現人神の旅路 ───普通の学生だった俺が、神の力を得て。
白福
第一章
第1話 因縁のモンスター、出現
───世界は風が吹き荒れ、闇に包まれていた。
なんでこうなっているのか。世界の誰もがそんなことを考えた。だが、すぐにその考えも失われる。
だって、直ぐに消えてしまったから。
ごうごうと風が鳴る。建物が飛んでいく。星も見えない空に人々は祈った。
───嗚呼、助けてくれ。
そんな願いをあざ笑うように、黒はさらに勢いを増していく。絵を塗りつぶすように、闇が空に広がって、人々を吞んでいった。
悪魔の所業とでも言うべき蛮行が行われるも、光は直ぐに灯った。
三つの光が、世界全体を照らし、そして───
俺の名前は、風見玄春 (かざみ くろはる)。
風の魔法を扱う、ごく普通の中学三年生。いや、人と違っている所が一つある。
それは、四歳の時に出没した魔物によって猟師だった両親を殺され、父方の叔母である、蒔絵さんの家で居候していること。
当時は悲劇の少年としてテレビに乗ったりもしたが、過去の話だ。今やそんなことは生活に禍根も残さず、普通に暮らしている。
「はぁ~進路、どうすっかなぁ……?」
「お前、少し勉強できるんだから、公立行けば?」
こんな風に、友達と中学校で進路について悩めるくらいには。
「ありがとうございましたー」
ガヤガヤ、ガヤガヤ。礼を済ませてすぐ、辺りは喧騒に包まれる。
「玄春ー、今日遊ばん?」
「あぁごめん、今日はパスで」
いつもなら全て忘れて、遊びに行けるのだが。今日は進路で頭を悩ませていたのもあってか、不思議とそんな気持ちにはなれなかった。
「分かった。じゃ、また明日な~」
友達と別れを済ませ、駅のホームに向かう。丁度来た準急の列車に乗り込み、家に帰る。おばさんも、仕事をしながら俺を養ってくれている。両親の遺産もあるけど、それでも女手一つで俺を育て上げてくれたのだから、感謝しなければ。どうせなら、寮のある学校に行きたいな……それならば、蒔絵さんの負担も、幾分ましになるだろうか。
そんなことを考えながら、いつの間にかついていた家の最寄り駅で降りる。
駅のプラットホームからでると、外がいつにもまして騒がしかった。何かあったのだろうか?
警察が、人々の避難を進めていた。
「おい、押すなよ!」「早く、逃げないと!」「落ち着いてください、皆さん!」
いつもの穏やかな街に、声が飛び交っている。警察もかなり焦った様子だった。
人々の中に、蒔絵さんを見つけた。蒔絵さんも俺に気づいたようで、こちらに駆け寄ってくる。
「蒔絵さん!いったい何があったの?」
「モンスター、町に、急にモンスターが出没したの!しかも……トロール。早く逃げるよ!」
おばさんの言葉に、体が冷えていくのを感じた。脊髄から、冷気が伝わってくる。でも、血は煮えたぎるように熱かった。
トロール、十年前に俺の両親を殺した、あの魔物。
「ちょっと、あの子は、あの子はどこなのよ!」
フリーズした俺の脳を、女性の叫び声が劈く。
「あの子、あの子はどこに行ったの!?私の真子は!」
「お、落ち着いてください!」
糾弾する女性を、警察がなだめる。そんな女性の様子を見て、俺の足は、自然に駆けだしていた。
「ちょっと、どこ行くの!駄目よ、玄春、玄春!」
蒔絵さんの叫び声が背中から聞こえる。
でも、俺の足は止まることがなかった。何かに導かれるようにして、全てを破壊しつくす音のなる方へ必死でかけていく。
いつもの大通りに出ると、緑色の肌をした巨人が、小さな女の子に迫っていた。きっと、さっき必死になって叫んでいた女性の娘なのだろう。
───これが、八年前、俺の両親を殺した魔物。そして、俺の運命を変えた、元凶。
「い、いや、やだぁぁぁぁぁ!」
怪物が女の子に向かって棍棒を振り下ろす。瞬間、世界がスローモーションになる。叫び声だけが正常に脳内を通過する。助けなきゃ、このままじゃあの日と同じだ───
「エア・カッター!」
とっさに出した風の刃が、の後頭部に直撃する。
だが、トロールは血一つ流さず、俺の方をゆっくり振り向いた。
「グギャアア!」
トロールが怒りで顔を歪ませながら、こちらに迫ってくる。それを俺は、必死の思いで躱した。そのまま勢いを止めなかったトロールは、そのまま近くの家に激突した。
俺の後ろにあったコンクリート塀が、音を立てて瓦解していく。
(食らったら……死ぬ!)
そう考えて初めて、俺の脳内に死の文字がよぎった。冷汗がたれ始める。だけど、もうここまで来たからには、引き下がれない!
「バレルジェット!」
トロールの頭めがけて、風の魔法を連発する。しかし、トロールには効果がある素振りもない。
「グォォラ!」
トロールが足元に棍棒をたたきつけると、石が周辺に飛び散る。大きな石の破片が、俺の足元に直撃した。
「クソ、痛っ……!」
─それが、隙だった。次の瞬間、トロールが俺の腹を蹴っ飛ばす。俺はコンクリート塀に衝突し、血を流したままそこに座り込んだ。
俺に興味をなくしたのか、トロールはまた女の子の方に向き直る。
「誰か、誰か助けてえぇ!!」
女の子は、今でも、肩を震わせて泣きながら、必死に助けを呼んでいる。
「クソ、障害物が……クレーン車持ってこい!」
遅れて駆け付けた警備隊が、散らばる建物に邪魔され、動けなくなってしまい、焦っている。
あぁ、動け、動けよ、この足!あの子を助けられるのは、俺しか居ないんだから。だから、立てよ、立てってば!動いてくれよ!
俺が心の中で叫び散らかしても、この状況は打開されない。
今まさに、あの子はトロールに殺されてもおかしくない状況だった。
(あぁ、あの子、守ってあげられなかったなぁ。ごめんな。お父さんお母さん、あなたたちとと同じ死に方しちゃって、ごめんなぁ。神様、どうか……あの女の子だけは、助けてくれますように)
俺が心の中でつぶやくと同時に、意識が途切れる。沈み込んでいくように、何も考えられなくなっていく───
───起きろよ。あの子、死んじゃうぞ。
俺ではない誰かの声に、俺は目を覚ます。そこには、真っ白の空間と、金髪長髪で、白い布を巻き付けたような服を着ている、美青年がいた。
「お前、誰だよ?」
余りに異常な光景に、俺が疑問の声を漏らす。
「う~ん、説明が難しいんだけど、君たちの世界でいう、神様みたいな存在かな?ゼウスって呼んでおくれ」
美青年の声が、辺りに響き渡る。痺れるような甘い声で、彼の言葉が頭に直接しみ込んでくるような感覚に見舞われる。
「神様が、俺に何の用だよ?」
「そうかそうか、まずそこからだね。単刀直入に言うと、君は今、生死の狭間をさまよっている。そこにあった魂を引っ張り上げて、この空間に呼んだのが僕さ」
「魂、吸い上げる……」
色々と気になるところはあるが、そもそもこの空間自体が異常なのだ。一々気にしていたら話が進まない。
「そんで、なんでここに呼んだんだ?」
「───今、悪神……ロキが、この世界を破滅させようとしている。この世界に魔物っていう概念を生み出したのも彼だ」
瞬間、ゾクリと体に悪寒が走る。魔物を生み出した?本当だとすれば、とんでもない力を持った存在じゃないか。俺の顔がこわばったのを知ってか知らずか、彼は淡々と言葉を紡ぎ続ける。
「一億年くらい前、僕が封印したんだけどねぇ……その封印が解けて、悪神が世に解き放たれようとしているんだ。ずばり、君にはそいつを討ち倒してもらいたい」
「ちょっと待てよ!なんで、よりによって俺なんだ?」
自慢じゃないが、俺は魔法の腕も平凡、運動神経も平凡だ。なんで、そんな俺を選んだのか。
そんな俺の疑問に答えるように、ゼウスが口を開く。
「君の体には、神と適合する因子がある。運命か、神の悪戯かはわからないけどね。本人が望むまで、神は個人に干渉できない。現に、君が神に力を望まなかったから僕は今日まで君に語り掛けることができなかった。でも、君、死に際に神様って願っただろ」
「でも、俺にそんな力は……」
「これから僕が与えるんだよ。君の体に、僕が宿る。君は、現人神になるわけだ。悪神を倒す相応の力は、君が修業をすることで僕の力を引き出せるようになって、初めて僕を顕現させる器として目覚める。もちろん初期段階でも今とは段違いの強さを与えよう。」
「わかった。つまり、俺に力を与える代わりに、俺に宿になれと」
正直、魅力的な提案だ。だけど、どうしても確認しなきゃいけないものがある。
「───俺がお前を宿せば、あの女の子を救えるか?」
ゼウスが即答する。
「勿論さ!そのために、僕は君の所にやってきたんだから!」
「よし、契約だ!悪神でも、何でも討ってやる!だから、力を貸せ!」
「了解!なら急ぐよ!」
そこで、視界がホワイトアウトする。現実世界に戻る。もう痛みは無くなっている。気が付けば、俺は自然と立ち上がっていた。
「グギャ?」
トロールもこちらに気づいたのか、不思議そうな表情をしている。それを見た俺の体から、暴力的な風の魔力があふれだした。
「グギャァァァァ!?」
トロールでさえ吹き飛ばすような、魔力の奔流。
「さぁ、始めようぜ!下衆魔人!」
そして、俺のリベンジが。そして悪心を打ち倒す、壮大な旅路が始まったのだった。
ここまで読んでくださり、誠にありがとうございます。
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