クラスで人気な陽キャ女子が、実はオタクだったらしい
譲羽唯月
第1話 陽キャ女子の彼女は――
夏休みが開け、すでに三週間が経過していた。
教室では騒がしい声が響き渡る中、
本来は授業なのだが、たまたま担任教師の授業だった事で急遽自由時間に変更し、文化祭の出し物について皆で話し合っている最中だった。
高校に入学してから一年と数か月ほど経つが、今年の夏休み中も親しい友人が出来るわけでもなく至って非凡な日々。
部活に入れば何かが変わると思うが、チームプレーが得意な人種ではないが為に、どこにも所属してはいなかった。
一年生の時は一応所属していたが、部活の雰囲気に馴染めず一か月ほどで退部していた。
二年生になった今、消極的すぎて夏休み前と、ほぼほぼクラス内のポジションは変わっていなかった。
中里はいわゆる高校デビューに失敗してしまった類の人なのである。
中学の頃は、高校生になれば自然と彼女が出来ると妄想していたが、現実ではそう簡単にはいかないらしい。
クラスメイトの陽キャらみたいな性格だったら、もう少し交友関係も広がっていたかもしれなかった。
できれば彼女が欲しい。
無理ならば、せめて友人みたいな人が欲しかった。
そんな悩みを抱えながら、俊利は一年以上も学校生活を送っているのだ。
高校生になり二度目の文化祭の出し物について皆が話し合っている最中も、クラスの中に溶けこめず、勇気を持って話しかけられずにいた。
そもそも、話しかける勇気があったのなら、友人の一人でもできたと思う。
一年生の時は、二人ほど友人らしい人がいたのだが、その二人とは進級と同時に別々のクラスになってしまったのである。
俊利はこの空気感に馴染めず、諦めがちにため息をはき、周りで文化祭の出し物について話が盛り上がっている最中、さらに孤独を感じつつあったのだ。
「まあ、一応、これで十分かな」
壇上前に佇むクラス委員長であり、黒髪ロングヘアが良く似合う陽キャ女子――
「あとは……黒板に書き出された出し物について一緒に考えたり、集計してくれる人が欲しいんだけど……」
夏希はクラス全体を見渡していた。
「じゃあ、中里くんやってみる?」
「……え? 自分が?」
急に名指しされ、焦ってしまう。
「そうだよ。暇そうにしてたし。君でいいかなって」
文化祭は楽しいイベントではあるが、人前に出て目立つような経験など人生で一度もした事はなかった。
それに、自分みたいな陰キャがやり切れるか不安でしょうがなかったのだ。
「じゃあ、中里くんで決まりって事で」
「本当に自分なの? むしろ、自分でいいの?」
俊利は席に座ったまま、驚いた声で何度か聞き返していた。
「大丈夫、君ならやれると思うから」
夏希からは物凄く推薦されていたのだ。
「でも、いいのかよ、そいつでさ」
「文化祭の実行委委員なら、私が代わりにやるけど」
「そんなこと言わなくてもいいじゃん。中里くんなら出来ると思うし、安心しておいてよ」
周りからの評価は低かったものの、なぜか、夏輝だけは俊利の事を信頼している感じだった。
その日の放課後。俊利はクラス委員長の夏希と共に教室に残っていた。
誰もいない夕暮れ時の教室に二人っきりで隣同士になって椅子に座り、自由時間に皆から提案してもらった出し物の中から三つほど選ぶ必要性があった。
黒板に書かれていた数多くの案が、机に置かれたA4サイズのノートに記されてある。
ザッと見た感じ、一〇件近くもあった。
一応、自由時間の最後に夏輝がアンケート用紙を渡しており、放課後にその用紙を集めていたのだ。
そして今、ノートの横には数多くのアンケート用紙の束が置かれてあったのである。
「今から一枚ずつ見て、何が人気なのか探っていかないとね」
二人は協力し合いながら、アンケートを一枚ずつ確認して集計を取っていく。
アンケート用紙はクラス分四〇枚ほどあり、それらには一〇種類の提案の中から三つまで選んで貰っていた。
クラスで一つに決めるわけではなく、最終的に他のクラスとも委員長同士が会話して、出し物の振り分けを行う会議がある。
そのため、寄り多くの提案をクラスメイトから出してもらう必要性があったからだ。
一応、最後まで見てみると、一番人気があったのはメイド喫茶や屋台系などが多い印象だ。
大体、考える事は皆同じなのだろう。
今思えば、自由時間もメイド喫茶系のスタイルが人気だった。
「ねえ、中里くんって、メイド喫茶店とか好きだよね?」
「え、まあ……え、だけど、どうしてそれを⁉」
「だって、以前、私たち関わっていたじゃない」
「え?」
突然の問いかけに訳が分からず、俊利は彼女の方を見て驚くだけ。
「あの時のこと覚えてる?」
「あの時のこと……?」
なんのことかさっぱりだったが、何となく湧き上がってくる記憶があった。
「……え、もしかして」
その時、何かに気づいた。
「その顔、何か思い出した感じかな? 一年も前の事だけど、中里くんが足を運んでくれていたメイド喫茶で去年の夏休みにバイトしてたんだよね」
「そ、そうか。そ、そうだよね」
夏希とは去年クラスが違い、同じ学校に通っている子だとは全然知らなかった。
今年同じクラスになり、彼女の事を知ったのだ。
新しいクラスになってから、彼女に対して不思議と魅力を感じていた。
その自分の心に感じていた正体に今気づけたのである。
雰囲気が全然違っていて、すぐには気づかなかったが、高校に入学する一週間前に夏希がバイトしていたメイド喫茶店に立ち寄っていたのだ。
その事を今思い出していたのである。
夏希から一度だけ、接客してもらったことがあったが、あの頃の彼女と今の彼女は見た目が全然違う。
隣にいる夏希は陽キャ女子であり、メイド服姿じゃなくても、今の彼女は物凄く垢抜けていたのだ。
「私ね、本当はアニメと好きなんだけど。この学校って、そんなにアニメとか見ている人がいないでしょ?」
「確かにそうだね」
「だからさ、君となら仲良くなれそうかなって。皆の前だと友達のように話しかけることが出来なくて。だから、こうして関わる事にしたの。できればなんだけど、友達になってくれないかな?」
夏希から手を差し伸べられ、俊利は友人が欲しかった事もあり、彼女の気持ちを受け入れる事にした。
だから手を伸ばし、友人として握手を交わしたのだった。
クラスで人気な陽キャ女子が、実はオタクだったらしい 譲羽唯月 @UitukiSiranui
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