終末のプロポーズ大作戦

武功薄希

終末のプロポーズ大作戦



 世界の終焉が迫る中、太陽は赤く燃え、空気は重く澱んでいた。ジョンは、長年思い続けてきたマリアの家に向かっていた。彼の手には、大切に選んだダイヤの指輪が握られていた。

 マリアの家に到着すると、ジョンは深呼吸をして玄関のベルを鳴らした。ドアが開き、マリアの姿が現れた。彼女の目は不安と期待が入り混じっていた。

「マリア、話があるんだ」ジョンは言った。

 二人はリビングに入り、窓から見える赤い空を一瞬見つめた。ジョンは膝をつき、指輪を取り出した。

「マリア、僕と結婚してください」

 マリアが答えようとした瞬間、「ちょっと待った!」という声が響いた。突然、クローゼットから男が飛び出してきた。

「マリア、僕こそが君と結婚したいんだ!」

 驚きが冷めないうちに、また別の声が聞こえた。「待ってくれ!」今度は窓から男が入ってきた。

 「マリア、僕たちの仲を忘れたの?僕と結婚して!」

 次々と男たちが現れ、それぞれがマリアにプロポーズを始めた。押し入れから、カーテンの陰から、テーブルの下から、そして玄関からも男たちが現れた。

 マリアは呆然としながらも、どこか楽しんでいるような表情を浮かべていた。最終的に、12人の男たちが彼女の前に並んだ。

 彼らはそれぞれ異なる背景を持っていた。金融界のエリート、貧しいが情熱的なアーティスト、筋骨隆々のアスリート、優しい目をした教師、冒険好きな旅行家など、様々だった。

 マリアは12人の男たちを見渡し、微笑んだ。「みんな、聞いて」彼女は言った。「世界の終わりまであと20時間もないわ。だから…みんなと結婚するわ」

 男たちは驚きの声を上げた。マリアは続けた。「そして、みんなと子供を作るわ。残された時間で、できる限りね。でも、その前に最後の晩餐をしましょう」

 即席の結婚式は、荒廃した教会で行われた。壊れたステンドグラスから赤い光が差し込み、崩れかけた祭壇の前で彼らは誓いの言葉を交わした。元教師の男が司式を務めた。

 式が終わると、マリアは「さあ、魚を捕りに行きましょう」と提案した。ボロボロの車で、彼らは近くの湖に向かった。世界の終わりが近づく中、湖は奇妙なほど静かだった。

 ―――魚、なんて捕れるのか?

 12人の男たちは訝しげに網を投げ入れた。引き上げると、驚いたことに網は魚でいっぱいだった。数えてみると、ちょうど153匹だった。大漁だ。

「こんなに捕れるなんて」元教師の男が呟いた。「何か意味があるのかもしれないね」

 マリアは微笑んだ。「きっと、私たちの最後の晩餐のために用意されたのよ」

彼らは魚を持って、湖畔に戻った。そこで即席のバーベキューの準備を始めた。世界が終わりに向かう中、13人は最後の晩餐のために魚を焼いた。

 炎が魚を焼く音、遠くで鳴り響く爆発音、そして彼らの静かな会話が、不思議な調和を生み出していた。

 マリアは焼けた魚を分け合いながら、12人の夫たちそれぞれの個性や魅力を発見していった。金融マンの知性、アーティストの感性、アスリートの強さ、教師の優しさ、旅行家の冒険心。それぞれが、彼女の人生に新たな色を加えていった。

 魚を食べ終わると、彼らは子作りの試みを始めた。それは笑いと戸惑いと情熱が入り混じった奇妙な経験となった。生物学的な限界はあったものの、彼らは残された時間を最大限に活用した。

 残り1時間となったとき、13人は高台に上がった。空は今や、不気味な色に染まっていた。遠くで、叫び声や祈りの声が聞こえた。

 マリアは12人の夫たちの手を取り、輪になった。「みんな、ありがとう」彼女は言った。「最後の時間を、こんな風に過ごせて幸せよ。魚もいっぱい捕れたしね」

 男たちは頷いた。彼らの目には、愛情と感謝の涙が光っていた。12人の男は自分の選んだ女性に間違いはなかったと思った。

 世界の終わりが近づく中、この13人は静かに立っていた。彼らの間には、言葉では表現できない絆が生まれていた。

 最後の瞬間、マリアは思った。「この世の意味はすべての出会いに感謝することかもしれない……」

 そして、世界は光に包まれた。


 さて、魂は巡り、時空は入り混じる。マリアの子は、新しい世界で同じ名を持つマリアの子として生まれた。生まれた子は新しい物語を紡ぎ出す。そこで出会い別れを繰り返す。




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終末のプロポーズ大作戦 武功薄希 @machibura

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