苔の王：エメラルドヘイヴンの空虚な繫栄について

シルバーホライゾン

第22話：崩壊する黄金☑

夕陽が沈みゆく都市の景色を背に、シルバーホライゾン本社の最上階に位置する会議室は、緊張感に満ちていた。この部屋は、企業コンサルティングの最高峰として名を馳せるシルバーホライゾン社の中枢であり、その威厳ある雰囲気は、重厚な木製テーブルや偉人たちの肖像画、そして数々の栄誉ある賞状によって強調されていた。

窓際に立つリチャードCEOの姿が、夕陽に照らされて影を長く伸ばしている。彼の眉間には深いしわが刻まれ、その目には鋭い光が宿っていた。リチャードは、ゆっくりと会議室の中央へと歩み寄り、着席した取締役たちを見渡した。

「諸君」

リチャードの低く落ち着いた声が、静寂を破った。

「我々は今、未曾有の危機に直面している。サリー、黄金の平原サテライトの件について報告してくれ」

サリーCFOは、深呼吸をして心を落ち着かせると、慎重に言葉を選びながら説明を始めた。

「黄金の平原サテライトでの我々の案件が、突如としてキャンセルとなりました」

彼女の声には、わずかに動揺が滲んでいた。

「現地でクーデターが発生し、オルドサーヴィスがサテライトリーダーであるオルフィウスの実権を奪ったようです」

会議室内に、驚きと戸惑いの声が広がる。黄金の平原サテライトは、その名の通り、豊かな農業生産と金融取引で知られる重要な経済拠点であった。そこでの混乱は、サテライトシステム全体に波及する可能性を秘めていた。

リチャードは、眉をひそめながらサリーに詳細を促した。

「オルフィウスの状況は？」

サリーは続けた。

「オルフィウスは依然として統治機構の指導部に留まっているという情報があります。しかし、これが彼の意図的な行動なのか、それとも形式的な地位に過ぎないのか、判断が難しい状況です」

この報告を受け、会議室内の空気は一層重くなった。シルバーホライゾンは、サテライト内の均衡を保つ重要な役割を担っていた。その均衡が崩れることは、彼らの存在意義そのものを脅かすものだった。

リチャードは、深く息を吐きながら言った。

「我々の戦略は、根本から見直さざるを得ない。各位の意見を聞かせてほしい」

取締役たちは、次々と意見を述べ始めた。現地への調査団派遣、他のサテライトリーダーとの連携強化、さらにはエメラルドヘイヴンへの直接交渉など、様々な提案が飛び交った。

議論が一段落したところで、サリーが再び発言した。

「まずは正確な情報収集が不可欠です。特にオルフィウスの真の意図を探ることが重要だと考えます。その上で具体的な対策を練るべきでしょう」

リチャードは、全ての意見を慎重に吟味した後、決断を下した。

「サリーの提案を基本線とし、直ちに調査団を派遣する。同時に、他のサテライトリーダーとの連携を強化し、オルドサーヴィスへの圧力をかける。この危機を乗り越えるまで、全社一丸となって対応に当たることを要求する」

取締役たちは、厳粛な面持ちで頷いた。会議室には依然として重苦しい空気が漂っていたが、同時に新たな決意と団結の気運も生まれていた。

窓の外では、夕陽が完全に沈み、都市の灯りが瞬き始めていた。その光景は、シルバーホライゾンが直面する未知なる戦いの幕開けを象徴しているかのようだった。

リチャードは窓際に立ち、暗闇に包まれていく都市を見つめながら、静かに呟いた。

「我々の真価が問われる時が来たようだ」

その言葉には、危機に立ち向かう覚悟と、サテライトシステムの未来を左右する重責が込められていた。シルバーホライゾンの戦いは、今まさに始まろうとしていたのである。