第16話 クソガキの口車

[時は現代に戻る]


 〈あのときは、悪かった〉双葉が言っているのは、妹のベルを庇ったせいで、うみねぇちゃんがダンジョンに囚われることになった、だから〈あのときは、わたしの妹が悪かった〉そういう意味だろう。でも、今のオレは、そんな風には思ってなかった。


「あのさ、前も言ったけど、うみねぇちゃんのことは、別におまえの妹のせいだなんて思ってない。……いや、思ってた時期もあったけど、すぐ考え直した。うみねぇちゃんは困ってる人を見捨てれないすごい人だ。だから、別に双葉のことを恨んだりはしてない。オレがおまえの妹も助けてやるよ」


「……ふんっ、相変わらず、口だけは達者ね」


「そうだよね、りっくんは口だけは割とカッコいい」


「あん?」


「ねぇ、ところで、双葉さん?やめといた方がいいってどういうこと?」


 ゆあちゃんが話の軌道を修正してくれたので、オレもその話をすることにした。


「そうだな。こんなフェンス、前には無かった。駅には入れないのか?」


「そうね、わたしも忍び込もうとしたけど、すぐに警報が鳴ったわ。翌日、家に連絡がきてパパに怒られた」


「マジかよ……」


「マジよ。あんたが1年前、最後に忍び込んですぐにこうなったわ。あんたのせいじゃないの?」


「オレ?オレは別になにも……むしろ、モンスターを倒して人助けしたけど……」


「はぁ?それ、詳しく教えなさいよ」


「やだよ。なんでおまえなんかに」


「なんかってなによ!」


 双葉のやつがキレ出した。昔からすぐにキレるやつで、口も悪くて鬱陶しいやつだ。


「うるさいなー。ゆあちゃん、今日は帰って作戦会議しよ」


「え?いいの?双葉さんのことほっておいて」


「いいわけないでしょ!待ちなさいよ!」


「やだよ。おまえ、うっさいんだもん」


「へー?そんな態度とっていいわけ?わたし、忍び込めるダンジョン知ってるんだけど?教えてあげないわよ?」


「んー……オレ、東京駅ダンジョンにしか興味ないんだよね。さいなら」


「ちょっと!ここに入れないんだから、他で修行するしかないでしょ!鍛えて強くならないと2人を助けれないわよ!」


「んー……まぁ……そう言われれば、そうかも?」


「りっくん、とりあえず双葉さんと話だけでもしておかない?同じダンジョン攻略に挑む仲間なんだし。それに、仲間が増えれば、りっくんも強くなるよね?」


「あっ、たしかに」


「どういう意味よ?」


「いや、別に……」


 《クラス替え》スキルのこと、こいつに話して大丈夫だろうか?オレは、訝しむ双葉の顔を見て、自分のスキルについて話すか考えていた。


「りっくんのことはほっといて、いこっ。双葉さん」


「……わかったわ。ついてきなさい」


 とりあえず、双葉の相手は、ゆあちゃんに任せて後ろについていくことにする。



 双葉がオレたちを連れてきたのは、なんだか高そうなレストランだった。近くの高層ビルの20階にあり、夜景もすごい。それに、かなり広いのに個室になっていた。


「すごーい……」


 ゆあちゃんが窓際に立って感動している。


「オレたち、金ないぞ?」


「わたしが奢ってあげるわよ。下民、座りなさい」


 双葉のやつは偉そうに足を組んでメニューを見ている。

 オレたちも座って、自分のデバイスを使ってメニューを見ることにした。どれもびっくりするほど高くて、おどおどしてると、双葉がオレたちの分も注文してくれる。


 高そうな飲み物とお茶菓子が机に並び、本題がはじまった。


「それで、1年前、モンスターを倒したって?」


「そうだな。そんなこともあったなー」


「1年前、あんたが忍び込んだあと、すぐにニュースが出たわよね?東京駅ダンジョンで高校生4人が死亡、1人だけが生き残ったって。知ってるわよね?」


「……まぁ」


「その顔……まさかとは思うけど、あんたが殺したの?」


「そんなわけあるか!意味わかんないこと言うなよ!」


「冗談よ。でも、無関係ってわけでもなさそうね」


「まぁ……」


「それで?モンスターを倒したってのは、ゲートのすぐ近くに出るウサギみたいなやつのこと?それくらいならわたしも倒したけど?なによ、偉そうにして。だっさ」


「そんな雑魚じゃねーよ!オレが倒したのはこんなデッカいユニークモンスターで!」


 オレは両手を広げて、あのときの黒い狼のサイズを表現した。


「ユニークモンスター?」


「あ……」


 売り言葉に買い言葉で口を滑らせたことに気づく。


「バカりっくん……」


「ユニークモンスターってなによ?」


「まぁ、なんか強いモンスターだよ……」


 もう言ってしまったので、諦めてある程度は話してやることにした。


「どんな?」


「すごいでかい黒い狼で、白いやつと灰色のやつもいて……」


「それ、高校生たちを殺したモンスターよね?あんた、警察に言わなかったの?自分が倒しましたって。それ、犯罪よ?もしもし、警察ですか?」


 双葉がデバイスに向かって話しかけ出した。は?こいつ本当に通報を?


「うぉい!!違う違う!あれは人助けで仕方なく!」


「……なるほど。そう、高校生が4人もやられるモンスター、ユニークモンスターをあんたが倒したってことね。やるじゃない。ちなみにだけど、モンスターの姿形なんてニュースで発表されてないわよ」


「は?」


「だいたい聞きたいことは聞けたわ。ありがとね」


「おまえ……カマかけやがったな?」


「そうだけど?騙される方が悪いんじゃない?」


「こ、このクソマロめ……」


「はぁ?さっきも言ったわよね?そう呼んだらコロスって。ここ、奢らないわよ?」


「それは困る」


 オレは、騙されてイラっとしていたが、高級ジュースを人質にとられて何も言えなくなってしまった。ここまで計算ずくだとしたら、このクソマロはなかなかの策士である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る