決闘③
ワルダート、あの男の魔法の正体は絶対的な強さ、この場合だと武術においての他を寄せ付けない圧倒的な強さを得ることが、あの魔法が織り成す最終的な効果なのだろう。
魔法を使用すると長年武を極め続けた達人ですら習得ができない技術の数々を、容易に扱うことが可能になる。それは武術においての基礎的な技術も入っているし、一概に強力な技だけの話じゃない。
体の基盤の頑強化、身体能力の上昇、世界に存在する武術の基礎から常人じゃ習得不可な奥義に分類されるものの魔法を使用した際のみ再現が可能になる、基本的なワルダートが魔法使用時の恩恵を並べ立ててみた。
文字通りこれはヤバイ、魔法としての格は顕現の段階まで行った魔法の中では最強クラスと言ってもいいだろう。
武術の流派の最強格の奥義をほぼほぼ無条件で使用できる、それも世界中に現存するものすべてだ。
この国でワルダートに誰も敵わなかったのも納得だ。
めっちゃ強い達人とめっちゃ強い達人を足したら何になる、メチャクチャ強い達人になるよな?
魔法を使用している時のワルダートはこの国の騎士団長よりも強いだろうし、他国でもこいつに勝てる魔法使いはいるだろうか……。
傲慢になるのもしょうがないということだな。
「あっぶね!?」
ファルはワルダートが放った拳を紙一重で避けた。その拳が通り過ぎると暴風とも呼べそうな風がファルの髪を吹き抜ける。
激しい足さばきで後ろに後退しようとするが、ワルダートは攻撃を緩めることはせず、激しい連撃を繰り出してくる。
(ほんとに、余裕がない)
息つく暇もないその攻撃の数々にファルは少し押されていた。別に厳しい状況というわけではないが、反撃の手段もなく、ひたすらにワルダートの攻撃を避けたり大太刀で受け流していく。
ワルダートは本気ではないのか、まだ余力があるようにも見受けられる。
「おい、貴様」
ふと、攻撃が止んだ。
「どうかしたか、おっさん」
「なぜ攻撃をしてこない」
「魔術を行使してもいいが、最適な攻撃手段を考えているところだからな」
「お前が『希代の英雄』なのだとしたら、私に対してもう少し善戦をすることも可能なはずだ。もしかして本当にデマだったのか…」
(負けるとは言わないんだな)
よほど自分の実力に自信があるのか、ファルは呆れた眼差しでワルダートを見つめた。
それにしてもワルダート、気づいているか?俺の言葉に、最初俺は手加減をする的なことを言っていたことを。
そう、ファルは魔法を一切使っていない。あくまで使用しているのは魔法の副次的効果を駆使して戦っている。
ワルダートが全力でもなかろうが、その底は知れている。
魔法を極める際、ワルダートが持つ魔法は俺からしたら優秀とは言えない。
あくまでそれが強いと言えるのは顕現の段階までだ。
顕現よりも上の段階に到達した者は決まって肉体の限界を超える。それは俺も同じく、所謂超越したと言えるのかもしれない。
ワルダート、あんたも薄々わかってるだろ。何かがおかしいって。
依然として攻撃を繰り出してきているのに俺が深傷らしい深傷を負わないことに、内心では強く疑問符を浮かべていることだろう。
さぁ、ピースは揃った。これで心置きなく奴を完封することができる。
◇
《Side ワルダート・ヨルフェイク》
おかしい、何かがおかしい。
それに私が気づいたのは戦いが始まってから随分と遅い段階だった。
私が目の前のファレオール・シュリーブスが『希代の英雄』であるという噂をデマだと判断付けてから数十秒後、この絶対的な違和感にようやく気づくことができた。
まず一つ目、私は徐々に魔法による恩恵の効果割合を上げていっている。最初は20%ほどだったのを今では40%ほどに、ほぼ2倍分上がっているとも言えるのに、最初の攻撃で吹っ飛ばされていたファレオールが未だにこの決闘で戦い続けることができている事実に私は深く違和感を覚えた。
(ギアを上げているのになぜ倒れない……)
なぜ深傷の1つもない負う気配がない、と毒づいた。
ファレオールが何らかの魔法を使っているのは濃厚、今のスピードで動くことは騎士団長ですら厳しい。
幾十年か前の騎士団長なら可能だったかもしれんが。正直当時の騎士団長は私ですら読み切ることができなかった。まだ魔法の顕現に至らなかった段階だったせいもあるが、今はそんなことなどどうでもいい。
要は相手が確実に魔法を使っているということ、その上で私の本気には遠く及ばないだろうということ、この二つが揃っているならば恐れる必要など一切ない。
だがやはり違和感は消えることがない。最初に攻撃を食らったことは一体なんだったのだろうか、下手をしたらとんでもない威力の攻撃が来ていた可能性もあるのに、そんな愚者がするような……、そういえばこいつは舐めプをするとか言っていたな……。
なるほど、道楽にすらならなかったか…。
私は心の中で納得させた。
ギアをさらに上げる、60%、奴ですらもう反応することができないだろう。
上がってしまったスピードに反応することもできずに沈む、はずが、また順応した。
上がったスピードについてきて、かつ、すべての攻撃を避け、受け流し、捌いていく。
もはや魔法だけで完結することができないほどに凄まじい技術。
達人すら超える大太刀の扱いに関しては、目を見張るものがある。
私がこの魔法以外のものを習得していたならば、おそらく負けていた可能性が高い。
真面目で実直な男なら部下に欲しいが、こいつは『希代の英雄』を愚かにも名乗ってしまった。
非常に残念だが、この男がそんな英雄ではないことを貴族社会に広めてしまうことにしよう。
私は一気に本気を出そうとして、止めた。
私の攻撃を捌いていくことしかできなかった男が、突然消えたのだ。
魔法の恩恵により気配を容易に察知することができたが、舞台端の方に移動しているが、認識できない速度で動いたようにしか考えられないほどに、一瞬でその場に移動していた。
心臓の音が加速した。
違和感の溝が一気に深くなった気分だ。
振り返る、その姿を見た。
大太刀を右側の頭上に持っていき、横に構えている。
そして直立しているようで、とても綺麗な佇まいでその場に存在している。
「あれは……」
私は、あまりの驚きの光景に小さな感嘆の声を漏らした。
何人かの観客も同じようで、王や宰相、騎士団長は大きく目を開いて愕然としている。
あの構え、あの雰囲気、あの眼差し、すべてが線で繋がっているような錯覚を覚える。
あれは門外不出のはず、何て言葉は漏らすことができない。驚きのあまり決闘の最中にも関わらず呆然としてしまっているのだ。
だがそんなものは、奴の放った殺気に吹き飛んでしまう。
「さぁ、アンタはこれに耐えられるかな?」
ファレオール・シュリーブス、私は何か大きな見落としをしていたのだろうか。
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