第29話 ダンジョンと鍵
ゆあちゃんがアーチェリーで、鈴が二丁拳銃で遠距離から射撃を開始した。グランタイタンに向かって弓矢と黄緑色の光弾が飛んでいき、次々命中する。
オレは引き続き双剣を投げながら斬り込んでいく。
幸い、巨人のヘイトはオレに向いていた。2人の方に向かわなくてラッキーだ。オレのことを捕まえようと腕を伸ばしてくるので、それを避けながら足を、腕を、斬りつけていく。
大丈夫だ、この速度ならどんだけだって避けれる。
ピピピ。左腕のエニモがタイマーを鳴らした。オレがセットしておいたものだ。戦いを開始して15分が経過した合図だった。
「攻撃やめ!鈴!HPの観測!」
「あいつのHPは!5本のHPバーの1番上が……っ!?なによこれ!」
「いいから!報告!」
「HPバーの1つが1/10くらいしか減ってないわ!」
「了解!えーっとつまり!?」
「あと12時間戦い続けないとダメってことよ!」
「はは!上等だ!」
オレは笑いながら戦いを再開した。12時間だって?それくらい、余裕だ。オレが何年走り続けてきたと思ってる。
うみねぇちゃんがダンジョンに囚われてから、毎日のように3時間かけて走って駅に通ってきたんだ。持久力にはなによりも自信がある。それは、オレのステータスにも表れていて、さらなる自信に繋がった。12時間?それくらい余裕だ。
「鈴ちゃん!いくら、りっくんが体力バカでも12時間はキツいよ!あいつ弱点とかないの!?」
「他のゴーレムと同じなら!額のルーン文字じゃない!?」
「そっか!」
「ゆあちゃん!鈴!狙えるか!?」
「狙ってる!けど!りっくんを追いかけてて狙いが定まらない!」
「了解!じゃあ!オレが狙ってみる!」
「はぁ!?ちょっとあんた!無茶しないで!」
オレはその言葉を無視して、巨人が拳を繰り出したのに合わせて跳躍した。
オレの足の下を風圧が通り過ぎ、拳の上に着地する。そのまま腕を伝って走っていき、二の腕を蹴って額をクロスに切り裂いた。青白く光るルーン文字にヒットする。
「ガァァァ!!」
はじめて、巨人から雄叫びのような声があがった。頭を抑えてフラフラと身体を揺するグランタイタン。
「効いてるわ!HPが一気に減った!」
「どれくらいだ!」
「ざっくりだけど!この10分の攻撃分くらい!」
「いいね!短縮できる!」
「りっくん!あんまり危ないことしないで!」
「これくらい余裕!」
オレはまた走り出す。
隙を見て額への攻撃を織り交ぜていこうと考えていた。このときは。しかし、相手も意思があるモンスターだ。弱点を斬り裂かれ、警戒心が上がっていく。
♢
なかなか弱点を攻撃できず3時間が経過した。結局、この間4回しか弱点を斬れていない。
「HPバーはどうだ!」
「2本目の半分くらい!あと3本半!」
「了解!もぐ!」
オレは背中のポーチからプロテインバーを取り出してエネルギーをチャージする。
「みんなも適宜休憩して!基本オレが引きつけるから!」
「ごめん!ごめんね!りっくん!ゆあが前に出れないせいで!」
「大丈夫!全部オレに任せとけ!ゆあちゃんはオレが守るから!」
「りっくん……」
「ふん!ラブコメやめてもろて!」
鈴の二丁拳銃の光が巨人の額に直撃する。巨人が雄叫びをあげて苦しんだ。
「鈴ちゃんナイス!」
「ナイスゥー!」
そしてオレたちは戦いを続ける。オレたちなら、やれるはずだ。
♢
さらに3時間後
「HPバーはあと2本!」
「いいね!順調!」
♢
さらに2時間経過。
「あと一本よ!」
「はぁ……はぁ……おっけ!やったる!」
戦いをはじめて8時間が経過していた。ゆあちゃんの矢はとっくに無くなり、予備に持ってきた小さい光学銃での援護を必死でやってくれている。顔は曇っていて汗だくだ。緊張もあるだろう。それに、オレがずっと前線で戦っているから心配もしてくれていると思う。
鈴もしんどそうだ。
「あと一本だ!オレたちならやれる!倒そう!」
「陸人なら勝てる!やれるわ!」
「頑張って!りっくん!ゆあもサポートするから!」
オレはゆあちゃんの近くまで走っていき、足を止めずに飲み物を受け取る。それを飲みながら、また斬り込んでいった。何百回目かわからない岩に弾かれる感覚が手元に戻ってくる。効いているようには全く思えない。でも、鈴があと一本だと言うなら間違いないだろう。もうあと数時間でコイツは倒せるはずだ。
♢
さらに2時間、戦いが始まってから10時間近くが経過していた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
疲労が身体を支配していた。まだ立ってはいる。いるが、腕は重く、双剣を持つ両手はだらんと下がっていた。もう、投げる力なんて残っていない。
ゆあちゃんはへたり込み、扉にもたれかかって銃を撃ち続けてくれている。
鈴はその隣でゆあちゃんを守るように二丁拳銃で援護だ。あいつはまだ立っているが、疲労はピークだろう。顔色が悪い。
「すぅぅぅ……ふぅぅぅ……」
「あともうちょっとよ!たぶん10分もすればいけるわ!」
「最高のスキルだ!おまえがいて良かった!」
鈴の言葉を聞いて、身体に元気が戻ってくる。
オレは勢いをつけて駆け出した。巨大な拳を避け、風圧にふらつきながら腕を斬りつけた。拳圧で転びそうになるが、自分から転がって立ち上がる。
「陸人!バーに変化が!離れて!」
変化だって?なんだというのだろう?
「さっきまで緑だったのに!赤くなったの!」
オレは働かない頭を振りながら、数歩後ろに下がる。額の汗を拭って、やつのことを睨みつけた。グランタイタンは、動かない。いや、手を、両手を地面につく。両膝もだ。
「なんだ?」
疑問に感じていると、グランタイタンの身体がボロボロと崩れ始めた。このボス部屋に入るために、鍵の素材になったゴーレムたちのように。
「た、倒した、の?」
ゆあちゃんの力の無い声が聞こえてくる。
倒した?や、やった?オレたちがダンジョンのボスを?
ゆあちゃんの言葉を真に受けて、喜びそうになってしまった。笑顔を、2人の方に向けようとする。
油断だ。
「陸人!ダメ!」
「がはっ!?」
突如、腹に激痛が走る。下を見る。殴られた。オレと同じくらいの小さい物体に。
なんだ?なにに?
疑問を整理できないまま、壁に叩きつけられる。
「がふっ!!」
口の中に血の味が広がる。
「りっくん!避けて!」
「陸人!勝って!」
2人の声で意識が繋がる。すぐに地面を思い切り蹴った。
真下に人型の何かが突っ込んできて、オレがさっきまでいた壁を殴りつけていた。壁を蹴り、回転しながら着地、バックステップを踏んで距離を取る。
「ふぅぅ……ぺっ!」
血を吐いて口を拭う。
土煙から姿を現したのは、オレと同じくらいの170センチほどの人型のゴーレムだった。
「なんだこいつ?」
「グランタイタンの残骸から飛び出してきたのよ」
「なるほどな。あいつのHPは?」
「真っ赤よ。あとほんの数ミリ」
「いいね。俄然やる気が。っ!?」
ガキン!目にも止まらぬ速さで距離をつめられた。拳を受け止めるのが精一杯だった。双剣でヤツの右ストレートを受け止め、その場で留まる。
「ぐぅぅ!!らぁ!!」
弾き返す。
「陸人!」
「りっくん!」
「任せろ!絶対倒す!」
もう足は動かない。接近戦。肉弾戦だ。
オレは思い切り双剣を振り回し、目の前のゴーレムに叩きつける。拳をゼロ距離で避け、頬にかするのを無視して、双剣で弾き返し、こちらの攻撃も弾かれる。
何回も何回も剣戟を繰り出し、何度も何度も相手の拳を避け続けた。徐々に、かすることが多くなってくる。何回か直撃ももらってしまう。血を吐くが、吐きながらオレも攻撃を繰り出し続けた。
どれだけ、その攻防を繰り返しただろうか。
「ひゅー……ひゅー……」
また、拳を受け止めた状態で拮抗してしまった。
やばい……息が……続かない……
もう、あと何回、剣を振るえるだろうか。意思だけで続けていた攻撃が、止められたことで、余計な思考を生んでしまう。
「りっくん!!首を5センチ右へ!!」
薄れかけた意識の中、ゆあちゃんの声が聞こえてきた。信頼できる仲間の声だ。従わない手はない。
ズガン!!次の瞬間、オレの目の前のゴーレムに、ゴーレムの額に、金の鍵が突き刺さっていた。見覚えがある。このボス部屋に入るために使った鍵だ。ゆあちゃんがアーチェリーで撃ってくれたのだろうか。
金の鍵が突き刺さったゴーレムは、身体がパラパラと崩れ始め、そして、光の粒となって消えていった。
……勝った?
バタン。オレは何も声を出すことができず、仰向けに倒れる。
「りっくん!」
「陸人!」
仲間たちの声が聞こえる。走って近づいてきてる音だ。
その音を聞きながら、ぼーっと空を眺めた。
戦い始めた時に、青空だった空は、いつの間にか夜空に変わっていた。
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