第49話 鳴神神社と道場

[鳴神神社 前]


 鳴神神社の前にリムジンをとめてもらい、全員、車から降りる。見上げると、目の前には、めちゃくちゃ長い石の階段が待ち構えていた。この先に鳴神先輩の実家と神社があるそうだ。だいぶ上の方に鳥居が見える。


「これ、何段あるのよ?」


「ぴったり100段あります」


「うへぇ〜……毎日上り下りしてるの〜?ゆあだったら引っ越したいって言うかも……」


「ふふ、つばめちゃんも小さい頃よく言ってました」


 雑談しながら階段をのぼり終わり、鳥居をくぐると立派な神社が姿を現した。これぞ日本の神社という風格の建物が目の前に現れた。一階建てなのだろうが、二階か三階くらいの高さはあるように見える。めっちゃでかい屋根が和風建築の建物の上に乗っかっていた。


「この奥に私の実家があって、右手に道場があります。こちらにどうぞ」


 案内されるがまま、道場の方に向かう。


「へぇ〜、道場はなんというか、近代的ですね?」


 案内された先で現れたのは神社とはうってかわり、要塞や秘密基地のような見た目をした長方形のコンクリの塊だった。所々にギザギザに亀裂が入っていて、その亀裂が赤く光っている。


「あはは……父の趣味で、10年前に建て替えたんです。母はめちゃくちゃ怒ってました。〈なんだこのデザインはー!〉って」


「はは、まぁ、あの神社とは、なんというかちょっと、ミスマッチですもんね」


「はい。私も当時は目を疑いましたが、今はもう慣れました。それに、もう、使えなくなるかもですし……」


「あの、さっきも言ってましたが、それってどういう?」


「え?いえ!なんでもありません!中にどーぞ!」


 誤魔化されてしまった。本人もつい口にしまっている、という雰囲気だ。事情がありそうな雰囲気に、みんなも気づきつつあるようだった。顔を見合わせるが、何も口にせず、とりあえず、中に入ることにする。


 道場の中は、外見通り内装も近代的で、どこかオレの家の訓練場に近い雰囲気を感じた。コンクリの天井と壁、しかし、地面は木製で隅っこに畳が敷いてあるスペースもある。そこだけが和風の道場という雰囲気だ。


「それでは、早速訓練をはじめましょうか。更衣室はあちらです」


 オレたち4人は、訓練用の装いに着替えて、準備運動をはじめる。鳴神先輩は、入学式に見た巫女服を着ており、腰には刀をさしている。


「先輩は刀を使うんですね?」


「ええ、鳴神流は刀を主流としていますので」


「了解です。じゃあ、1人ずつ軽く手合わせして、それから陣形や連携について話し合いましょうか」


 それから、オレたちは、2時間ほど訓練を行った。

 鳴神先輩は予想よりも遥かに強く、生徒会長ほどでないにしろ、かなりの使い手だった。さすがにスキルホルダーであるオレには及ばないと思うが、一般人で言えば達人クラスだろう。


「思ったより強くて、仲間になってくれてイイ収穫だったー、って気分ね」


 鈴がスポーツドリンクを飲みながら、床に座って呟く。


「おまえ、失礼すぎんだろ」


 他のメンバーも円を描くように座っていた。桜先生がみんなに飲み物を渡してくれる。


「ふふ、大丈夫ですよ。私は双葉さんのそういうズバッと言うところ好きですよ」


「生徒会長には嫌われてるっぽいけどね?」


「つばめちゃんは真面目だから。でも、きっと仲良くなれますよ」


「そのまえに、鈴ちゃんが態度を改めるべきだと、ゆあは思うよ?」


「うっさいわねー、ゆあのくせに」


「くせにってなに!」


「あはは」


 そんな感じで談笑していると、ウィーンと音がして道場の扉が開いた。スーツを着た男性が2人、靴を脱いで道場の中に入ってくる。そして、後ろから黒髪の女の人が追いかけてきて、大きな声を出した。


「待ってください!今は娘のお客さんが!」


「どうしたのかな?」

「さぁ?」


 オレたちは、小声で話すが、鳴神先輩は立ち上がって、冷静な顔で話しかけた。


「お母さん、その人たちは、銀行の?」


「ええ……ごめんね……」


「ううん……いいの……」


「鳴神先輩?あれは?」


 スーツの男たちは、左手のエニモをカメラモードにして、撮影したり建物の広さを計測しているように見えた。なにかの業者?でも、歓迎されているようには見えないし……


「もう帰ってください!来客中ですよ!」


 先輩のお母さんが怒りの声をあげる。


「いえ、しかし、鳴神さん、当行としても借入の返済が滞るのであれば、差し押さえに動かざるを得ませんので……申し訳ないのですが……」


「差し押さえ?先輩?」


 不穏なワードに疑問を口にした。


「……ごめんなさい。恥ずかしいところをお見せして」


「いえ、もしよければ事情を教えてもらえませんか?」


 鳴神先輩は、少し迷った顔をした後、話し始めてくれる。

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