オルドサーヴィス

第2話:影の支配者☑

黄金の平原サテライトの中心地、オルドサーヴィス本部。その重厚な石造りの建築物は、数世紀の歴史を背負うかのように威厳に満ちた姿で佇んでいた。風雨に晒された外壁には、無数の細かな亀裂が刻まれ、それは時の流れそのものを物語るかのようだった。


建物の最上階、組織の首領の執務室へと続く廊下。年季の入った扉が、重々しい軋みを上げて開かれる。薄暗がりの中から、一人の男の姿が浮かび上がった。オルドサーヴィスのヘッド、ダリオンである。


ダリオンの外見は、一見すると彼の内に秘めた戦略家としての才能を覆い隠すかのように粗野で無骨だった。灰色の髪は乱雑に広がり、深い皺の刻まれた顔は、長年の経験と苦難の日々を如実に物語っていた。その厳しい表情は決して緩むことがなく、まるで石像のような不動の威厳を放っていた。しかし、その鋭利な眼光は、闇を切り裂くように部屋の隅々まで届き、周囲の状況を瞬時に把握する洞察力の鋭さを窺わせていた。


ダリオンは、オルドサーヴィスの創設期から組織に関わる古参の一人であり、その歴史を深く刻んだ存在だった。設立当初、彼はまだ若手の有力者として頭角を現したばかりだった。当時のヘッド、故ヘクターに見出され、特別な指導を受けて育てられた。ヘクターの死後、その遺志を継ぎ、ダリオンは今もオルドサーヴィスの精神を守り続けている。


オルドサーヴィスの起源は、黄金の平原サテライトにおける秩序維持のための警護や警備にあった。サテライトとは、エメラルドヘイヴンという中央管理機構を中心として広がる、独立した生態系群のことを指す。各サテライトは、それぞれ独自の環境と経済活動を持ち、エメラルドヘイヴンとの連携を通じて存続している。


黄金の平原サテライトは、その名の通り、広大な黄金色の草原が特徴的な生態系だ。肥沃な土地と温暖な気候に恵まれ、農業と交易が盛んな地域として知られている。しかし、サテライトの発展に伴い、オルドサーヴィスの業務は多岐にわたるようになっていった。現在では孤児院の運営や風俗街の管理にまで手を広げ、サテライトにおけるその影響力は計り知れないものとなっていた。


オルドサーヴィスの本部は、黄金の平原サテライトの中心部付近に位置する古い石造りの建物だった。長年の風雨にさらされて風格を増した外観は、組織の歴史と権威を象徴するかのようだった。ダリオンは、その建物の最上階にある自身の執務室に腰を下ろしていた。


窓から見える広大な庭には、新たに加入したメンバーたちが訓練に励んでいる姿が見えた。彼らの動きは洗練されており、オルドサーヴィスの厳しい選抜と訓練の成果を如実に示していた。その様子を見守るダリオンの眼差しには、温かさと誇りが滲んでいた。彼にとって、オルドサーヴィスのメンバーは家族同然であり、その成長を見届けることが何よりの喜びだった。


「順調なようだな...」


ふと机に目をやったダリオンの低い呟きが、静寂を破った。彼の前には、各部署からの報告書が山積していた。中でも、ダリオンの目は孤児院の状況に関する報告書に釘付けになっていた。オルドサーヴィスが運営する孤児院「希望の家」はサテライト中心部からやや外れた位置にある。元々は街に溢れる未来ある孤児たちを保護し、オルドサーヴィスにとって見込みのあるものを育成するための機関であったが、直近での新規入所者の増加は、風俗街で働く者たちから生まれた子供たちの存在と密接に関連していた。この連鎖は、ダリオンが意図的に作り出したものであり、オルドサーヴィスの存在意義を強化する重要な役割を果たしていた。


「ヘッド、会議の準備が整いました」


部屋の入り口から聞こえた声は、ダリオンの側近であるジョシュアのものだった。若くして有能な彼は、ダリオンの右腕として重要な役割を担っている。ジョシュアの存在は、オルドサーヴィスの未来を担う若い世代の希望としても機能している。


ダリオンはいつの時代もこうして若手を側近として抜擢してきた。自身が故ヘクターに見出され、重用された過去を持つことも理由の一つではあるが、若い世代の希望として機能することを踏まえれば、経験の差などさほど重要なファクターとはならないと考えていた。何より、経験であればダリオン自身が補完できるのだ。


「わかった、すぐに行く」


ダリオンは重々しく立ち上がり、会議室へと向かった。彼の歩む姿には、オルドサーヴィスの歴史と未来への戦略が凝縮されているかのような威厳があった。


会議室に足を踏み入れると、既に幹部たちが集結していた。彼らはそれぞれが異なる部署を統括しているが、全員がダリオンの采配下にあった。中央に据えられた円卓の上には、黄金の平原サテライト全体の詳細な地図が広げられていた。地図上には、オルドサーヴィスの影響下にある地域が赤く塗られ、その広がりは驚くべきものだった。


「さて、報告を聞こう。」


ダリオンが席に着くと、その鋭い眼差しが幹部たちを射抜いた。緊張が走る中、各部署からの報告が始まった。


孤児院担当の幹部は、新入所者の適応状況と教育プログラムの進捗を報告した。彼らの言葉からは、孤児たちが将来のオルドサーヴィスの有力な人材となるべく、厳しくも計画的な育成が行われていることが窺えた。


風俗街担当の幹部は、収益の安定と取り締まりの効果による不正行為の減少を伝えた。彼の報告からは、風俗街が単なる享楽の場ではなく、オルドサーヴィスの重要な資金源であり、同時に情報収集の場としても機能していることが明らかだった。


ダリオンは各報告を熟慮しながら頷き、その頭脳では次なる一手へと繋がる戦略が組み立てられていった。彼の思考は、目の前の状況だけでなく、数年、数十年先の黄金の平原サテライトの姿までも見通していた。


「街の治安は改善しすぎてもいけない。炊き出しの頻度を下げ、浮浪者の小競り合いを誘発させる」


ダリオンの言葉には重みがあり、幹部たちは一言一句を逃すまいと耳を傾けた。彼の指示は明確で、今後の方針も揺るぎないものだった。この一見非情とも取れる指示の背後には、オルドサーヴィスの存在意義を維持するための冷徹な計算があった。


ダリオンは自らの信念と限界を理解し、何を守り、何を切り捨てるべきかを熟知している。その冷静な判断と、必要とあれば冷酷な決断を下す強さが、オルドサーヴィスを今日まで守り続けてきたのだ。彼の心には、故ヘクターの教えが息づき、その教えを胸に刻みながら、彼はオルドサーヴィスの未来を見据えて歩んでいた。


会議が終わり、幹部たちが退室すると、ダリオンは再び孤独な思索に沈んだ。その頭の中では、黄金の平原サテライトの未来と、それをどう支配し導くかの長期的な戦略が絶えず描かれていた。粗野な外見とは裏腹に、彼の内には老練な戦略家の魂が燃え続けていたのだ。


窓の外では、黄金色に輝く広大な草原が風に揺れていた。その美しい光景とは対照的に、ダリオンの胸中には、サテライトの秩序を守るための冷徹な計画が渦巻いていた。オルドサーヴィスの影の支配者として、彼はこれからも黄金の平原サテライトの運命を握り続けることになる。

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