第51話 借金完済
鳴神先輩が借金返済の肩代わりに同意してくれた後、銀行員たちは一応道場の写真撮影は継続し、オレに名刺を渡してから気まずそうに帰っていった。そのあとすぐ、オレはお父さんに連絡し、賞金の使い道について説明した。お父さんは、反対なんかせず、「おまえの好きに使え」と言ってくれた。
具体的な借金の支払いについては、贈与税とかよくわからないことが発生するらしく、そのあたりは桜先生に教えてもらうことになった。最終的に、便宜上、オレが無金利で鳴神先輩にお金を貸して、それを使って借金を返済する、という形を取ることになる。
うむ、よくわからん。けど、これで借金は綺麗さっぱりなくなることになった。めでたし、めでたし、である。
数日後、グループチャットに〈みんなのおかげで、借金を完済できた〉と、鳴神先輩からメッセージが届く。みんなしてお祝いの言葉やスタンプを返信し、鳴神先輩は何度もお礼を返してくれた。
翌日、学校に登校すると、1人で廊下を歩いていたときに鳴神先輩から呼び止められた。オレに話があるということで、二人で屋上に向かう。
屋上には、オレたち二人しかいなかった。
「咲守くん。今回のこと、本当にありがとうございました。これで、父の、私たち家族の大切な道場を守ることができます」
鳴神先輩が両手を前に添えて、丁寧に頭を下げる。
「いえいえ!大丈夫ですよ!降って湧いたみたいなお金ですし!仲間のために使えたんですから!むしろ良かったです!」
丁寧に畏まられて、すごく焦る。実際、あのお金は副産物みたいなもんだし、そんなに気にする必要はないんだけどな……
「ふふ、あんな大金をそんな風に……咲守くんは変な男の子ですね?」
鳴神先輩は顔を上げて、優しい顔で微笑んでくれた。
「ははは、変ですかね?」
「はい。すごく変です。でも、すごく、感謝しています。ありがとうございます」
「そんなそんな。みんなで決めたことですし、オレだけの手柄ってわけじゃ」
「もちろん、みんなにも一人ずつお礼をしてきました。今はまだ言葉だけですが、必ず、みんなの役に立てるよう頑張ります」
「まぁ、そんなに気を張らずに。気楽にいきましょう」
「ふふ、やっぱり変わった男の子ですね。あの、よければこれからは陸人くんとお呼びしても?」
「はい!もちろんです!」
「ありがとうございます。陸人くん。私のことも栞と呼んでくれませんか?」
「え?でも、鳴神先輩は、先輩ですし……」
「みんなは了承してくれましたよ?」
「そうなんですか?んー、なら、栞先輩で」
「はい。よくできました」
栞先輩が子どもに接するような優しい笑顔を向けてくれた。風が吹き、先輩の黒髪がさらさらとなびいて、なぜかドキっとしてしまう。
「私は陸人くんに、大変な恩を受けてしまいました。だから、これから全力でその恩を返していきます」
〈いやいや、そんな風に思わなくてもいいです〉と再度言おうとした。しかし、そのあとに続くセリフで、なぜかオレの脳はフリーズすることになる。
「だから、なんでも、言ってください」
……な、なんでも?なんでもとは?
無意識に、目線が栞先輩の顔の下に移動する。今日もすごいマウンテンだ……なんてことだ……
いやいや!オレは何を考えている!なんでもってのはあれだ!ダンジョン攻略でなんでも頼れっていうあれ!うんうん!
オレは、頭を高速回転させ、最適解を導き出すことに成功した。ほんま、何を考えていたんだろうか。勘違いも甚だしい。
「……陸人くんも……やっぱり、普通の男の子なんですね」
「へ?」
「それではまた、訓練のときに……」
オレの横を通り過ぎる栞先輩の横顔は、ほんのり赤く染まっていたような気がした。気のせいだろうか?
オレは、風にのった先輩の髪のいい匂いに振り向く。建物の中に入っていく栞先輩の後ろ姿を見て、『先輩の髪、いい匂いだったな』と名残惜しく思ったオレは、〈へんたいっくん〉への改名を自覚したのだった。
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