探偵からの予告状

夜海ルネ

第1話 予告状を出すの!

「——だから、私から予告状を出すことにしたの!」


 月城中学校北校舎。放課後の、一年二組の教室にて。

 

 自称美少女名探偵・綾森沙知は自慢げにそう言い放った。ふふん、と胸をそらして両腰に手を当てている。


 それを聞いた瞬間、僕・成宮理玖は固まってしまった。

 彼女は何を言ってるんだろう。探偵が、犯人に予告状を出す、だって……?


「……は?」


 僕は思い切り首を傾げる。だけど彼女は「だ・か・ら!」とまたおんなじことを言ったのだった。


「この私が直々に、犯人に予告状を出すの! 内容はこうよ!」


 そうして彼女は後ろに隠し持っていた封筒から一枚のメッセージカードを取り出す。

 彼女はそれを自分の顔の前に掲げて、元気よく読み上げた。


「『最近この中学校で起こる不思議な事件の犯人さんへ


 私は美少女名探偵・綾森沙知です。この学校をめぐる謎を解決するため日々事件の解決を頑張っています。


 その中でも犯人さんの起こす事件はとっても難しくて奇妙なものばかりです。私はどうしても謎を解決せずにはいられません。犯人さんを捕まえるために、どうか協力してください。


 一週間後の文化祭で、犯人さんは何か事件を起こしてください。いつもみたいに難しい事件です。私は美少女名探偵の名に置いてその事件を鮮やかに解決してみせます。


 一週間後、決着をつけましょう。


 美少女名探偵・綾森沙知より』


どう? 完璧なアイデアでしょ!?」


 にっこりと満足げな笑みを浮かべて沙知は言った。う〜ん……これは参ったな。


「で、それに僕も付き合えって?」


「あったりまえでしょ! 理玖は私の助手なんだから。名探偵と助手はハッピーセットなのよ? こんなの小学校で習うことだわ」


「六年通ったけど、習った覚えはないなぁ……」


 そう。僕はなぜか、彼女の助手としてこの探偵ごっこに付き合わされている。いくら幼なじみだからって僕もかなりのお人好しだ。


 まあ、彼女を手伝う理由はそれ以外にもあったりするけど、それはまだヒミツにしておこう。


「ところで予告状を出すまではいいとして、一体どうやって犯人に届けるつもりなの? 犯人の目星はついてるの?」


 僕は少しドキドキしながら尋ねた。これで彼女が「もちろんよ!」なんて答えたら、僕としてはちょっと……いただけないから。


「何言ってるの、当てなんかないに決まってるじゃない」


 やっぱいつも通りだった〜〜〜!!


「そ、それじゃあいったいどうやって予告状を渡すのさ」


 彼女は強気な笑みを浮かべて「簡単よ」と言った。


「職員室前の掲示板に、この封筒を貼っておくの。犯人がそれに気づいて、きっと事件を起こしてくれるわ!」


 な……なんて、犯人だよりな予告状なんだ……。犯人がそれを見つけて犯行に及ぶ確証なんてこれっぽっちもないのに。一体彼女のあの自信はどこから湧いてくるんだろう……。


「ま、まあ、犯人が気づいて事件を起こしてくれればいいね……」


「起こすに決まってるわ! これは私の長年の経験による推測だけど——」


「キミ、探偵一年目のド新米じゃなかった?」


「いい? たいていこういう事件の犯人っていうのはね、挑発に弱いのよ。喧嘩をふっかけたら、す〜ぐやってやろうって気になるわ! 見てなさい、一週間後の文化祭はきっと充実したものになるから!」


「はぁ……」


 とにかく彼女はすごいやる気だった。もう、止めても言うことは聞かないんだろうなって思った。


「ふふっ、それじゃあ早速、掲示板に封筒を貼りに行くわよ! ついてきなさい!」


「あ、ちょっと待ってよ……!」


 たったか走って教室を出ていく彼女。僕は慌ててカバンを背負い、彼女の背中を追いかけた。




「よし、ここの掲示板なら昇降口のすぐそばだし、朝と放課後は必ず通るから気づかないはずがないわね」


 言いながら彼女は職員室前の掲示板にカードを入れた封筒を鋲でとめる。


 たしかにこの掲示板なら、生徒は必ず通る通路だから見つけてもらえる可能性は高いはず。だけどそもそも、彼女は犯人が学校の人だって分かっているのかな。


「犯人が学校の人であることは間違いないの? 外部の人っていう可能性は?」


「それももちろん考えたわ。だけど、外部の人がいちいちこの学校にイタズラを仕掛ける理由が見つからないし……。生徒や先生じゃなきゃ不可能な事件がほとんどだったから、その可能性はひとまず捨てたの」


「なるほどね……詰めが甘いな」


「ん? 何か言ったかしら?」


「いいや、なんにも」


 僕が首を横に振ると、彼女はなんでもないような顔で「それじゃあ帰りましょ! 話し込んでたら遅い時間になっちゃったし」と言った。


「うん。……悪いけど、トイレに寄ってもいい?」


「もうっ、トイレくらい先に済ませておいてよね。分かったわ、昇降口で待ってるから」


 彼女がいなくなったことを確認して、僕は——彼女の用意した封筒に、ちょっとした細工を仕掛けた。

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