俺のヒーロー

@jfyjdfgs

第1話 俺がなりたいヒーロー

「ねえヒロ!昨日のプイキュア面白かったよね?」

「面白かったから話始めたら、面白くなかった時の話が楽しめないと思うんだけど」


 隣を歩く彼女、夢見魔奈から抗議の目を向けられながら、学校に登校している俺の名は夢無英雄、名前の読み方は英雄と書いてヒロ、英雄とヒーローをかけた、いわゆるキラキラネーム?ってやつだ。


「今週のプイキュアの見所はパープルがベージュと力を合わせた時が一番だったよなあ」

「何で話をまとめたの⁉それこそ楽しめないじゃん!!それに見所はそこだけじゃないんだからね!」


 魔奈=マナはアニメ全般好きだが、一番好きなのはプイキュア。幼い頃から好きで、俺も幼い頃から見ていたが、今はマナと話を合わせるために見ている。マナのプイキュア好きの熱は変わってない。俺からしたらよく同じものを好きでい続けられるなと感心する。


「マナは将来、プイキュア関係の職業に就きたいと思ってるの?」

「うーん、就ける事にこしたとはないけど、そこまで強い意志ははないかな。ヒロだってワールドカップの時にサッカーの話するけど、サッカー関係の職に就きたいとは思ってないでしょ?」

「俺がサッカーの話をするのはワールドカップの時だけだからな」


 好きなことと、やりたいことは別、か・・・


「なあマナ、例えばこんな風にー―」

『特別な力で悪い怪物をたおさないカ?』

「へ?」


 俺は目の前に現れた、ピンク色の喋る?ぬいぐるみに、間髪入れず蹴りをお見舞いした。

 ぬいぐるみは住宅街の壁を派手にバウンドしながら、目の前のT字路に落ち着いた。


「ななな何してるの⁈」

「何って、喋るぬいぐるみに変なことされないように距離を取っただけだ」

「ぬいぐるみからしたら無理矢理距離を取らされただけなんだけど⁉」

「お前はどっちの味方なんだ?いいから、警察に通報したら遅刻しないように学校に行くぞ」


 俺はスマホを取り出した。警察に通報しようと思ったが、学校に行く、この場から離れるなど、他にもやらなきゃいけない様なことが頭の中を駆け巡り、スマホを鞄にしまった。ぬいぐるみの方をずっと見ているマナの手を取り、俺たちは動かなくなったぬいぐるみの横を通って、学校に向かった。



「今日様子がいつもとおかしかったけど、何かあったのか?」

「もし、ぬいぐるみが喋ったとしたらお前は信じるか?」

「何か、あったようだな・・・」


 俺の非現実的な体験に、真摯?に耳を傾けてくれたこいつは早乙女香月。小学校からの腐れ縁だ。


「そのぬいぐるみはどうしたんだ?」

「蹴っ飛ばしてそのまま置いてきた」

「蹴っ飛ばしたのに置いてきた?持って来いよ!」

「ああ、そうすれば良かったな。帰り道にまだあったら明日持ってくるよ」


 *


「ごめん!今日用事できたから一緒に帰れそうにない」

「そうなんだ、分かった。また明日」


 マナはそう言って走って下校していった。よっぽど大事な用事ができたのだろう。俺もマナの後を追う形で下校していった。用事は無いのでそのまま家に直行だ。

 香月との会話を思い出し、ぬいぐるみを回収していこうかと思ったが、ぬいぐるみ

 は同じ場所になかった。周囲を見渡したがぬいぐるみは無かった。誰かが持って行ったのか、風で飛ばされたのだろう。


 *


 夕食後、今週の土日休みにマナとどこかに出かけられないかと思い、マナに電話をかけた。


『もしもし』

「マナ、用事とかは大丈夫だったのか?」

『用事?ああ、うん。大丈夫、もう終わったから』

「良かった。今週どっか出かけないか?」

『いいよ、いつもの場所でいい?』

「うん、じゃあ土曜日の9時に」



「まったー?」

「待ってないよ」

「いいや待ってたね。こういう時は待ってたって言うのが定石なんだよ」

「それなら、今の話の流れを掘り返さないのも定石だよな」

「うぇあ?」


 マナが相づちとも言えない奇声を上げた。


 俺とマナはカフェに行こうと少し歩いていたら、街道の方が騒がしかった。

 街道に向かうと事故でもあったのか、地面や建物が壊れていた。

 破壊されていた街中の中心には大きな黒い物体が佇んでいた。

 その大きな物体はぱっと見、熊に見えなくもないが、熊らしい可愛らしさは微塵も感じられなかった。大きさは3M?いや5Mくらいあってもおかしくなかった。

 腕はゴリラみたいな形をしていて、その器用な腕で近くにあった車を鷲掴みし、数十M離れているこちらに投げつけてきた。


「マナこっち!」


 俺はマナの手を引き、建物の影に移動した。飛んできた車が建物に当たったが、俺たちは無事だった。


「何だあれは⁉」

「化け物以外にないよあんなの!!」

「そんなことは分かって・・・ん?」


 俺はここに来てからの違和感が強く感じた。その強い違和感の正体は・・・


「人がいない・・・?」


 今の今まで人がいないことに気がつかなかった。どうりで悲鳴などが無かったわけだ。

 そこで俺はふと、ある疑問が思い浮かんだ。どうして俺たちは人がいないこの場に来たのか?それは騒ぎを聞きつけたから。だが人がいない所に来た。


「ヒロ!」

「ああ、俺たちも逃げよう」

「違う!そうじゃなくて!!」


 俺はマナの方に向き直り、そして化け物がいたところを見ようとして・・・

 鈍足そうな熊の化け物が俺たちの数M先にいた。

 化け物は俊敏に動き出し、大きな片方の腕を振りかぶった。

 マナが化け物から庇うように俺を後ろに引っ張り、俺はそのまま尻餅をついた。マナはカバンを盾の様に構えた。そこに化け物の振りかぶりが当たる。マナは俺の背後、数Mまで飛んだ。マナの頭から血が流れていた。


「マナ‼」


 俺は倒れているマナの元まで駆け寄った。背後に熊の化け物がいる。

 どうして俺たちは人が出払って、無人の街中で暴れている化け物の所に行ったのか。

 疑問と後悔の入れ混じった感情のままに、背後にいる化け物に向き直った。どうしてこの化け物に殺されなくちゃいけないのかと。


『特別な力で悪い怪物をたおさないカ?』


 マナのカバンから、今朝、蹴り殴ったピンク色のぬいぐるみが出てきた。


 分からないことだらけだ。喋るぬいぐるみ。熊の化け物。マナのカバンから喋るぬいぐるみが出てきた。


「どうやって?」


 俺はこの状況を打開するための救いをぬいぐるみに求めた。


『力を得る方法は、君がなりたい、力を持った超能力やヒーローをイメージするんダ』


 俺がなりたいヒーロー・・・?


 熊の化け物がまた腕を振りかぶった。背後にはマナがいる。


 化け物が振るった腕が俺に直撃した。直撃した腕を俺は自分の腕で防いでいた。


『それが君のなりたいヒーローカ』


 防いだ俺の腕は細伸だ。足も細くなっている。

 俺は防いだ腕と反対側の腕に力を込めた。俺の胸に出てきた、三つの玉の内一つが光った。力が湧いてくる。漲った力を目の前の熊の化け物に対して、正面から叩きつけた。

 物凄い衝撃が起き、化け物が向こう側の建物を破壊する勢いで突っ込んでいった。


「ハア・・・ハア」


 さっきまで俺がいた所には、スカートを履いて、髪がロングになっており、全身がピンク色の装飾に彩られた10代後半の女の子が立っていた。


『それが君のなりたいヒーローなんだネ』


 俺は魔法少女になっていた。













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