大大大学生

偽泥棒

大学生エッセイの平均

 ドアを開けて、鍵を閉めて、駐輪場へ歩いて、鍵を閉め忘れたような気がしてドアに戻って、やはり閉め忘れていたので鍵をかけて、駐輪場へ歩いて、水筒を忘れていたことを思い出して、急いで部屋の前まで戻って、鍵を開けて、水筒を取って、中身が入っていなかったのでお茶と氷を入れて、ドアを閉めて、駐輪場へ歩いて、自転車の鍵を開けて、大学へと向かった。

 講義が終わり、図書館に寄って自習して帰ってきたところ、部屋の鍵は開いていた。


 適当に夕食を食べて、洗い物をこなし、シャワーを浴びる。こっちへ引っ越して来てから浴槽には浸かっていない。労力と報酬が見合っているように思えなくて、どうしてもやる気にならない。

 全部終わって休憩を始める。小説を読んでいたら眠くなってきたので中断。セックスがしたくなってくる。でも相手がいない。一人ではしない。ポルノはグロいし、妄想は恥ずかしい。

 全部辞めて寝たが、次の日は早く起きれなかった。重たい身体を無理やり動かして、牛乳を飲み、ご飯を食べて、歯磨きをして、ドアを開けて、鍵を閉めて、また昨日のくだりの繰り返しだ。毎日それを見越してアラームをセットしているので、講義に遅れることはない。

「おはよう、今日本当に暑いね」

 一限の講義が終わって、人から話しかけられる。そこから続く会話よりも、彼の右頬に乱立する無様に剃り残した髭の方がおもしろかった。当然、口には出さない。彼のことは嫌いではない。だが、好きでもない。


 目が覚めて寝て、目が覚めて寝て、目が覚めて寝て、目が覚めて寝て目が目が目が目目目目。瞬きのように毎日が消えていく。これが永遠に続く、生きている限り。

「永遠に? 本当にそうなんですか?」

「ああ、君はずっとこうして生きていくんだ」

「ちょっと嫌ですね。飽きてくる」

「いや、飽きないさ。案外つまらなくないだろ」

「そうでしょうか」

「もちろん。めくるめくスペクタクルなんて、君は疲れるだけだよ。このぐらいがちょうど良いんだ」

「まあ、そうとも言えますが」

「素直になればいいのに」

「毎日の繰り返しに一体何の意味があるんでしょうか」

「意味を考えすぎると疲れるからね。何かがその意味を持っていること自体には、意味がないんだ」

「意味が分かりません」

「そうか。ところで、私が誰か聞かないのか」

「結構ですよ。これは夢だ」

 起きると、全部忘れている。夢オチ上等、今日も生きている。多分明日も生きているだろう。そういえば、午後からバイトか。その前に課題を進めておこう。


 苦痛は娯楽で、陳腐は幸福だ、みたいなことを言いたい。だけどそれを言い切るにはまだ、あまりに、若すぎる。

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