叔母が亡くなりました。
崔 梨遙(再)
1話完結:2100字
叔母が亡くなりました。亡き母の妹です。享年76歳でした。ウチは親戚付き合いがあまり無く、叔母は数少ない付き合いのある親戚でした。身長155センチ。多分、叔母の世代なら平均的な身長でしょう。髪はベリーショート。髪は絶対に伸ばしませんでした。
叔母は教師でした。最後は校長になりました。ですが、定年間近に膠原病(こうげんびょう)になり、他の病気も併発。退職してからは入退院を繰り返していました。骨粗鬆症なども併発していて、寝返りをうっただけで骨折したりしていました。
入院しても、入院しても、蘇って退院してくる。叔母を逞しく感じていました。すごく生命力のある人でした。“この人は、こうやってこのまま長生きするんだろうなぁ”と思っていました。
ところが、容態が急変したんです。叔父(叔母の旦那様)から父に連絡がありました。危篤だというのです。信じられませんでした。入院しても、また復活すると思っていました。ところが、病室に入って、そうじゃないことを悟りました。
こんな短期間にこんなにも衰弱するものか? というくらい衰弱していて、死相が出ていると感じました。叔母は意識が無くなったり戻ったりしていましたが、父と僕が来たことは理解したようでした。
そして、父と一度家に帰り、翌早朝、叔母は静かに亡くなったそうです。翌日がお通夜、その更に翌日が葬儀でした。
叔母とは、幼い頃に定期的に会っていました。誕生日とクリスマス、プレゼントを持って来てくれました。ですが、叔母は子供と話すのは退屈だったのか? 僕達兄姉と話さず父母とばかり話していました。
なので、僕は子供の頃、叔母と長時間お話ししたことはありませんでした。
叔母はなかなか結婚せず、祖母と母の実家で暮らしていました。時々、母に連れられて母の実家に行き、その時に叔母と会うのですが、叔母はいつもしかめっつら、不機嫌そうな顔をして座っていました。だから、“叔母?”と聞くと、不機嫌そうに座っている姿を想像してしまいます。
叔母には長く付き合った恋人がいました。僕が小学校の5~6年生の頃、父母と叔母と叔母の恋人で、日曜などテニスをしていました。叔母は僕の家で恋人の男性とイチャイチャしていた時もありました。その時の叔母はとても楽しそうで、僕が初めて見る笑顔でした。叔母がこんな笑顔を見せることがあるのだと知りました。
叔母はその恋人とは結婚せず、40代で別の男性と結ばれました。子供は作りませんでした。その代わり、旦那様がバツイチの子持ちでしたので、2人の子供が出来たのです。ですが、子供と言っても女子大生と男子高校生でしたので、幼い子供を育てるという経験はしていません。それでもいいのでしょう。叔母は結婚してから明るくなりましたから。叔母にとっては結婚して良かったんです、きっと。
ということで、怖い印象の叔母でしたが、僕達家族は3回助けられています。
1回目は、僕の出産の時です。母の血液型がRHマイナスでしたので、輸血の在庫の豊富な病院で母は僕を出産しました。その病院、病院代が高かったんです。当時の父の収入では苦しかった時、叔母は父にお祝いと言いながら結構な金額をくれたらしいのです。その時、僕達家族は助けられました。
2回目は、僕達家族がシンガポールから急遽撤退してきた時です。数年間はシンガポールに滞在する予定が、不況(特に鉄鋼)により父が勤めていた会社が倒産のピンチになり、帰る家を用意する間もなく撤退したのです。バタバタでした。そんな時に叔母が、
「落ち着くまで一緒に(叔母と祖母と)暮らしたらええやんか」
と言ってくれたので、母の実家で暮らせたのです。僕達一家の危機一髪、救ってくれたのは叔母の一言だったのです。
3回目は、母が亡くなる時です。癌で入退院を繰り返し、母が家で療養している時に容態が急変したのですが、父はどうしたらいいのかわからず困っていました。そこへ、見舞いに来た叔母が救急車を呼ぶように冷静に指示をして母を最後に病院へ送ることが出来たのです。母は病院で安らかに息を引き取りました。叔母がいなかったら、僕達は何も出来ないまま、母は苦しみつつ自宅で亡くなるところでした。
数年前、1回だけ叔母と食事したことがありました。その時は、病気でしたがまだ元気で、母の話や家族の話、そして仕事の話などをしました。1回だけですが、その時に初めてゆっくりと話すことが出来たので、会って良かったと今は思います。その時、叔母は上機嫌で明るく元気でしたので、笑顔の叔母が瞼に焼き付きました。僕が叔母を思い出すとき、不機嫌なな顔と、その時の笑顔、2つの顔が浮かびます。会ってなければ、不機嫌な顔しか思い出せなかったでしょう。
怖かったけど、叔母には感謝しているんです。何故でしょう? 寂しいです。寂しいから思い出を書き始めましたが、書いている内に余計に寂しくなりました。大切な人を失うって、寂しいですね。
叔母さん、ありがとうございました。ご冥福をお祈りします。
余談ですが、叔母は『叔母さん』と呼ぶと怒るので、最後まで『お姉ちゃん』と呼ばされました。
“お姉ちゃん、ありがとう!”
叔母が亡くなりました。 崔 梨遙(再) @sairiyousai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます