第4話 あどみにすとれーたー、降臨

「……うおっ!?」


 い、いつの間に…

 身体が少しふわっとしたかと思えば、渋谷のスクランブル交差点のど真ん中にいた。


「うわ、すり抜ける…」


 スクランブル交差点で人がぶつからないのは日本の七不思議の一つだが、そういう問題ではない。

 人に触れようとすると、その身体をそのまま通り抜ける。

 俺、マジで人間じゃなくなったんだな…。


「身体を動かす感覚は、そこまで変わらないな。

 でもこの身体だし、もしかして浮いたりとか……うおおっ!?」


 う、浮いたっ!マジでできちゃったよ…。

 すげえ、これが神……というか、どちらかと言うと、今のところはただの幽霊だな?


「でも、見えているのは人間だけのようだな。幽霊らしき存在は見当たらない。

 神って、この程度の能力しかないのか?」


 …いや、降り立ってすぐだ。まだ何かある筈…。

 少し、この辺りを徘徊してみよう。


「おお、おおおーっ!気持ちいい〜っ!」


 すげええ!霊体だと、こんなにも自由なのか!!

 ビル群をすり抜けていくの爽快だなぁ~!

 初日だし、今日はこれで終わってもいいかもな〜。


「うええええええっ!あどみぃぃん!!!!」


 っ!?

 …マンションをすり抜けた瞬間、なんだか野太い泣き声が聞こえたぞ。


 俺にはわかる、いわゆるV豚と言われている人間だ…

 投げ銭されたところで意味ないし、無視しよう…


「はっ!?いまあどみんの気配が!!」


 聞こえない聞こえない!さっさと遠くに行こう。

 アドミの抱き枕があったのは、見なかったことにしよう…


 …全然快適じゃねえ!そこら中から、俺に対する嘆きの声が聞こえてくる。

 俺が失踪した今、世間の一部はざわついているようだ。

 特に俺のファンだった人間は、嘆き悲しんでいるようだった。


 これを機に、自立してくれるといいが…

 自殺だけはするなよ。



 ちょっとだけ疲れたな。

 浮遊はやめて、腰掛けるとしよう。


「あら!かわいいわね~~♡」


 ………ッッ!!?!!!???


 俺が…視えるのか!?

 そりゃそうか、そういう人間もいるもんな…油断した。


「こんなえっちな格好した女の子、初めて見た♡

 食べちゃおうかしら♡♡」


 …やばい!!

 こいつは危険だ。早く逃げないと…!


「あら、逃げちゃった♡♡」


 怖い、人間界怖いっ!

 俺、神になったんだよな?管理する側だよな!?

 俺はこの変態共をサポートしてくってのか!?


『ほっほっ。アドミよ、地球を楽しんでいるようで何よりじゃ』


 ゼ、ゼヴァー…

 ええ、神になって初めて、俺が生きてた世界が狭かったことを実感したよ。


『お主、いつまでたっても気づかないようじゃから、こちらから話しかけたぞ』


 …?

 一体何の話ですか?


『ふむ、慣れないのも無理はないが…

 まず、人間達の頭上に意識を集中させてみよ』


 え?こ、こうか…?


 !?なんだコレ!?

 何か、黒色の球体が…節々に白色もある?


『その球体、どこかで見なかったかのう?』


 …!!!

 まさか、地球に降り立つ前に見た、あのゲージ…?


『その通りじゃ。

 頭上に浮かぶ球体は、その者の魂を簡略的に可視化しているもの。


 黒色は、何かに依存して生きている者。

 白色は自立し、自分の力で生きている者を指す。


 今の人間社会は、支配者による支配構造。

 何かに依存している人間の割合が高く、自ずと黒ゲージである者が多い。

 その中でも、自分の軸を確立し、社会に振り回されない力を持つ者は白ゲージじゃ。


 ゲージの量はそれらの度合いとなり、

 満たされていれば、良い意味でも悪い意味でも、迷いがない者。

 空に近ければ近いほど、どちらかに傾きやすいのじゃ。』


 なるほど…

 球体の大きさも人によって違うようだけど、これは?


『それは、その者が持つ力の大きさじゃ。

 大きければ大きいほど、力が強い。

 ただし、それは絶対的な大きさではない。

 其の者自身の経験に左右され、膨張することもあるが、縮こまったりもする。


 何か強烈な体験をしたものは、球体の大きさが変化しやすい。

 ……おっ?先ほどお主が豚と罵っていた男…

 あやつがいい例じゃな。ちょいと移動させるぞ』パッ!


 !?うわああああ!!!見なかったことにしようとしたのに!

 アドミの抱き枕があって、ポスターが壁を埋め尽くして、フィギュアが台の上を埋め尽くして、デスクトップの画像が……ひいいいぃぃ!!!!


 鳥肌が止まらんっ…いや、こんなに貢いでくれていたのは嬉しいけどっ、執着しすぎだって…

 こんなやつ絶対に、黒ゲージ……


「…俺がっ、あどみんの敵を取るんだッ…!!!」


 …!?

 白だ……!

 しかもこんな大きな球体で……嘘だろ!?


『此奴はつい最近まで、相当大きな黒色だった。

 それがお主の失踪をトリガーに、同等の大きさの白色に変貌したのじゃ。


 こんな風に、どんな人間でも経験一つで変わるものなのじゃ。

 此奴にとって、お主の失踪事件は、まさに”人生の分岐点”だったのかもしれんな。


 ただし、経験一つで変わるのが人間じゃが、そう簡単に変わらないのも人間である。此奴がこうなったのには、それなりの理由があるのじゃ。


 それは、お主が此奴よりも大きな、白の球体を持っていたからなのじゃ』


 …!!!

 なるほど、球体が大きければ大きいほど、人に与える影響も大きいというわけか!


『そうじゃ。この球体の大きさは、単純な強さ・弱さで決まるものではない。

 様々な要素が加味された、絶対的な指標なのじゃ。

 シンプルに大きな球体を持つものが、それよりも小さな球体を持つ者を制する事ができる、と思っていれば良い。』


 …ゼヴァー。

 恐縮だが、俺は”絶対”というものは、この世に存在しないと思ってる。

 本当に”絶対的”なのか??


『…流石じゃな。

 お主の言う通り、厳密に言えば絶対ではない。

 極稀に、例外もいるんじゃが…今は気にせず、活動を行えば良い』


 …そうですか。

 じゃあ俺は、いつでも”例外”に遭遇してもいいよう、修行頑張ります!


『ああ、その意気じゃ、期待しておるぞ。

 ……??、ッッ!?!??』


 …っ?

 ゼヴァー?どうされたんですか?


「あら、こんなところにいたのね♡」


 っ!?あの変態女にまた出くわした!!


「はあ~~♡

 その可愛いおしり、しばき回したいわぁ…♡♡」


 やめろっ!確かに見た目はメスガキだが、分からせなくていいから!!


 …って……?

 な、何だ?この女の球体……?


『アドミ!!今すぐその場から去れ!!!』


 ッ!!!

 やっぱりやべえ女だったかっ!!

 うわあっ!?


「うふふふ、捕まえたぁ……

 …あら?あなたの背後に、なんだか凄い気配…


 ふふっ、今回はこれぐらいにしていてあげる♡

 また会いましょう?♡」パッ!


 ッッ!はぁっ、はぁーっ…

 腰をがっつり掴まれて、何やら獣の目で見られていた…

 ゼヴァーがいなかったら、危なかったな…


 ゼヴァー、あの女は何者なんですか?


『…“例外”じゃ。意識を凝らして、ようやく気づいたわい。

 今、お主はあやつの事を知らなくても良い。


 とにかく、お主は今やることをやればよい。

 人類を救う活動を行うのじゃ!


 まず、先ほど儂が伝えた法則を参考に、一人目星をつけよ。

 其奴に干渉し、より多くの人間を”白”に変えるのじゃ。』


 …という事はつまり、まずは球体が大きい奴を探せばいいわけか。


「あどみん…あどみん……」ブツブツ…


 ん?なんだあいつ?

 球体は滅茶苦茶でかいが、中身が完全に空っぽだな…?


「数万年前の”管理者”があなたを救います…?

 馬鹿馬鹿しくてやってられねえよ。

 僕の中での”管理者”は、あどみんだけだよ」トボトボ…


 って、おい!あいつまさか!!


『ふむ、“虚無”状態からかなり時間が経過しておるのう…

 全てがどうでも良くなり、飛び降り自殺を図ろうとしている!奴を止めるのじゃ!』


 で、でも、この身体では触れられないっ!

 ぜヴァー、一体どうしたら…!


 『其奴に意識を向けるのじゃ。

 そうすれば、霊感がなくとも姿を見せることができる。

 見えない存在を視認できれば、一旦は立ち止まる筈じゃ!』


 わ、分かった!やってみる!

 飛び降りるなよ、まだ飛び降りるなよ…!!


「……。

 ………!?」


 !!認識してくれたみたいだ。

 さっき俺のことを呟いていた。きっと俺が失踪して、希望を失っていたのだろう。

 よし、ここは“アドミ”として、話しかけてみよう。


「おい、人間」


「うそだ……あどみんっ!!!」

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