第47話 生徒会長の演技
オレVS生徒会長の戦いが終わり、大歓声の中、訓練場から退場したオレたちは、自分たちの教室に戻って一息ついていた。着替えも終わっていて、「そろそろ帰ろうか」と話していたら、教室のドアが開く。
「先ほどは、ほんっとうに!すみませんでした!」
生徒会長の椿先輩だった。ドアを開けたところで立ち止まり、ひたすらにペコペコと頭を下げている。後ろには鳴神先輩も控えていて、クスクスと笑っている。
「あんたに謝ってるんじゃない?」
ポカーンと見ていたら、鈴に肘で小突かれたので、前に出る。
「えーっと?何がすみません、なんですか?」
「演技に興が乗ってしまったとは言え!あのような態度を!本当にすみませんでした!」
「演技?」
先ほどの戦いの前のことを思い出す。クソガキの鈴に煽られてキレていたように見えたけど、あれは演技だったのだろうか?
「演技ってことは、ホントは怒ってなかったってこと?なのかな?りっくん」
「さぁ?」
「もちろんです!」
「んー?そうかなー?私の目には、双葉さんの発言にイラついてたように見えたけど?」
「栞は黙ってなさい!」
「はぁーい。ふふ……」
鳴神先輩は、引き続きクスクスと笑っていた。
「あー、えっと、つまり演技だったとして、なんであんなことを?」
「ええ、それについて説明させてもらいたくて伺った次第です。お時間をいただけるでしょうか?」
「はい。それはもちろん」
とりあえず、2人に椅子を用意し座ってもらってから、オレたち3人も、2人に向かい合うように腰かけた。
「それで?〈私が最強です生徒会長さん〉お話をどうぞ?」
鈴の煽りに、また生徒会長の眉がひくつく。しかし、今度はキレずに冷静に話し出してくれた。
「ふぅー……そうですね。まず、改めて謝罪を。失礼な態度をとってしまい、すみませんでした。それに突然の手合わせに応じていただき、ありがとうございます」
椿先輩と鳴神先輩が揃って頭を下げる。
「先ほど、咲守くんに手合わせをしてもらったのは、ここにいる鳴神栞を咲守くんのパーティに入れてもらいたく、そのための前準備と理解していただければと思います」
「鳴神先輩を?前準備?」
鳴神先輩の方を見ると、温和そうな顔でニコリと微笑まれた。大人の女性という感じの人だ。桜先生とはまた異なる包容力をもった綺麗な人だと思う。
「りっくん?むー……前準備ってなんですか?」
「栞は本来、私のパーティの一員です。その1人が突然、咲守くんのパーティに入ったとなれば、生徒会で揉め事があったんじゃないか、と生徒たちに勘繰られることでしょう」
「ふむふむ」
「そうなると、学生の間に混乱が生じますし、学園全体の結束力低下にも繋がります」
「ほうほう?」
「なので、〈力を認めた後輩に、自分の仲間を託した〉という形を取りたかったのです。ですので、最後の握手は、私が咲守くんを認めたというのを分かり易くアピールするためのパフォーマンスでもあったのです」
「なるほど?」
「話はわかったわ。でも、そういうことなら、あなたたちがまとめてパーティに加入してくれればいいじゃない?もしくは、こっちが入るってのもありかもね?」
たしかにそうだ。いまいち話の流れが見えてこない。鳴神先輩だけがコッチのパーティに入る理由はなんだ?
「それは……今の生徒会では難しいことなのです……お恥ずかしい話ですが、今の生徒会メンバーは、私と栞、それと副会長たち3人のグループでちょっと揉めていまして……」
「つまり、あなたたちは陸人のパーティに入ることに賛成だけど、他の3人は反対していると?」
「その通りです……」
「なんで揉めてるのか、教えてもらえますか?」
「それは、学園の運営方針に大きな違いがあるからです。私としては、〈ダンジョンを攻略することよりも学生の命を優先したい〉と思っているのですが、副会長の派閥は、〈何人か犠牲が出てもいいから、全校生徒を投入してでもダンジョンを攻略しよう〉という考えなのです」
「それはまた、絶対に分かり合えない方針ね」
「ええ……副会長派閥は、あまりに過激な考えですので、私には、彼らから生徒たちを守る責任があるのです」
「なるほどね。つまり、副会長派のやつらが好き勝手しないように、生徒会長のあなたが目を光らせておく必要がある。だから、鳴神先輩だけはコッチに譲ってくれるってことでいいかしら?」
「概ね、その理解でよろしいかと」
「わかったわ。まぁ、いいんじゃない?鳴神先輩も強いって聞いてるし、体力測定の結果がすごかったのは、わたしたちも見ているわ。陸人とゆあはどう思う?」
「んー、オレは良いと思うよ」
「ゆあも賛成。でも、揉めごとが片付いたら生徒会長さんも仲間になって欲しいよね。さっきの氷魔法すごかったもん!」
「それな!それにめっちゃカッコよかった!魔法みたいで!てか!魔法そのものだった!」
オレはさっきの光景を思い出して、また興奮してしまった。あれはマジでカッコよかった。
「ありがとうございます。生徒会の問題を片付けたときには是非!」
「そのときは歓迎しますね!」
オレと椿先輩が微笑み合っていると、
「ふふ、私も歓迎してもらえるように頑張りますね」
なんて、鳴神先輩が言ってクスクスと笑う。
「あ!そういうつもりじゃ!すみませんでした!鳴神先輩のことも大歓迎です!」
鳴神先輩を雑に扱っていると気づき、頭を下げる。
「いえいえ、こちらが入れて欲しいとお願いしてるので、そんなに畏まらないでください」
「わ、わかりました。ところで、鳴神先輩自身は、椿先輩の考えとは違うんですか?」
さっきの話だと、生徒会長の方針は〈ダンジョン攻略よりも命優先〉だ。オレたちも死ぬ気は毛頭ないが、命懸けで戦っているという意味では方針とは異なっている。
「それは……基本的には、つばめちゃんと同じ考えです。いたずらに命をかけるべきではないと思っています」
「じゃあなんで……」
「私自身に戦う理由があるんです。私も咲守くんたちと同じだから……」
「同じ?」
「私も、東京駅ダンジョンに家族が囚われています」
「先輩も……」
それを聞いて納得した。鳴神先輩は、オレたちの記者会見を見てオレたちの目的を知り、パーティへの加入を決めてくれたんだ。
でも、さっき説明してもらった生徒会でのいざこざが理由で、すぐに申し出ることはできず、今に至る、ということだろう。
「わかりました。それでは、鳴神先輩のパーティへの加入、喜んで歓迎します。みんなもいいよな?」
「いいと思うわよ」
「ゆあもいいと思う」
「ありがと。それじゃあ最後に、桜先生の賛成を貰ったら正式に鳴神先輩を歓迎させていただきます」
「わかりました。その際はよろしくお願いしますね」
「はい。こちらこそ」
ということで、今日のところは2人と連絡先を交換するにとどめ、明日改めて桜先生に相談することにした。
翌日、桜先生が反対するはずもなく、鳴神先輩のパーティ加入が決まる。
こうして、心強い仲間がまた1人、オレたちのパーティに加わったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます