垂直避難 第2章…日本沈没
138億年から来た人間
第1話 新たな火種
四ノ宮と緋香里の結婚式が行われた丁度その頃、日本に更なる災が降り注ぐ事を予見する出来事が起こっていた・・・
これまで、日本の多くの津波は太平洋沿岸が締めていた。
それに伴い日本の津波に対するデータベースは片側に傾いたままだ。
これから起こる大震災は日本の盲点をつく災害となった。
犠牲者の数、56万人。
すべての人が呑み込まれ、すべてのものが破壊され、日本はすべてを失うばかりでなく、日本列島そのものを失くした。
2036年、5月5日、子供の日。
「準備できたぁ?」
「もうちょっと。」
緋香里は、メイクを整え新調したドレスを着て準備万端に、瑞生と息子の
今日は息子の子供の日を記念に写真撮影をしようと家族で決めていた。
南海トラフ大震災で共に命をかけた四ノ宮と緋香里。
嵐が過ぎ去ったあと互いが失ったものを補うように交際を続け結婚、そして長男が産まれた。
緋香里の父、浅貫も孫を家宝のように大事に見守っている。
巨大震災後も日本には危機的状況が続いている。
地震は断層によるものだけではない。
このところ続いているのが水蒸気噴火によるVLP(超長周期地震)である。
実際に、南海トラフ大震災時、大規模堆積盆地域では卓越した長時間の地震動が観測された。
これにより、超高層建築物の耐震基準が見直される事に迄なった。
然し、これからの日本にとって南海トラフ大震災、首都直下型地震の経験データは貴重なものであり、防災面での躍進に繋がっている。
未来の日本を背負う香瑞生ら子供たちの時代には、自然に負けない国造りが叶うことを願う四ノ宮だった。
「信田部長、ディフェンドⅢの定期運行に行ってまいります。」
「傷つけんようにな!導入したばかりで未だ国に借金してるんだからな。」
「はい。」
四ノ宮は、勤め先の防災センターディフェンドの操縦士兼係長という立場になった。
「
四ノ宮の部下で副操縦士である美豆倶胝を連れ、新しくなった特殊救助ヘリコプター「ディフェンドⅢ」に乗り込む。
水蒸気噴火はマグマからの熱供給による熱水系の熱膨張・増圧が要因と考えられている。
また、物理的立場からスピノーダル分解が噴火の爆発に関係があるとも言われる。
スピノーダル分解とは過飽和状態の限界に達した際に起こる急激な相転移であり、火山により熱水が急激に過熱・減圧さされることより発生する。
このところ続いている超長周期地震に対するメディアのあおりにも似た報道は、ディフェンドの体制強化にも寄与している。
防災に対する国の予算編成は与野党満場一致という例を見ない結果を生み出し、ディフェンドの建屋増築、ディフェンドⅡからⅢへの新機体導入と相成ったのだ。
「四ノ宮さん、南海トラフ、首都直下の当時に比べて、上空からの景色はどうですか?」
美豆倶胝は、信田部長から飲み会の席で聞かされた四ノ宮のディフェンドⅡでの救出活動に興味津々に尋ねる。
四ノ宮は、それに答える前に暫く沈黙をした。
南海トラフ巨大地震が起き、多くの犠牲者を前に気後れし、逃げ出そうとした罪悪感が頭を擡げていたのだ。
「そうだなあ、日本の底しれぬ歴史の力が列島に根ざし、生命を絶えず守っている。といったところかな?」
進行方向から視線を逸らさず操縦桿をしっかり握っている四ノ宮がそう呟くと、「なるほど。」と美豆倶胝は真っ白な脳内をごまかすために嘯いた。
関東周辺を飛行したディフェンドⅢは、定期運行を終え、ディフェンド敷地内に帰還した。
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