匠から離れなかった。そして、師匠の足を見る。動かなくなってしまった足を。
「……イッシン、足……」
「あ?ああ、連絡した通りだ。ダンジョンでヘマしてな」
「……つまんない。イッシンだけがムーニャをワクワクさせてくれたのに……」
「あ?」
「イッシンは、雑魚になっちゃったんだね……」
「……え?は?……何言ってんだ!あんた!」
オレは突然の暴言に割り込まずにはいられなかった。
「おい、咲守、いい」
「でも!師匠!こいつは!何にも知らないくせに!」
「師匠?イッシン、弟子とったの?」
「ああ、一番弟子の咲守陸人だ」
「一番……」
そこでやっと、ムーニャさんがオレのことを見る。水色の瞳でジッと見つめられた。いや、睨まれている?
「おい、あんた、師匠に言ったこと、取り消せよ」
「なんで?足が動けない剣士なんて雑魚。ムーニャ間違ってない。訂正しない」
「なんだそれ!師匠はオレたちのために!師匠は足なんか動かなくたって最強だ!」
「おい、咲守、落ち着け」
「師匠は黙っててください」
「いや……当事者なんだが……」
オレとムーニャは静かに睨み合った。突然やってきて、師匠のことを雑魚なんて言い出すコイツをどうしてやろうか、頭に血がのぼっていく。
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